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第94話 アルヴィンの旅行日記 6

少し遅くなりました!

 街の中で奴隷の脱走事件が起きているというノースフリードに到着した俺は王国騎士団の詰め所がお隣さんという宿に直行して部屋を取った。正直言って怖い。死ぬか生きるかの境目で強制労働させられている彼ら奴隷を本気で怒らせると命はないと思え、とどこかの本に書いてあった。

 いきなり奴隷商人に捕まって~……という理不尽な成り行きの奴隷は同情できるが、元犯罪者や山賊・海賊などに関しては自業自得、としか言いようがない。

 しかもこの街の奴隷の8割以上は元犯罪者のゴリマッチョ軍団と来た。これを相手にするのはやめておきたい。


「さて、夜飯までは時間あるからな~……どうしたものか」


 昼ご飯を出してもらって少し昼寝をして。今は14時くらいであろうか。街の探索もしてみたいのだがこの騒動の後ではちょっとし辛い。

 そう言えば、この世界に来て奴隷を一度も見たことがなかったな。いずれ彼らと交流することがあるのだろうか。

 って、いかんいかん。なんでもかんでも「奴隷」にひきつけられては。見世物じゃないんだし。

しかし、俺の頭から「奴隷」の2文字が離れない。どうしてそこまで気になるのかわからないが少なくとも今は関わるべきではない。


「そうだ。やっとノースフリードに来たんだからルーマー族について何か情報を得ないと」


 この度の目標、自身の魔力が回復しない謎を解く。それのヒントとなるのがルーマー族という戦闘部族。魔力による身体強化術はこの世界では右に出る者はいないらしく、魔力の回復術にも長けている。そんな彼らなら何かわかるかもしれない、という考えだ。

 何度も言うけど共和国のモルモットはお断りなんでね……。


「それじゃあ、脱走した奴隷に注意しながらルーマー族の情報を集めに行きますか」


  〇 〇 〇


 街歩きがてらルーマー族の情報を集めようと外に出てきた俺は、最初に騎士団の詰め所を訪れていた。既に俺の噂は届いていたらしく、偉い人が対応しに来た。どういう噂が流れているんだか。


「それで、本日はどのような御用で……」

「いや、そんな恐縮しないでくれ。ちょっとした情報を聞きたいだけだから」

「事情聴取!? まさか、うちの団員が粗相を……」

「ごめん、言い方悪かった。ルーマー族について調べているんだが……なんか知らないか?」

「は? ルーマー族ってあの戦闘民族の?」


 そんなことを聞いたお偉いさんは拍子抜けした顔をする。そこまで変な顔するのか?


「いえ……あんまり興味を持つ人はいらっしゃらないので……」

「まあそうでしょうね。滅多に里から出てこないって言われているし。でも個人的に興味あるし、新領に住んでいるからには調査しておきたく手ですね……」


 つい最近まで以来のことすら忘れてコメに夢中になっていました! なんて言えるはずもなく適当に誤魔化す。そんなこと言ったら普通に殺されそうだ。


「それで何か知ってることある?」

「はぁ……。申し訳ないのですが我々も一切情報は得てないですね。どんな民族でどんな言語を使っているかすらわかってないです」


 まさに“未知”の一言がよく似合いそうだ。少し前の見聞録関連の本にその存在が明記されているだけで他には一切の記述がない。どこに住んでいてどんな特徴を持っていてどんな生活をしているのかも全て。

 ただ当てはある。おそらくドワーフなどが知っている可能性がある。

 というのも身体強化術で身体強化を施しながら戦うとどうしても武器の劣化というものは早くなっていく。剣とか槍とかなら刃こぼれするのも早いし、弓矢にしても弦が切れやすくなったり弓が真っ二つに折れてしまうこともある。これは身体強化魔法を普段から使っている者にしかわからない同系列魔法の共通点だ。


「だったらまずはドワーフさんの所に行ってみますか」


  〇 〇 〇


 当てにはしてなかった騎士団の詰め所を出た俺は街の中心部にあるドワーフの鍛冶場にやってきた。赤い外装で、看板に「炭鉱武器」と書かれた店は周りの店とはまた一味違う空気を作り出している。

 ……ってか炭鉱武器て。この世界の店は結構安直な名前が多いよな。ネーミングセンスないんじゃねーの?

