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第91話 アルヴィンの旅行日記 3 ~田園地帯でピンチ!~

はいふりの”○○でピンチ!”的な?感じ?

 初入国になったノースフィールド帝国は地球の文化圏でいうところのインドから中国くらいと言えば分かりやすいかもしれない。一度、辺境ながら地方都市を通ったが街は中世中国のそれとなんら変わりはなかった。さらに北に行くとロシアの文化圏があるのではないかとにらんでいる。


 そんな地方都市を通り正式名称不明の山脈を迂回する形で辺境の街道を快走。そして王国新領ノースフリードの手前、チャオニー村にやってきた。

 ここはコメの産地で、夏は温かく冬は寒い。秋も比較的温暖な時期が多いことからコメの栽培に適しているらしく村のスペースの8割が田んぼである。

 時期は夏から秋に変わる季節。所々に金色の実を見つけることが出来る。


「さてさて……宿を取ってさっさとコメを譲ってもらいますか」


 ここまでの移動に要した1週間で片口ながらも帝国語を喋れるようになった俺は、宿の場所を聞いてそこに向かう。


 宿は2階建てで奥行きがある。聞くところによると宿をやりながら田んぼもやっているらしく、女将さんは温厚な性格なんだとか。

 そんな宿の前で馬車を降りて適当な場所に馬を繋いでから部屋を取るために中に入る。


『すいません、私、部屋、取りたい』

『あらあらまあまあ、旅の御方ね? いいわよ』


 ……えーと、いいよって言ってくれたのか。


『ありがとう』

『部屋はこっちよ。ついてきて』

『あ、えっと……』

『なに? どうしたの?』

『外、結構大きい馬車ある。どこか止めるところ、ある?』

『ああ、大型馬車かい。それならまずそっちから案内した方がいいみたいだね。ついてきな』

 

 どうやら部屋か馬車を止める場所かを案内してくれるらしい女将さんはカウンターから出てきて俺に手招きをする。ついてこいってことなのだろう。


『それにしてもこの季節に旅とは珍しいわね。どこから来たの?』


 えーと……どこから来たの、って言ってるから。


『王国から』

『へぇ……』

『何か、問題ある?』

「だったら、こっちの方がいいかしら?」

「え? 王国語?」

「ええ。私は王国出身なのよ」


 なんと! 黒髪だったからてっきり帝国の人かと!

 というのも、獣人などの亜人以外で黒髪の人間は王国には少ないのである。俺は日本人なのに茶色い髪と少し青い瞳だし……あれ? そう考えると俺たちの中で普通に黒髪黒目なのって赤坂だけか。新田も髪の色は金髪とも茶色ともとれるからなぁ……あれはややこしい。


「そうだったんですね。黒髪の王国人って珍しいので」

「やっぱり ?でも私の出身の村ではそんなに珍しいことではなかったわね。和の国からの移住者が多かったからかしら」

「へぇ……聞いたことないですねそんな村」

「まぁ……普通の人ではたどり着けるところじゃないわね。あそこら辺は危険地帯でワイバーンとか普通に居るし」


 うわぁ……Bランク冒険者が束になってかかっても傷をつけれるか怪しいっていうワイバーンが普通とか……。どんなところだよ。

 ということは……。


「もしかして女将さん、結構強かったりする?」

「ええ、これでも冒険者やってた頃もあるのよ?」

「へぇ……俺も冒険者ですけど、どのくらいまで行かれたので?」

「そうねぇ……Aランクになって【ホープ】まで行ったころに結婚したからね。それっきりよ」


 あらま、俺よりもはるかに強いみたいですね。恰幅のいいおばさんだと思ってたけど、もしかして全身筋肉なのか?


