第77話 商売をしよう 1
結局、俺たちが新型パワードスーツを開発し始めてから、早一週間。最初は乗り気じゃなかった新田は、今では一番張り切ってOSの開発をしており、赤坂もそれに合流。午後はシルクとどっかに行ってしまうが。
俺は、ステフと一緒に開発するパワードスーツのコンセプトを考える。そして、具体的な予算を見積もった結果。ある一つの結論にたどり着いた。
「「資金が足りない」」
そう、開発資金が明らかに足らないのだ。
王国が出したのは、単純計算で新型の共和国産パワードスーツを4機発注できるくらいの金額。しかし、それの2倍はオーバーしているのだ。
具体的に、どこがかかりすぎているのかは丸わかり。すべての機体の装備、及び武装だ。
俺たちは、3機に開発にあたってのコードネームを付けている。
1機目、開発ネーム“ハルバード”。圧倒的な大火力、砲撃戦主体の遠距離~中距離戦闘を得意とする機体。両肩に3つ50mm無反動砲を備え、両手には砲身をスライドで出す2連装のライフル、背部のスラスターの周りには任意でパージできる6連ミサイルポット、そこから肩に接続する形でバックパックが形成され、そこには【ソードビット】を発展させたトライポットという、要は内部に砲を取り付けた自立飛行兵器を搭載。剣は切断力を高めるため、剣の先を超高温化させたヒートソードを採用。さらに、それを応用した、ヒートロッドも考えている。
2機目、開発ネーム“エンシェリオン”。高軌道殲滅型の機体で、パイロットの安全を第一に考えた機体。武器はシンプルにシールドとヒートソード、頭部に近接防護用のバルカン砲を備える。また、バックパックの計4本の雪のように白い羽は、対魔力弾コーティングを施している。技術さえ確立すれば、その翼からビームのようなものを複数散布することもできる。
3機目、開発ネーム“フォートレス”。頑丈な追加装甲による圧倒的防御力を誇り、武装は前述の2機と同じく、盾と剣、連射性に特化した片手銃とレールガン。その他、バックパックには20連×2のミサイルポットを装備して、部隊の撤退などを支援する。
という感じだ。
また、これら3機の特性を組み合わせて、武装、スペックを抑えた量産型の機体、開発ネーム“ガーディアン”も検討している。
そして、明らかに金がかかりすぎているのが、1機目の“ハルバード”。これだけで全体の45%を食っている。
「どうしたものか……」
「資金を足らすとしたら、“ハルバード”の武装を簡略化するか、削るかだねぇ。削るなら、トライポットと、ヒートロッドだね~」
でしょうね、俺もそう思った。大体超高温に耐えることができる鞭みたいなのなんて、高いし。トライポットもコストが……。
だが、それを削っても、かなり足りない。具体的には、新型パワードスーツ1機分くらい……。
つまりどうにかして資金を稼がないといけない。
しかし、どうやって資金を稼げばいいのか……。商売ができる許可証は持っている。しかし、どんな店を出せば売れるかがわからない。
「とりあえず、ギルドに相談してみれば? 一応、私も【エース】の1人だから、ついていけば何とかなると思うよ?」
ああ、そういえば祈祷の時雨はシュベルツィアギルドの【エース】様でしたね……。ほとんどの権利を俺に預けられてるけど。すっかり忘れてたわ。ここ最近は戦争で忙しかったからな~。
「じゃ、とりあえずギルドに行こっか」
というステフの鶴の一声で、俺とステフはシュベルツィアギルドに行くことになった。
〇 〇 〇
ものすごく久しぶりに来たシュベルツィアの街は、戦後ということもあり、活気に満ち溢れていた。露店にはいつもとは違うものがずらりと並んでおり、戦勝ムードを隠しきれていない。
それを尻目に、資金難の俺たちは、ギルドに入り、ホーネスト……ギルドマスターを呼び出す。
すると、5分もしないうちにホーネストが現れて、執務室に通す。部屋の内装はしばらく見ないうちに少し豪華になっている。現に、出されたお茶も、いつもよりいい茶葉の紅茶だ。
「しかも、身なりも少しよくなったようだが……」
「いや~、うちのギルドから英雄が出るし、褒章もガッポガッポで……。ギルドの貯蓄もかなりできたし!」
あ、そうですか。別に横領したわけじゃないのね。
「それで、今日はどんな用件で? 英雄サン?」
「英雄じゃないっての。今日は、その……商売を始めようと思ってな。そのー……パワードスーツの開発資金が足りなくて……」
「それで、ギルドは商業部もあるし、そういうのサポートしてるでしょ? だからなんとかるかなーって」
いや、なんとかなるで説明ができたら話は早いんだが……。伝わるのかな、これ。
「なるほど。実は商業部から、青龍祭で君たちが出店した、例の鉄板料理とやらの店を開けば大儲けするかもと言ってたから、それがいいと思うぞ」
なるほど、と俺は思う。確かにそのもの珍しさを利用すれば、結構な金を稼ぐことはできそうだ。
「人員は商業部が手配できるし、考えておいていいと思うぞ」
「わかった……」
そういって、俺は執務室をでる。
その時、俺が始めた商売が、あそこまでのものになるとは一切思わなかった。