第81話 商売をするけど経営統合するとは言ってない!
翌日。俺は再びギルドを訪れ再募集をかけて集まってきた人たちを面接でさばいていった。
中にはわざわざ王都からやってきた人や、店を閉じてでも働かせてくれといった人が多数押し寄せてきた。
どうやら、街では「英雄オオカワが出す店の球菌はものすごい」とか、「先の戦争でたんまり報酬をもらっているから、給金は下手な店の比じゃない」という噂が流れているようだ。普通にそこは日本式でやるんですけど。なにを言ってるのだろうか。労働基準法とか見てなんですけど?
「どうしてこうなった……」
「モテモテじゃのー」
「うっさいわじじい!!」
横から「ワシには関係ない」といった調子でそんなことを言う爺さんを怒鳴りつける。全くこの爺さんは……飄々としていてつかみどころがないんだよなぁ。
そんなことを考えていると、コンコンとノックがあった。次の受験者が来たのだろう。
「はーい、どうぞ~」
「失礼します」
ふむ、ノックあり、ちゃんと断っている。ポイントに入れる……、うん?どっかで聞いたことあるんですけどこの声。
だれだか思い出せないでいるうちにガチャっとドアが開く。すると、そこにはとある人物が現れた。 クマキチさんと同じくらいの身長で、クマキチさんと同じような形の耳があって、尻尾があって……ってクマキチさんじゃないか!!!
「え……え~と」
「言いたいことはわかる。だけど続けてくれ」
「あ、はい……」
突如現れたクマキチさんに困惑しながら俺は順序通りに(一応)続けていく。とても動揺していたのは事実だ。熊の巣と言えば、この街で一位二位の規模を持つ宿屋で、人気店だぞ。そこのオーナーがなんでここに現れているのだろうか。
そんなことを気にしながら俺は手順通りに進めて、後続もさばいていく。だが、脳裏には先ほど面接に来たクマキチさんが浮かんでいた。
〇 〇 〇
その夜、俺は熊の巣に顔を出した。久しぶりに来たかったし、クマキチさんに先ほどのことで話があったからだ。
ドアを開くと、働いているバイトの人がこちらに向かってくる。
「こんばんは、お泊りですか?お食事ですか?」
「いや、オーナーを呼んでくれ」
「え……あんた、一体何を……」
「名乗ればわかるか、不本意ながら有名人でね。俺の名前は大川心斗」
「はいわかりました少々お待ちください!!」
俺の名前を出した瞬間、バイトのボーイはすぐに走り去っていった。すっげぇな……vガン〇ムが伊達じゃなければ英雄オオカワという名前も伊達じゃない。
そして5分もたたないうちにさっきのボーイがこちらに走って戻ってきた。あんた足早いね、陸上選手とかどう?
「応接室にご案内いたします!」
「まあ、そうかしこまらなくていいから」
まあ、目の前に各界のトップレベルが現れた俺もそうなるだろうけど、別にこっちは英雄とか呼ばれている恥ずかしい一般人だ。そんな緊張されてもこっちが困る。
応接室は前に来た時と一つも変わっていなかった。さすがにここまで変わって困っては困るんだが。
「すぐにオーナーが参りますので。おかけになってお待ちください」
「あ、ああ、ありがとね……」
頭を下げて走り去るボーイにお礼を(聞こえたかわからんけど)言って、俺は席に座ってクマキチさんを待つ。今じゃ人気店の店主兼オーナーだから忙しいのはわかっている。少し待つだろうと俺はリハビリを兼ねた魔力の操作をしてみる。魔力はほぼないに等しいので毎日少しずつやっていることだ。
そのリハビリをすること5分ほど。コンコンというノックの音が聞こえたので「はい」と返事をすると、ドアが開き1人の人物が入ってきた。
手には包丁、コックが着ているような白い服には返り血がついていて……。
「待たせたなシント……」
「おまわりさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!」
俺は反射的にそう叫んでいた。
〇 〇 〇
「んで、なんだよその姿は……」
「ああ、届いた魔物を解体していた時にそっちが来たから……急いで解体し終えてそのまま……」
結局、殺人鬼のような姿をして現れたクマキチさんとテーブルを挟んで座る。魔物解体中に来たのは悪かったけど、さすがにその姿のまんま来るのはやめてほしいんだが。
「すまんすまん。それで、来た用はなんだ」
「自分でわかってるだろ……なんでこんな人気店の店主兼オーナーのあんたが、俺が開こうとしている店の店員募集の面接に来たのかってことだろ」
それを言うと「なるほどそれか」と頷いたクマキチさんは、一間開けて語りだした。
「そのまんま、店員になろうと」
終わり。
「だからなんでそうなったんだっつってんの! この店どうするんだよ!!」
「お前さんのモノになるな」
「は……」
すまん、待って。意味わからん。つまりどういうこと?
「俺はこの店の経営をお前さんに任せようと思う。要はグループになるということだな」
「えー、つまり、雇われ店主になると」
「そういうことだ。お前さんが言っていたアルバイトという雇用形態でうちはここまで大きくなった。それに、アルバイトがいても忙しいのが変わらないし、ぶっちゃけ面倒で面倒で」
「面倒なのが理由か!! 逆に雇われになると働くのは継続だろ!!」
「人選とかそういうのオーナーのお前さんに任せりゃいいし、結構楽になる」
「しかしだなぁ」
確かに美味しい話なのは変わりない。街の一流店舗のオーナー兼店主が傘下に入ると言ってきている、またとないチャンスだろう。
しかし考えてみるんだ大川! ここで「うん、いいよ」といえばこの街のありとあらゆる事業者が「傘下に入る」といいに来るのではないだろうか。ただでさえかなり影響力のある俺の行動だ。自慢じゃないが、下手すれば俺の発言1つで王国が戦争を始められるくらいだ。
「というわけだからさすがに受けるわけには……」
「それなら問題ない。ホーネストと、アルフレッド卿から推薦状と経営統合を勧められてる」
「まさか……!」
「国王も太鼓判押してくれた」
うっわ、こいつないわ。やりやがった。国王からも書状もらいやがった。そこに推薦とかなんとか書いてあったら俺、逆らえないじゃん。
「それがだめなら今度はモーガンの爺さんにも……」
モーガンの爺さんにも話を持っていくだとぉ!! 貴様は悪魔かなんかかぁ!? 絶対経営統合させられるじゃん!!
「わかった! 検討しておくよ!!」
その翌日、シュベルツィアの街を一つのニュースが駆け巡った。
その内容は、「熊の巣、英雄オオカワの店と経営統合」というものだ。そのニュースを聞いた街の社長たちがこぞってギルド商業部に問い合わせをしたが、断られたという。