第89話 アルヴィンの旅行日記 1
久しぶりの投稿!
村を出た俺は、ヒトツボシ(適当に命名)を走らせて一路王都へと向かう。というのも、王都はこの国を通るほぼすべての街道の中継地点になっているからである。
この大陸を南北に走る南北街道、旧グランツ領から王国の東の海に抜ける東西リースキット街道、王国王都から大陸北部を領土に持つノースフィールド帝国へと続く北方街道、大陸の南部へと続く南方街道等々。何はともあれどこの街道を旅するにも絶対に王都に行かないと話にならないのである。
もちろん不便なこともある。辺境などに行くと、直線距離でなら近いのにわざわざ王都経由の遠回りをしなければいけない区間も存在するのだ。例えば、青龍村からシュベルツィアまで行こうとしたら、一度王都を経由する以外だと一度国境付近まで行ってからこの国の外周を通る環状街道に乗り、リースキットへと続く街道との接続地点まで行かなければいけない。しかし、直線区間にはには危険な谷やら崖やらがあったり、希少な魔物や生物の生息地だったり、王族の別荘があったり、凶悪な魔物がたくさんいたりと……まあ一言にいえば道を通すのは一筋縄じゃ行かないという事である。
さてさて……俺はどうやって目的の新領に行くかを考えていた。
リースキットはかなり交通網が発達しており、各地域でも特色は違う。大雑把に文化の境目はある。イメージで言えば、福島県みたいな。浜通りとか中通りとか、そんな感じ。
山の幸が美味しく農耕と牧畜が盛ん、村ごとに秘伝の鍋があると言われる山沿い地域、毛織物や鍛冶などものづくりが盛んな中央地域、海の幸が美味しく交易も盛んで異国文化も散見できる海沿い地域か。南に行けばサウスフィールド共和国との文化混同で見どころ多い地方都市が点々としているし、中央は王道でオーソドックスなリースキットスタイル(ほぼ中世ヨーロッパ)、北に行けば中国+ロシア+ドイツのような文化圏が広がっている。
……これ、一度王国全土を回ってから新領行った方がもっと面白いんじゃなかろうか。
「えー……どうしよっかねぇ~、これは楽しみだなぁ」
選択肢の多さに目移りしそうな俺は、そのまま王都を目指してヒトツボシを走らせる。
〇 〇 〇
「追加依頼が来ています」
「はぁ……」
ルートを決めるため、王都に着た俺は観光案内所……もとい冒険者ギルドを訪れていた。ギルドには図書館もあり資料が山のようにあるので、そこで気になったところがあればそこを経由して行こうか、と思っていたのだが……。
「追加依頼です」
資料の場所を聞こうとした受付の人がお決りになった4文字を告げる。追加依頼とか俺、頼んだことないんだけど……。
「い、いちおう内容は聞きましょう」
「はい。荷物の運搬ですね。中身は甲冑に剣、盾に魔石……ですね」
おいおい……わたしの(借り物だけど)ヒトツボシを潰す気ですかあんたがたは……。鬼かよ、馬に優しくねーな。
「ちなみにだけど、依頼人は?秘匿じゃないでしょ。まあ見当ついてるけど」
「はい、依頼人はリースキット王国、ですね」
「やっぱりか」
あのじじいめ……。依頼書を見たら追加報酬がバカみたいだったのでまあ良しとしよう。ざっくり言うと、共和国のパワードスーツの最新機1機丸々買えるくらい。
「しかし……あれだな、これはヒトツボシじゃ無理だぞ」
「あ、ご安心ください。貸与の欄を見ていただければ」
受付の人に言われた通りに依頼書の貸与欄に目を通す。貸与は、基本的に冒険者では用意ができないと推測されるときなどにギルド・もしくは依頼者が一時的に装備などを貸し出す措置だ。貴重な魔物を捕獲する檻がいい例である。どこかの誰かさんのように檻に入ったまま浄化魔法を施すためではない。
この「貸与」については色々ヤバい話があり、ドM貴族がSMプレイのS役を冒険者に依頼して、貸与欄にでかでかと「鞭」と書いたとか、見栄を張るために必要もないのに「飛竜」と書いたとか。同行させたいからと言って貸与欄に「息子」と書いた鍛冶師もいたらしい。