「ちなみにあなたは?」

「えーと、お恥ずかしながらCランクですよ。主に長距離輸送の依頼をこなしてますね」

「へぇ……あんな拘束期間長くて退屈なのばっかりやってんの」

「ええ、まあ。旅が好きですんで……」


 どうやら女将さん、結構な脳筋らしい。


  〇 〇 〇


 チャオニー村での滞在3日目。

 ここでの生活、意外と気に入ってしまった。

 なんせ毎食コメがついてきて、しかもあと1週間もすれば収穫時期だという。そこで俺は収穫したてで絶対に美味い新米目当てでこの村に滞在することにした。調査依頼はそこまで緊急な案件でもなし、自由気ままで後輩たちも居ない。家事は自分の洗濯ものくらいであとは借りている部屋を汚さないようにすればいいだけ。楽でええべ。

 こうして俺は、美味しそうな獲物をターゲットにその周辺をグルグル徘徊するブラッディ―ベアーの如く、今か今かと収穫を待っていた。


「あなたは本当にコメが好きなようだね」

「あ、女将さんどうもっす」

「弓の手入れ? お疲れ様だね~」


俺が借りている部屋の前を通った女将さんが唐突にそんなことを言ってくる。どこからその話になったんだ……。

そういえば、昨日「新米が食べれるんならまだこの村に残ります!」って言ったんだっけ。


「いや~、やっぱコメは美味しいですからね~。新米と聞けば残らぬ者はいませんよ」

「やっぱ、いろんなところ旅してたらそういうのもわかるわけ?」

「え? まあそうですな。揚げ物は揚げたてで熱々じゃないと美味しくないみたいなものですよ」

「お、良いたとえするじゃない」


 実は異世界人でコメには並みならぬこだわりを持つ日本人という種族ですとはいう事は出来ず。適当に誤魔化しておいた。

 とはいえ、これは本当のことだ。アスパラガスだって収穫と同時にどんどん味が落ちるのと同じように、ほとんどの食べ物は新鮮なものが美味しい。それは米も例外じゃない。

 要は“現場の特権”というやつだ。その現場の特権を味わうためならば1週間のロスなんて安いものだ。ここら辺のコメはモチモチしてるからな。モチ作って揚げモチにするのも悪くないなぁ。いやいや、やはりここはコメ本来のおいしさを堪能するためにリースキット沿岸部で手に入れた塩を使って塩むすび……いやいや、魚の刺身と合わせてかぶりつくのも悪くない。


「う~ん……!」


 どれにする! さあどうする! 年に一度しか味わえないであろう収穫したての新米を! どうせならベストな状態でベストな食い方をしたいッ!


『た、大変だーッ!』

『や、奴らだ! 奴らが出たぞーッ!』

『田んぼだ! やはり田んぼを狙ってるぞーッ!』

『クソッ、魔道具のかかしにも動じないだと!?どれだけの大軍なんだ!』


 そんな感じの妄想にふけっていたら、急に外が騒がしくなった。それと同時に村の男衆が剣なり矢なりを携えて外に出ていく。


「なんだなんだ!?」

『チッ !今年も例のやつらが来たのね! こうしちゃいられない!』

「あ、おい女将さん、何があったんだ!」

「あ、ごめんなさい! 今それどころじゃないの!」

「戦闘なんだったら俺も行く! 一応冒険者だから!」

「そう!? だったら急いで弓と矢を持ってきて! ありったけね!」

「了解!」


 一体全体何がどうなってんだ。全く……。

 そんな悪態をつきながらも俺は部屋に引き返し弓を持ち、近くに止めてあった馬車から自分の矢をありったけ持ち出す。何だか知らないけど矢がなくなれば弓はただの棒。いちおう短剣と投げナイフも持ってきた。

 いざとなったら接近戦に持ち込む。今まで魔力を使った接近戦はやってたけど、魔力を使わないでの接近戦はやったことがない。ぶっつけ本番だけどやるしかない。

 なんてったって、新米を食べるためなのだから!


