第84話 開店!
リズベットさんとシンさんの料理に感激して脊椎反射的に雇う宣言をしてから3日。人員も集まり、食材も続々と揃い始める。
それを見ながら俺はうんうんと頷き――
「って、なんじゃこりゃー!」
俺の目の前には木箱の山! 右にも木箱の山、左にも木箱が山脈を形成しているではないか! これなんだよ1いつこんなに仕入れた!
「ちょ……ちょちょちょ、ちょっと待てや。これどうなってんだ」
何が入っているのかわからなかったので、木箱を開けてみると、そこには大量のイモが入っていた。これは……お好み焼きとかの生地の原材料……。
それがこんなに!?
「と、とりあえず仕込みは……そうだ、あの爺さんか!」
というのも、最初の仕込みは「ツテがあるから任せとけ」といった爺さんに一任していた。
今から「これはなんだ」と言っても、食革命がうんたらで一蹴されるに決まっている。あのじじいのマシンガントークには逆らえないので大人しくしておくことにしよう。
「これは……すごい山ですね」
その場で腕組していると、後ろから声がした。この声だと……リズだな。足音もそうだし。
ここ最近、魔力も回復しないので、余計に周りに気を配っていたら気配だけでなく足音でも人を判断できるようになった。ちなみに、魔力が回復しないのに関しては王国の著名な魔法使いや研究家に聞いても「わからない」と言われ、むしろ研究材料にされるところであった。
「オーナー……こんなにイモを使うんですか?」
「使わんさ……あのじじいめわかってんのかこれ。確かにイモは日持ちするしある程度在庫があって在庫切れにならなそうなのは嬉しいけど」
「そうですね……でも、これだけでもこの街の人口なら2週間ほどで食べ終わる量だと思いますよ?」
「マジで……」
そんなに大食漢なんっすかこの街の人々は……。すごいな、おい。
「それは……主食ですし、パンよりも料理に使われるので……保存も簡単ですし」
「まあ、確かに木箱に入れてりゃあ日光も防げるわな……だからと言って」
なんだよこの量は……もう一度言うぞ、なんだこの量は。アメリカの農場じゃないんだぞここ。マッ〇のポテト工場でもないぞ。
「本当にこれ使いきったら逆にイモに向かって土下座するわ」
俺はこの時、本気でイモに土下座する日が来るとは思わなかったのだ……。
〇 〇 〇
開店当日。店の前には行列ができていた。聞けばあの爺さんが主体となって大々的に宣伝が行われていたとのこと。そういえば宣伝もギルドがやるということを完全に忘れていた俺は、一言「マジっすか」と呟いていた。行列は大通りから横の路地まで続いており、ざっと100人くらいいるらしい。座席数は結構あるとはいえ、この人数だけで大丈夫だろうか。
各テーブルに鉄板を置いて客が自分で焼けるようにしてるが、できない人には店員がすることになっている。それを考えると明らかにフロアスタッフ足りないんですけど……。
……爺さん、すまん。あんたのこと本当に「ただの頑固じじい」としか思ってなかったけど違ったわ、天才だよあんた。明日にでも人員手配してもらおう……。
俺も手伝うことを決めて、開店直後から奥で生地や具などを作る作業に没頭する。やってみてわかったが、イモは結構使う。1人前に4個ほど。あれほどあったイモが圧倒間に1箱、また1箱という具合で消費されていく。
「お好み焼き3つです!」
「3番さんはお好み焼き2つにもんじゃ4つ!」
「お好み焼きともんじゃ3つずつお願いします!」
1つのオーダー分ができたと思えば次のオーダーが入る。無限に湧いてくると思うほどに立て続けにオーダーが入るので、休み時間などない。なんだこれ……。
攻撃与えても回復スキルで全回復されてる感じだ……! HPは1までもっていってるのに決め手に欠けるというか…! 安定して耐えられているというか……!
そして、時計を見たら……。
「まだ2時間しかたってないの!?」
「これは、大繁盛ですねオーナー」
うん、大繁盛はオーナーとか店主とかとしたら喜ぶことなんだろうけど、うん。これは逆に客足遠のいてほしいわ! 忙しすぎる! もうちょっとのんびりしてゆったりとした時間が流れる店を想像してたのに! 昼時の月島の皆さんよりも大忙しじゃ!
「オーナーは休んでいいですよ、私が代わります!」
「レイさん、できたらそうしてる!」
「12番さんはお好み焼き5つでーす!」
「大食漢だなおい!」
客のオーダーにいちゃもんをつけながら作業することさらに3時間。ようやく昼の営業を終えることができた。
5時間ほどの営業でさばいた客の数は200人前後、休みなし、使ったイモボックスは11箱、店員の被害は俺が左手をつった……以上。
「ま、まず昼時は抑えたか……!」
「皆さん美味しいと言ってましたから夜はもっと増えるかもしれませんね……値段もお手頃ですし」
嘘ん……これ以上多くなったらそれこそ死ぬぞ、メンタルと腕。値段は日本の屋台のお好み焼きとかと同じ値段にした。この世界でもそのお手軽さは通用するということか。
「じゃあ、一休みして夕方の業務も頑張りますか!」
「「「「はい!」」」」
ちなみに、俺はこの後更なる地獄を見ることとなりーー
しばらく料理をしたくなくなったという。