第73話 努力に勝る才能なし
「チッ……使えない宰相が……!」
「喋った!?」
新田が公王が喋ったことに驚いている。なぜだかわからないが、それほどまでに珍しいことなのだろう。
「そりゃあもう! この1か月一切喋りませんでしたから。会話は本人が魔力を使って文字を書く、あのボードででした」
なるほど。おそらく声を出したくない理由があるのだろう。それが弱点とかになるんじゃないかと考察する。
「貴様も貴様で素直に降参しておれば……!」
「あいにくとする気はねぇ。今からでも新田を連れて逃げてもいいが、それだと後味が悪いし、ムカつくのでな!」
こういうことははっきりさせたい俺だ。こいつだけは、ムカつくから叩き切る。
「そうか……その判断は悪くないぞ。しかし、貴様は僕に勝てない。なぜなら、貴様は僕に勝つ術を持たないから!」
先ほどから王座を立って変なしぐさばかり見せる公王。正直言って、行動と言動がうざい。ナルシストが入ってる。中学の時に一番「あ、うざい」ってなったキャラのやつと似合っているから余計ムカつく。
「倒す力も術もあるさ。そっちこそ、今のうちに泣きついたらどうだ?」
「馬鹿言え、そんなことには一生ならん」
こっちの挑発にも乗らないか。いや、挑発じゃなくて、脅し。今の俺は、ドラゴンが暴れてようと、倒すことができる能力を持っている。魔力が尽きないし、感覚がさえわたっている。いつかの岩龍討伐時と体のコンディションが似合っている。
「来るなら返り討ち覚悟で来るんだな」
「なら、そうしてもらおう」
俺の再びの誘いにようやく乗った公王は、俺に向けてその左手を向けてきた。意外と手の形はきれいだな、おい。
「……【コピー】」
「は……?」
一瞬、俺の中の何かが、奪われた気がする。その感覚に慌てた俺は体中の隅々まですべてを見てみる。結果は同じで、異常なし。
一体何が……。
「クハハハ! 私が天から賜った力、それはこの魔法、【コピー】!発動まで一定時間かかるが、ロックオンした相手の習得した魔法やスキルを全てこちらでも使えるというわけだ!」
「な……」
俺は、公王の言葉にびっくりする。能力を全てコピーしたということは、実質、俺と戦うような物。そして、つまりは、このオーラのようなものを消す効果があるということ!
「お、おい! このオーラみたいなのが何なのかわかるか!?」
「あ……? 自分でわからんのか……?」
「わからんから解除のしようがない!」
「くくく……いいだろう、僕がすぐに使おうとしていたスキルがちょうどそれだ!」
公王はこのオーラを発する変なスキルを探し始めた。十分にあてにできる。目の間で発動させるのだから。
俺はついにこの力ともおさらばできると思うと、少々舞い上がりそうになる。
「……なんなのだ、このスキルは。聞いたことがない……!」
自身の魔力を込めて動かすのであろうボードを見ながら、公王が独り言を言う。おそらく、自身の魔力を解析させて、習得したスキルでも見ているのだろう。
「スキル【超覚醒】。潜在的持っているとされる【覚醒】、【バーサーク】と同能力と仮定すれば、おそらくは上位互換……! これは……なるほどなるほど! 全軍が叩き潰されるわけだ!」
なぜか置いてかれた感を感じながら、あいつの言葉を整理してみると、このオーラみたいなのは【超覚醒】というスキルのせい。おそらくはシルクの話していた【覚醒】か【バーサーク】の上位互換。しかし、解除方法もわからない。
「しかし、面白い能力ばかりだな、戦闘用とはとても思えんが……!」
「先輩、公王がこれだけ喋るってことはだいぶマズイと思うんですけど」
「俺もそう思うが、逃げようとしてもおそらく【エレクトリックフィールド】でやられておしまい。それに遠距離攻撃が主体の俺のスキル構成から考えて、遠距離になればなるほど何が来るかわからない」
つまり、望みがあるとすれば接近戦。そして、なるべくスキルの“範囲外”の能力で勝つしかない。
「では、最初に試すのはこれにさせてもらおう! 【マテリアルブースト】」
「くっ……【チェンジマテリアル】!」
早速厄介な魔法を……!【マテリアルブースト】をフル活用すれば、布製の服が更迭の鎧と同じくらいの強度になるのだ。
俺は素早く手持ちの金属をガントレットに変えてみる。なるべく魔法やスキルは使えない。あくまで「それ以外」で勝負しないといけないのだ。
「これは少ししか知らないけど!」
俺はガントレットを両手両足に装着すると、走って公王に接近し、試しにカウンター気味に右ストレートを放つ。
「ぐぼぉ……!?」
ブヨブヨの腹にストレートは直撃する。それを受けた公王が腹を抑えながら後方に下がっていく。意外と効いているようだ。
「【ヒール】」
「は……?」
ボスの回復は禁止のはずなのに、目の前のボスがあっさりと回復魔法を使用してきて、俺は一瞬膠着する。それ、ありか……?
「くっそ!」
「今度はこれだ、【チェンジマテリアル】」
「くらってたまるか!【魔導結界】」
【チェンジマテリアル】の弱点、それは生物の素材を変える時は膨大な魔力を消費すること、そして結界が張られた素材は変換ができないこと。
もちろん、こんな初級のカス結界でもはじくことができちゃったりする。
「くそっ! なぜ攻撃が通用しない……!」
「今気づいたがな! それってどっちかというと錬金用のスキル、それも原子や分子、素材の細かな特徴を知らなければ変換など不可能だ!そして、俺のスキルはナイフとかを武器を媒体に放つものがほとんど!」
「ぐっ! それがわかればこっちのものよ……! ここには武器が多い!【ソードビット】」
俺の専売特許である【ソードビット】を公王は使ってしまう。それだけは一番使ってはダメなのに……。
俺は少し距離を取り、それを傍観する。すると、症状はすぐに現れた。
「あ…………ああ……ああああ! なんなのだこれは! 脳に、脳に映像が4つも5つも6つも!! 痛い……痛いぃ!!」
「やっぱり……」
もともと【ソードビット】は重力魔法を複数使用しながら、空間座標を瞬時に指定して使うことを想定したスキル。映像とともに点Aにあるビットの一つが次の点Bに行くまでの道のり、距離、角度、高さ、そして速さに加えて正確性、それを4つから6つ同時に行わなくてはいけない。明らかな情報過多。空間把握能力(仮)がなければ、絶対に扱えない、俺だけの専売特許、ユニークスキルとでも言っておくべきか。空間ベクトルの応用でもある。数学Bの授業も馬鹿にならないというわけだ。
そう、つまりあいつが俺の能力を【コピー】したのが間違い。俺のスキルや魔法は本来戦闘用のモノはほぼない。つまり、まともに使えば、負ける。
相手は生まれながらの王。どうせセオリー通りの考え方しかできない教育を受けているに違いない。俺も基本セオリーしか知らない。しかし、ずっとずっと努力をして、変則でいいから、戦えるようにした。
つまりは……。
…………努力が、違うのだ。