 そんなことを思いながら店に入り、入り口付近に置いてあった双剣を手に取ってみる。


「……ちょうどいい重量で刃も鋭い」


 一言でいうなら、それはまさに芸術品。今自分が携帯している短剣よりも扱いやすそうである。やはりこの世界でもドワーフは武器づくりなど創作が美味いらしい。


「へい、らっしゃい」


 その双剣に見惚れていると奥から1人の男性がやってきた。身長は140cm前後、少し恰幅がよくて顎鬚が特徴的な……ドワーフである。

 そんなドワーフはドシドシと歩いてきて俺の隣に並ぶと、俺が今持っている剣の解説をし始める。

 

「それはな、刃と刃をこすり合わせるとすげぇことが起こる代物だ。ちょっとやってみろ」

「はぁ」


 言われた通りに刃と刃をクロスさせて、こすり合わせてみる。って、ドワーフは耳塞いでる!?

 しかし動き出した手を止めることなどできるはずもなく。俺はその双剣をこすり合わせてしまう。


「…………ッ!」


 するとどうだろうか。そこから皿と皿をこすり合わせたような、そして黒板をひっかいたような不協和音が鳴り響く。

 ああああ! つまりこれこすり合わせたら「生物にとって嫌な音が出る」のか!


「……やってくれたなこのドワーフ野郎!」

「ハッハ―、そんなのも見抜けないとはまだまだだな!」


 いきなり鳴り響いた不協和音に顔をしかめる俺を見て意地悪な笑みを浮かべるドワーフ。こいつ……性格が悪すぎる。


「まあまあそう「性格悪いなこいつ」みたいな目をせんでももっといい商品はあるわ」

「いや性格悪いとしか思ってないから。商品は知らんわ」

「ハッハッハ。まあそう言わんと。俺はディール。ここ炭鉱武器のオーナーだ。そいつは試作品でな。性能実験に協力してくれてありがとう」

「……他でやってくれ。俺はアルヴィン・ヴェルトール。ちょっと聞きたいことがあってきた」

「なんだ? 企業秘密は教えんぞ」

「そうじゃなくて。ルーマー族について調べてんだ。ほら、ルーマー族は身体強化術を使うだろ? だから武器の劣化は早いはず。だったらそれにも耐える武器を作れるはずのドワーフなら彼らの居場所を知ってるんじゃないかとね」

「ほぉ……いい線行っているな」

「だろ?」

「だが、俺を含めたこの街のドワーフたちは奴らの居場所は知らん」


 なんとぉ!? まさかここまで来てそれはないよ!


「どうしてだ?」

「奴らは村によそ者を絶対に入れない。ルーマー族は何度か武器を買いに来たことはあるがあっちから出向いてきて、必要な分だけ購入して帰っていくだけだ。ろくに話もしたことはない」


 まあ、予想はしていたけどそりゃそうか。


「ちなみに何語を喋っていたとかわかる?」

「ふつうに王国語は通じる。彼らだけの言語もあるようだが……」

「そうか。だったら行き当たりばったりで出会えることを祈るしかないか」


 ……最も、彼らは里の外からは一切出ないと言われてるので出会える確率なんてそうあるものではない。もしかしたら見つからないかもしれない。


「それにしても、なぜ彼らを探すんだ」

「いや。ちょっとした好奇心だな」

「そうか。それで、何か買っていくか? おススメはちょっと持ち手に力を入れたら【フラッシュ】が発動する剣だ」

「要らねぇよ!」


 剣使う時に自分まで目がやられる、と言い残して俺は店を出ていった。


「……そうか。行き当たりばったり……か?」


 店を出て数分。なんだか甘い匂いがする方へブラブラ歩いていると後ろから何かが迫っていることを俺の空間把握能力(仮)が伝えて来る。気配を今は消しているがかなり近いところに居る。

これはおそらく逃走中の奴隷かな?どうやら引っかかってほしくない者が引っかかってしまったようだ。

 とりあえず俺は何にも気づかないふりをしてあんこのような甘いにおいがする方へフラフラ歩く。

そして俺を尾行している奴をハメにかかる。人気のなくなった通りにわざと入り、上に伸びるふりをして俺が油断しているかに見せる。

 するとどうだろうか。隙だらけの俺を見てか尾行者が一気に距離を縮めて背後を取ろうとしている。


「フッ」


 あまりにも動きが直線的なのに苦笑しながら素早く身体を180度反転させて腰をかがめてナイフを相手の首元に突き立てる。


「……!?」

「動くな!」


 次の瞬間。俺は右手と左手、そして首に黒いチョーカーみたいなものを付けている少女に刃を向けていたのだった。


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