第75話 戦後処理
第5章の始まり始まり!
グランツ帝国対リースキット王国の戦争が終結してから数日後。俺は王国に転移魔法で帰還した瞬間に倒れ、皇室御用達という病院に搬送された。
そして、今、俺はーー
フルーツ類を食いまくっていた。
うまい! すべてがうまい! なにこのメロンみたいなやつ! ミカンの味がするけど食感がメロンなんですけど! 酸味が7割甘みが3割の完璧な味! あーもー、これ死んでもいいわ。
ああ、まあ何度か生死の境を彷徨っていたらしいんだけどぉ!数日間意識不明だったらしいしぃ!でも、飯が美味いからもうどうでもいいやって話。
「先輩……私、心配してたのが馬鹿みたいじゃないですか。なんでそんなに食べれるんですか。世界のISIDUKAもびっくりな食べっぷりですよ」
うるさいうるさいうるさい! 数日間何も食べてなかったんだからこんくらい食べたっていいだろうが! それに、【超覚醒】の反動なのかどうかわからないけど、全く体内に魔力がない。それも原因と思われ……。
「いや、でもそれでメロンみたいなやつ8個目ですよ……飽きないんですか」
「飽きない! 腹減ってるし!」
「あ、そうですか……」
呆れたような顔をする新田。ちなみに、あの【超覚醒】は気絶したと同時に効果を失ったらしいので、あのオーラは出ていない。もう二度と使おうとも思わないけどな。
「それで……今日は先輩に話があってですね……」
なんだろ、いやな予感がする。今度はぶどうのような果物に手を伸ばして、一粒口の中に入れてみる。あ、これは普通のブドウだ。美味しい。癖になりそうな食感だ。
「ちょ……真面目に聞いてもらえません?」
新田はブドウをつまむ俺を見て眉間にしわを寄せている。まあ、そう怒るなって。一房食べます?
「いただきます……あ、これ美味しい」
だろ。だからそういう面倒くさい話はあとにしてくれ。
「じゃなくて! 話があるんですよ! とっても大事な重要な!」
チッ、忘れなかったか。一応腐っても女子だから甘いフルーツとかで気を引けば忘れるとは思ったが……。そこまでチョロくなかったか。
「舌打ちしましたね?」
「してない」
「いえ、しました。もう……。とりあえず、国王に会ってきました。意識回復してから、病院にあるありとあらゆる食料を食いまくってると言ったら顔を引きつらせながら「そ……そうか……結構高いんだけど」っていいながら、安心されてましたよ」
うん、それは心配じゃないのか? 国家予算の。今回の入院費用は国が出すと言っているし。もしくは、「あの病院食のどこがうまいんだ?」と言ったところだろうか。
「それで、先輩の意識も回復したことだから、戦後処理を始めるらしいです。既にグランツ側の事実上トップの人……まあ、臨時の公王が降伏の使者を送ってきてますし、既に保護という名の占領下におかれてますし」
「あっそう。王国としては、グランツの土地はいらないだろうな。王国はそもそも論で兵力があるわけじゃないし、山脈を超えた土地は使い勝手が悪い。新たに街道を整備するにも莫大な予算がかかる」
「まあ、それも込々で会議やるそうですし、今回の立役者でもあり、防衛軍から侵略軍へ変わったリースキット軍の総司令官だった先輩には出席してほしいと……。っていうか、実質出席義務ですね」
ああ、つまり面倒くさいということか。ようするに面倒くさいという事だ。うわ、すっげぇ行きたくない。長々と会議とか俺の性に合ってない。
「ちなみに、私とシルクも同行しますので」
え……? お前ら要らなくね? なんでついてくるのさ。途中で逃げられないじゃん。
「ちなみに、赤坂は護衛という名目で来ますし、迎えには近衛騎士団一個中隊がやってくるらしいので、逃げられませんよ?」
やられた。こっちは、今、魔力はない。【フライ】も使えない。スキルを使おうにも体中ギシギシ言ってるから走ることすらできない。もう、こいつのこういうところ嫌い。
「会議でも大人しくしてくださいね」
「いや、出るからには少しは」
「先輩も早く会議終わらせたいですよね?余計なこと口走らないでくださいね?」
そういって、新田は手に火の玉を作ってこっちを見下ろしてくる。その迫力は、盗賊のボスでも逃げ出しそうなくらいだ。
俺はこのまま炭になりたくないので、「はい」というしかなかった。
〇 〇 〇
その二日後。俺はとうとう王城へ連れていかれた。なぜか身なりと鎧が豪華になった赤坂と近衛騎士団中隊長に両脇を警護……、もといガードされ、後ろからは新田とシルクが迫っている。どこをどう繕ってもこれは「連行」に等しいのではないだろうか。
そのまま、馬車に放り込まれて、王城へ一直線。常に周りを10騎以上の近衛騎士に囲まれている。逃げないってのに。
王城に着くと、再び両脇をガードされながら、会議室まで一直線。ろくに歩けないから運んでくれるのはありがたいけど、どう考えてもこれは連行だ。俺は重罪を犯した犯罪人かなんかですかねぇ?