しかし、今回はそのようなことにはならなかった。まあ、相手は王家ですからね。ふざけたことできるわきゃあない。
貸与欄には、大型馬車とそれを牽引する馬と書いてある。ってか、大型馬車が必要なほどなのかよ。
この世界の大型馬車は、軍用であれば歩兵を12人前後搭載可能、商業用だと小さな屋台を折りたためば2店舗分は軽々と運べるくらいである。
「とりあえず明日か明後日に受け取りに来てほしいそうです」
「受けるとは言ってないのに話進めるのね」
「受けないんですか?」
「受けるよ! 受けるに決まってんでしょ!? あー、めんどい!」
パワードスーツ1機分の依頼なんて受けないわけがない。せっかくの追加報酬だし。訳あり品とかだったらあのクソ国王ぶっ飛ばしたけど。
この日は疲れたので大人しく宿に戻り、すぐに寝た。
〇 〇 〇
次の日はギルドの資料室で調べ物をして過ごし、慌てて手に入らなかった旅の品を購入した。そして、王都を出発する日。
王城のとある区画には大型馬車と、それを牽引するためにつながれた馬たち。そして俺と案内役の騎士が居た。
「……なあ、王国の馬って全員額に星形印がついたのしかいないわけ?」
「い、いえ……そのようなことはないと思いますが……」
馬車につながれた3頭の馬の額には、それぞれ星形の模様があり、顔つきもどことなく似ていた。1頭目は下の方、2頭目は上の方、3投目……ヒトツボシはその中間である。
「見栄えの問題でヒトツボシを真ん中にしてくれる?」
「は、はぁ……」
半目で若干呆れたような表情の俺にヒトツボシは「どうしたお前」みたいな視線を向けて来る。いや、お前らが似すぎてて怖いって話じゃ。
「積み込みももうちょっとで完了しますので」
「ってか、いくら軍用馬とは言え3頭で牽かせるの? 大丈夫なのか?」
「あれ? いつも軍用馬を使っていらっしゃる冒険者の意見じゃありませんね……」
「愛馬のパワーを馬鹿にしているわけじゃないが。いつもはもうちょっとこじんまりしたのを1頭で牽かせてるからな」
ちなみにこの騎士、俺が大川という事を知らない。元からいるものだと思っているらしい。どうも知っているのは王国情報部の人間だけらしい。
「まあ、説明しましょう。こいつら軍用馬……品種はシーバーというんですが、彼らは半分魔物で半分が馬……つまり魔物の馬と普通の馬とのハーフなんですよ」
「マジで!?」
え!? そうなん!?
「ええ。魔物の馬というのは一角馬……冒険者からはユニコーンって呼ばれていますね」
へぇ……実在するんだ、ユニコーン。じゃあペガサスもいるのか。
「ペガサス? ああ、ペガソスですね。ユニコーンより臆病でかなり強いらしいですよ」
そうなんだ。麻痺魔法とか使えるし、魔力戻ったら一匹鹵獲して飼ってみるのも面白そうだな。
「ユニコーンは魔力の回復速度が高く、身体強化が使えます。さらに元のスペックも高い。このシーバー種も軽く身体強化が使える上、元のスペックはユニコーン譲りなんですよ。大型馬車を3頭で牽くくらい、わけありません」
なるほど。それに加えて、足回りに馬をサポートできる回復魔法の魔石なんて使われちゃって。いい環境なんだか悪い環境なんだかわからないが、愛されている(?)んだろうね。
そんなことを思っていると、案内役ではない騎士がこちらにきて報告をしていく。
「準備が整ったそうです」
「りょーかい。ありがとさん」
「いえいえ。それでは、良い旅を」
「ああ。これは王都に帰って来た時に返しに来ればいいのかな?」
「あ、はい。それでお願いします」
最期に確認をしてから俺は馬車に乗り込み、顔面スタートリオに前進の指示を出す。よくよく見れば体色がグラデーションになってるなこいつら……。
走り出した馬車は王城の北西の門から外に出て、進路を東に取るように進んでいった。