  〇 〇 〇


「どうなってんだこりゃーッ!」


 戦闘開始3秒で俺は悲鳴を上げていた。目の前にいらっしゃるのはイナゴ。それも50~100匹前後の大軍。

 それだけなら弓矢だの剣だの持ち出さなくてもいいではないか。虫取り網で一網打尽に……なんて出来ればよかったのだが。

 あいにくと、このイナゴさんたち、虫取り網でゲットだぜ出来るほどのサイズではない。顔が宿の2階よりも上にあるのだから。

 全長10m前後のイナゴの大軍がチャオニー村にやってきた。狙いはもちろん田んぼの稲穂である。この辺りでは秋の収穫期に現れ、田んぼの稲穂をあっという間に食い荒らして行くというはた迷惑な連中である。卑怯なことに飛行が可能であり、でかい分体重も重いので下敷きにされたらひとたまりもないのだとか。

 1匹でも田んぼに行ってしまえばたちまち村全体の田んぼから稲穂がなくなると言われるほど食事のスピードが速いためみんな必死である。全く、虫の高性能コンバインだな。

 そんなのが奥の林からこれでもかというくらい押し寄せているのだから悲鳴上げてもいいよね?


「くそっ!【ドリルショット】!」


 魔力を使わない【ドリルショット】は普通に発動するため、それで貫通力を補いながら次々とイナゴの脳天や眼、羽と思われる器官を重点的に攻撃する。弾切れ対策として1体に使った矢は全て回収している。そのせいか討伐スピードが遅くなってしまっている。


「あっ! あいつ! 【ドリルショット】!」


 矢を回収している隙に、1体のイナゴが羽を広げて大空へと舞い上がり黄色いじゅうたんに一直線。そうはさせじと俺が【ドリルショット】で羽を撃ちぬくと、イナゴは撃墜され田んぼの近くに墜落した。


「しまった!」


 顔が端の方の稲穂に近すぎる! このままだと食われてしまう!


「クッソ!」


 脚のホルスターから投げナイフを2本手に取るとイナゴの脳天めがけて投擲する、どうやら間に合ったようで、イナゴは小刻みに揺れるとその場に崩れ落ちた。


「クッソ、弓矢だとキリがねぇ! きっちりとどめさせないじゃないか!」


 いつもなら視覚強化で「狙い撃つぜぇ!」ってやってるけど今回はそんなふうに行かないため、確実性に欠けている。

 そう感じた俺は短剣を腰のさやから引き抜いて逆手に構えると目の前のイナゴに向かって走り出す。


「はああああっ!」


 すれ違いざまにイナゴの足という足を全て切り刻むと、イナゴはそのまま戦闘不能になる。

 最後に羽部分を使えないようにして……弓矢で複数回打ち込むよりもこっちの方が簡単かもしれない。


 その後、俺は次々に短剣でイナゴの足を切り刻み羽を使えなくするという作業を続けるのであった。



おまけその1 ― 現れたアイツ ―


 そんなのが奥の林からこれでもかというくらい押し寄せているのだから悲鳴上げてもいいよね?


『お~い!』

「ハッ、この声は!」

 

 遠くの空から1つの青い点が近づいて来た。おかまみたいな声で、それは徐々に戦闘機のようなフォルムを作り……。


「青龍だ! 助けに来てくれたのか~?」


青龍は俺のその呼びかけには応じず、周りのイナゴを見下してそれを排除し始める。


『な、なんだ今度は!?』

『青龍だ、青龍がイナゴを退治してくれてるぞ!』

『ありがとうーっ! 青龍―!』


 そんな歓声に応えるようにイナゴたちを薙ぎ払った青龍は、こちらに顔を向けてブレスを撃つ準備をしながらこう言う。


『それじゃあ、この村の新米は頂いていくよ? 嫌だと言ったらこのブレス撃つ』

『『『『こん畜生!!!!!』』』』

「卑怯だぞ!」


 その後、全ての新米を青龍が持って行ってしまった。


おまけその2 ― 緊張感に欠ける ―


『おい、イナゴってさ、佃煮にすると美味いよな!』

『ああ、あれか! 去年食べてみたけど美味しかったよな!』

『ああ、酒のつまみにもなるし!』


 むしろ来てくれてラッキーというような雰囲気の村の男衆を見て俺は思った。


「結構なピンチなのに緊張感に欠けるなぁ……」



 ※ あくまでも もし、です。青龍君はこんなことしません。……多分。

 そう、思いたい。

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