……確かに人を殺した。たくさん。でも、それは戦争だから仕方ない。そう思う事しか今は出来なかった。
そんなこんなで会議室に無事(?)到着。既に周りにはこの国の首脳陣が勢ぞろい。日本で言うところの総理大臣をはじめとした、各省庁のトップと同じ役割の人間がより取り見取り。出席者の実に9割が俺よりも年上のじじ…いや、ご老人かつ貴族。例外は、この国の姫が何故かいることと、軍務卿が女性、公爵家嫡男(14)が隣に居て、更には姫の1人が座っている、といったところだ。
「それでは、戦後処理に関する会議を始めたいと思う。まず、今回の戦争で得ることのできた領地だが……」
国王の一言で会議が始まる。最初の議題は元グランツ帝国の土地の利用方法。余計な口をはさむなと言われ、後ろに新田とシルクがいるので、俺は資料に目を通すふりをしながら、今日の夜ご飯が何なのかを予想する。
「それで、オオカワ様、何かご意見はありますか?私としては英雄と言われるオオカワ様のご意見が聞きたいと思うのですが……」
聴いてないふりをしていた時に、なんと国王の隣に座っていた姫が俺に振ってきた。おいおい、何やってくれてんだ。
「それは、ワシも聞いてみたいのう」
と、国王もそれに便乗する。後ろからは「余計なことを言うな、ボケ」という空気を作る新田とシルクが。
ま、でも王が言ってるんだし、少しくらいならいいか。
「まず、今回の得た土地ですけど。ぶっちゃけ言って要らないんじゃないっすか?」
「と、言うと?」
「現在、占領下に置いてる“元”グランツ帝国領は、王国とは山脈で隔てられてる。それに加えて、現在この国で行われているような街道整備をはじめとしたインフラ整備用の金、人員が問題だ。人員についても、現地の人々をこき使うと反乱がおきるのは必至。国の失業者を派遣するというのならいいですけど。仮にグランツを吸収するにしても、元々が商業国だから軍事力が少ない、他国に比べて弱い。土地を広く持っても、戦力が拡散することによって余計に紙になる。転移魔法が使える者もいるけど、いないところからだと仮に攻め込まれたら伝達に時間がかかる。俺がグランツを吸収したこの国を攻めようと思ったらまずはやっぱりグランツ側を攻めるね」
「なるほど……言いえて妙ですな……。軍務卿、今の意見を聞いて意見は?」
「それは……。すぐに軍の増強をすればいいだけで……」
「いや、いきなり徴兵制を採用すると、民衆から反感を買うだけじゃ」
「だが、大陸の西側の港を手に入れたことによる経済効果が……」
俺のこの一言から論争が飛び交うようになってしまい。会議は丸一日かかった。帰った後、俺は新田とシルクからお叱りを受けた。
「あ、先輩。ちなみに、明日は褒章をいただけるらしいのでそれの受け取りにまた来てもらいますよ」
もう嫌だ、こんなの。けが人を二日連続で登城させるなよ……。