第83話 スカウトをしよう
「じゃあ、今日はここまでね~。お疲れさん」
「「「「お疲れっしたー!」」」」
夕方、その日の作業が終わる。今日はいつも以上に作業が進んだ。あと10日もすれば回転はできるんじゃないだろうか。
俺は昼頃にリズに宣言した通り、彼女の家に行くことにした。料理がうまいというので、腕次第ではスカウトしたいと思っている。
「ほ、本当に来るんですか?」
「ああ。お土産になんか買ってかなきゃだけど……」
「あばばば……そんなのいいですよ!!」
どっかで聞いたことのある驚き方だなぁ……。しかもなんか特徴が一致している気がするんですけどぉ……。確か……あれは、えーとぉ。
「オ、オーナー! 目の前に噴水!!」
「お、おっと危ない危ない。サンキュー。とりあえず、適当な肉とか持ち込んで作ってもらうかぁ……」
「え?うちの親になにをさせるんですかぁ!?」
もちろん、ちょっとした審査会だよ。食ってみたいし、味を見ないと雇えるレベルかわかんないから。俺は適当な店で肉なり野菜なりを購入すると、リズの案内に従ってスラムにあるというリズの家に行く。
リズが住まうスラムは、地球のようなテント小屋が密集しているというのではなかった。テント小屋じゃないにしろ、高層マンションの集まりのようなところがこの街のスラムらしい。この街はまだいい方で、もっち治安が悪いところだとそれこそテントが並んでいるスラムもあるのだそうだ。
そのマンションスラムの1室にリズの家はあった。いきなり俺が入ると驚かせてしまうので、リズが先に入って状況を節女視してもらい俺が入るという流れにする。門前払いされる可能性はあるけど。
「じゃ、じゃあ待っててください」
「ああ……」
なんかすっごい嫌な予感がするのはなぜでしょう。リズが家の中に入っていった時、俺は思い出した。似てるとは思ったけど、その似ているのがまさかカ〇ス先生だったとは! 世の中、広いものだなぁ。
そんな感慨にふけっていること3分弱。リズがドアを開けて中に入っていいことをつたえてくれた。
「それじゃあ、失礼しまーっす……」
俺は恐る恐る家の中に入る。家の中は整頓されており、俺の家よりもきれいな印象を受ける。この前帰ったら、リビングがかなり散らかされていた。赤坂も新田も掃除を自分でしないからあんな惨状になるんだ。
そして、入り口から少し行ったところの小さなリビング2名の人が土下座をしているのを発見した。まさかとは思うけど……リズのご両親?
「ええ、そうです! こちらが父のシンと母のリズベットです」
「わかった……それで…どーして土下座してんの?」
俺はそこに疑問を感じる。普通に「雇ってもらってる人が来た」だけでいいと言っておいたんだが。
「リズ……どういうふうに説明したんだ、これ」
「は、はいぃ! 「オーナーに言われた通り雇っていただけている方が来てくださった。ちなみに、あの“英雄”オオカワさんです!」って」
「待て! 最後はなんだ最後は!!」
英雄じゃないから! そーいうの言うから誤解を生むんだよ! 俺は英雄じゃない、大川だ!
「あの、顔を上げてください……俺はただの冒険者で、店を持ってるだけですから……」
「いえ、あなた様のお力は十分に理解しております! なにとぞ……!」
「私たちは殺しても構いません !ですが、子供たちは――」
……どうすんだ、これ。
〇 〇 〇
それから俺が逆に土下座したりした謎の1時間が過ぎ、ようやく俺は本題を話すことができた。ちなみに正座のままでだけど。
「それで、我々のようなスラム暮らしで足の悪い者に何の御用で」
「そこまで言うか……実は、リズから料理がうまいという話を聞きまして。俺が今回転作業を進めているのは飲食店でして。料理人が少し足りないんですよ。なので、買ってきた食材を調理してもらって、味を見て、よければ雇いたいなと」
その話をした瞬間に、レイさんの方がぐいっと顔を寄せてきた。はい、なんでしょう……。
「我々を……雇っていただけると!?」
「え、ええ。まず腕を見ないことにはなんとも言えませんが。キッチンの構造、足が悪かったりする人にも便利なつくりになっているので、足のハンデは考えなくていいです」
「そ、そんな」
「あ、あんた……これは!」
まだ雇うと決めてないのだが、2名は手を取り合って喜びを分かち合っている。どうやら、こういったチャンスは今までなかったようだ。
「とりあえず、ここにある食材でなんか作ってください。あ、一応俺は結構食べますから多少量が多くても大丈夫です。皆さんの夕食と同じもので」
「は、はい!」
「かしこまりましたぁ!」
2名は食材の入ったカバンを持つと、急いで台所に向かっていく。コンロが2つあるようで、2名はそれぞれ料理を作っている。さすがに個人審査ということはわかっていたようだ。
それから30分後、料理が運ばれてきた。リズベットさんは汁物、レイさんは炒め物のようだ。
「それじゃあ、いただきます」
俺は最初にスープに手を出す。見る限り、味付けは塩とかコンソメ系と思われる。そんな予想をしながら一口。
……予想的中。コンソメスープだ。どこにでもありそうなコンソメベースのスープに、野菜と少し肉が入ったスープ。味は濃くもなく薄くもない。そして、とっても懐かしい味がする!
「どうしたんですかオーナー!? 涙出てますよ!?」
「いや、だって……お袋が部活終わりで疲れているときに出してくれたスープとおんなじ味が……」
続いて、炒め物を食べてみる。肉と野菜が混じっている所詮野菜炒めだが、これもまた美味しい。少し辛口な味付けは、食欲をさらに刺激する。これは病みつきになるわ。あーうめー。
欲を言えば白米が欲しくなる美味しさ!
あーもー、これはこういうしかないじゃないか。
俺はスプーンとフォークをテーブルに静かにおいて立ち上がり、こう宣言する。
「はい、採用!!」
たまきメモ
リズベットの愛称としてリズが使われがちですが、この親子はリズベットから取って娘の名前をリズにした(つまりリズが正式な名前)