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第82話 商売をしよう 4

「それで、結局無理やり経営統合させられたってことですか」

「ああ……やられた……。国王はノーマークだった。しかもあのあと本当に爺さんの所に持ち込みやがってよぉ……」


 というわけで、無理やり経営統合させられて、なんか社長に仕立て上げられた大川でーす、みんな元気―? 俺の気分は絶賛降下中だよー!

 新田が淹れてくれた紅茶を一気飲みしながら、俺は事の顛末を説明してやる。領主と国王の推薦あり、ホーネストも「そうすりゃいいべ」といい、爺さんは「いいから経営統合しろやボケ」と言ってきたので、経営統合することになった。手続きは全部爺さんがやると言い出した時はびっくりした。どれだけ経営統合させたかったんだよ。


「まあ、いいじゃないですか。熊の巣は今じゃ人気店で利益も馬鹿になりませんよ?」

「それもそうだが、クマキチさんを雇う側になると思うとかなり身の危険が増したというか、体中がザワザワしてきたというか……」

「そんなんで経営者務まるんですか?」


 務まるわけねぇだろ。経営の基本とかわからないし、数学何言ってるかわからない、二次関数と三角関数は呪文と思っている俺に経営ができると? 経理しろと? 無理だろ! 第一、俺は文系だぞ、オタクだぞ! 確かに経営シミュレーションでは結構いい数字出したかもしれないけど!


「まあ、私は先輩のことは信用しているので。安心して開発に専念できますね」


 クッ……余計なプレッシャーかけやがって。俺はそういうのに弱……いや、待てよ? これはこいつなりの応援ってことか? ツンデレ  なに、ツンデレだったの!?


「なんか変なこと考えてますよね?」

「いや、別にぃ……とりあえず、頑張るだけだな」


 少し……いや、とても身の危険を感じたので、俺はすぐになんでもないフリをして席を立つ。

 すぐに街に帰ろう……ここは危険だ。


  〇 〇 〇


 2日後。俺は未だにログハウスが怖くて熊の巣に泊まり、開店作業を進めていた。元ギルド跡地の中を、既に内定を出した人達と片付けていく。

 その中でも、料理人として雇ったラットとケニーはよく働く。雑草むしりはもちろんのこと、角材を使って椅子とテーブルを作ったり、発注していた鉄板を設置したり、ギルド内の掃除に社員寮の整備など、多岐にわたって様々な能力を見せてくれている。なんでも、ここに内定貰うまでは王都で修業をしていたそうだ。そこでいろいろな知識を叩き込まれたんだとか。


 窯とかを作っているのがバートンとレイジー。夫婦だという2名は調理器具を主に作ってもらっている。レイジーはかなり統率力があるように感じる。


 外周の柵を直しているのはチャーリー。元々は大工だったが、職がなくなったのでフロアスタッフをやっていたとのこと。手先が器用すぎて怖い。


 そして……草むしりを一心不乱にする少女がリズ。ここら辺の人間にしては珍しく赤色の髪と瞳を持つ少女。身長は祈祷の時雨の面々より少し高いくらい。普段は寡黙な性格だが、よく周りの従業員と話している。ちなみに、挨拶の時以外俺は話したことがない。


「そういえば、リズのご両親の所に行くって爺さんに言ったなぁ」


 外周の草むしりをして、壊れている場所を見回りながら俺はそんなことを思い出す。爺さんの勧めで雇ったとはいえ、家庭環境は見ておいた方がいいと思われる。

 丁度、通りかかったところにレイジーがいたので、リズの居場所を尋ねてみる。


「ああ、あの子ならさっき裏庭で草むしりしてたわよ。どうかしたの?」

「え、ああ。いやなんでもない。さすがに体の出来てない子供が無理しないか心配でなぁ」

「あら、オーナーは優しいのねぇ」


 いやいや、従業員ぶっ倒れられたら風評被害が偉いことになるんだよ。儲からなくなるし、倫理観の問題もだなぁ。


「あー、細かいことはいいからいいから。あたいはよくわからないし、亭主もそこんところ適当でいいって人間だから」


 うん、大丈夫かなぁこの夫婦。不安になってくるんだが。


 そんなことを思いながら俺は裏庭へと向かう。やはり、そこではリズが一心不乱に草むしりを行っていた。そのまなざしはまっすぐで、それ以外の物事の一切を排除しているようだった。そんな姿を見ていると少し声がかけずらかったが、思い切って声をかけてみる。


「やあ、リズ。調子はどうだ?」

「え……あ、オ、オーナー! お疲れ様です!」


 俺の姿を見た瞬間、リズは立ち上がって直立不動になる。そこまで俺が怖いのだろうか。これは少しだけ緊張をほぐさないとダメだと見た。


「俺の持ち場が終わっちゃってな。ここ一緒にやろうか」

「え、い、いいんですか!? オーナーが私なんかの手伝いを!」

「いいんだよ。ここは俺の店だし。働かざる者食うべからずだ」

「あ、はい!」


 俺はその場で草むしりを始める。フフフ、俺の手際の良さに驚け……と言おうとした俺が馬鹿だった。リズの方が明らかに手際がいい! 確実に根っこの先から引き抜いて、それを高速で、かつきれいに行っているだとぉ!?


「リズ……草むしりうまいなぁ」

「え、いえ、そんなことないです!」

「いや、明らかにうまいぞ。コツとかあるのか?」

「え、えっと。なるべく地面に近いところの茎をもって、優しく上に引っ張るんです。一気に力を入れると途中で切れちゃうんです。それで抜けないときは、少し周りの土を掘り起こしてやわらかくして……」


俺は言われた通りにやってみる。するとさっきよりも簡単に草が抜ける。しかも気持ちいい! なんなんだこの快感は! すっきりすっぞ!

俺はその感覚にハマって、次々に草を引っこ抜いていく。今まで面倒くさいと思っていた草むしりがここまで楽しくて快感を得られるものとは!


「いや~、草むしりがここまで面白いもんだとは思わなかったなぁ」

「そ、そうですか? それならよかったです」

「そういえば、リズのご両親はどうして雇用してもらえてないんだ?」

「えっと……それは」

「話辛かったらいい。別にそれで解雇するなんてことしないし。理由によってはここで雇ってもいいかなってね」

「え……?」


 雇う、という言葉にリズがビクッとなる。そして、沈黙すること5分ほど。覚悟を決めたようにリズは話し始める。


「実は……母と父は昔冒険者で……ある日、とある魔物から毒を受けてしまって。足が悪くなってしまったんです。今じゃ杖をもたないと歩けなくて……」


 なるほど。確かに足をやられて、杖が生活必需品になってるなら雇うところはいないわな。


「ちなみに、ご両親は料理得意だったりする?」

「え、ええまあ。母の料理はスラムの中でも1位2位を争う実力ですし、父は昔料理人志望だったとか」


 ほほぉ? それは結構グッドニュースかもしれませんよ? 我々日本人には、バリアフリーという言葉がある。それに、足が悪い人用の車いすというのもある。

 これは……いける!


「リズ、今日この後君の家にお邪魔していいかな?ご両親にお話ししたいことがある」

「え、は……はいぃ!」


 リズは突然の訪問宣言に驚きながらも同意してくれる。

 この時の俺は、この人物たちがこの店の【エース】になることをまだ知らない……。



ご観覧ありがとうございました。

次回の更新は、明日の午後を予定しております。

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