第78話 商売をしよう 2
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俺がギルドで「店を出すことも考えておけ」と言われてからさらに一週間。OSはほぼ試作段階実戦導入してもいいくらいに仕上がってきており、あとは本地に武装を取り付けていくくらいだった。
……だったのだ。
しかし、そこである問題が発生したしまった。
「「「…明らかに資金難なんですけど」」」
そう、資金難だ。OS開発はあまり資金がかからなかった。しかし、3体分のヒートソードの素材となる珍しい鉱石に、砲弾、装甲用の素材。そして、スラスター。
“ハルバード”の武装を削るだけじゃ足りなかったのだ。
「先輩、これどうするんですか……?」
「ああ……いったん開発を中止して、資金を集めるほかあるまい。こんな時こそ、これの出番だ」
そういって取り出したのは前回も出てきた商業手形。これさえあれば国内はおろか同盟を結んでいる国でなら店を開けるというすばらしいアイテムなのだッ!
「じゃあ、それで……」
「おう。俺は未だに魔力が戻ってないからな。これは俺がやる。どうせ鉄板料理店になるんだろうけどさ」
「わかりました。無理しないでくださいね」
「無理したくても出来ん」
そんな軽口を叩きながら、俺は再びギルドへと向かっていった。
〇 〇 〇
シュベルツィアギルド・商業部。その応接間で俺は1人の老人と対面していた。彼の名前はモーガン。商業部のトップのような人間だ。特徴、少し猫背気味、あと口が少し悪い。
「それで、貴様のような青二才が店を持ちたいと。正気なのか?」
「……そうだが」
否、とっても口が悪い。今までいろんな店をプロデュースしていることじじいだが、手綱を握るのは容易ではない。
「それで、貴様はどんな店を出すんじゃ」
「今考えているのは鉄板料理店だな。ホーネ……いや、ギルマスにも言われたが、青龍祭の時に軽く話題になるくらいまで広まったからな。鉄板焼きはかなりレパートリーもあるし、物珍しさ、客が自分で焼くというシステムも作れ、店員も少なくて済む」
「ふむ……なるほど」
あれ? 意外と俺のマシンガントークについていっている……だと? じじいは耳が悪いと思ったが間違いだったようだ。あと、結構いい線行ってるみたいだ。
「……バカモン! それだけで商売成功したらワシみたいなおいぼれは必要ないわい!」
「ああ、そ……」
「まず、なんじゃこの従業員は最低限って! 今の時代、飲食店で繁盛するところはウェイトレスだけでも最低12人シフト交代制で回さなければ辛いんじゃぞ! さらに調理場には皿洗いも3人! 調理できる者も4人前後いないと厳しいじゃろうが!」
いや、さすがにそこまで繁盛はしないだろうし。店もでかくする必要ないし。感じとしては、月島のもんじゃ焼きの店程度の大きさがいいと思っている。んな広すぎても細かいところに目が届かないだろうに。
「そこも手が甘いんじゃ。これがどれだけの経済効果を産むか、貴様はわかっとらん。和の国では結構食べられているのかもしれぬが、これはこの大陸で一種の食の革命が起きる可能性を持っておる。最初は細かいところまで目が行き渡る方が確かに良い。しかし、堅実にやってはその革命を起こすことは難しい……! この世界で最初に食革命となったのは魔物肉! それを広めたとされる豪商ハワードは……」
目の前のご老人はそれはそれは丁寧にマシンガントークをしてくれましたよ、ええ。いったいいつになったら終わるんだよこれ。収集つかねぇよ。あれだ、こいつ性別違う、かつ老いぼれた新田だな、うんそうだな。
「はいはい、わかったから」
「まだじゃ! 小僧は黙って聞いておれ! 大事なところじゃぞ!」
「どこがだ! 完全に爺さんの食の趣味に入ってんだろ」
その後、老人の長話は1時間ほど続いたという…。
〇 〇 〇
翌日。俺と爺さんは、店舗探しをすることになった。ギルドに登録してある空き家の見取り図を見てあーだこーだ言い続けるという作業。新田にOSの最終調整を任せてしまっているので、こっちも頑張らないといけない。
「こことかどうだ? 目立つ大通りにある」
「ダメじゃ。そこは一軒家サイズ……!もっと派手で目立つところじゃないとダメじゃ」
「あんた、一度本当の鉄板料理店を見ればいい…。洋風の建物の鉄板焼き店って言ったら、大手チェーンしかないから」
俺はもうちょっと……やるなら月島のもんじゃロードだかの店のようなのがよかったんだけど…。
「それに、材料とか集まるのかよこれ。問題はそこじゃないか?」
「安心せい。青龍祭の時のレシピがまだ残っておるし、調べたが、生地に使ったのはこの国の同盟国の特産品でもあり、この国の北方でもよく作られておる品種のイモじゃった。肉とかは魔物肉が使えるし、エビもなんとかできる。問題はメンタイコというやつとモチという食べ物じゃな……」
えーつまり、王道の一種が使えないと。結構重要だと思うんですけど…?本当に使えるのか使えんのかつかみどころのない爺さんだなぁ……。
「ああ、そうそう。ちなみにじゃが貴様が店を出すと言って、鉄板焼き店の店員を募集したところ、100名前後が振り向いたわい。モテモテじゃのー」
「いらんいらんいらん! 人員は集まるのは嬉しいが100人雇う余裕はない!」
「流石腐っても英雄じゃな」
英雄ねぇ……。変な作戦で無駄に兵を死なせた俺にそんなのは無用だ。あっても“死神”の方が正しいはずだ。
まあ、とりあえず順調なようだ。
「お、こことかじゃな。この街の中央広場から徒歩3分、大通りに面して広さは十分。キッチンも広くできるじゃろうし。近くには社員寮も作れそうな物件も多い」
そうにんまりしながら言っている爺さんを軽く見てから、その紙を取り上げる。そこにはバカでかいホール、そこからアシンメトリーに伸びる通路があり……。
「ってこれ、熊の巣と同じじゃねぇか!」
「あー、クマキチの店か。あそことはまだ違うぞ。ここは移転前のギルドの跡地じゃな。10年ほど前に移転したんじゃよ……。今は取り壊すのめんどいから放置でええわという理由でなんの手も付けられてないぞい」
うわぁ。面倒くさいで解体作業をサボるなよ……。
「お前さん、確か【エリート】じゃったな…。権限を使えば場所を完璧に確保できて、格安で……いや、放置されてたから無料で買い取ることも可能なはずじゃ」
「いやいやいや、無料はないだろさすがに」
なってくれたらありがたいですけどねぇ。俺はひとまずそのギルド跡地という場所に場所を仮決定して、今度はホーネストの部屋に行く。
ここまでは順調のようだ。