第67話 飛竜殲滅作戦!
「ああ、自己紹介送れましたね。私はカエデ……はい、カエデです。リースキット王国軍情報部の人間です。よろしくお願いしますね」
青龍を操っている少女が自己紹介してくる。名前の由来なのかわからないが、金色か赤かきわどい色の髪を後ろでまとめており、澄んだ声をしている。どっかのアイドル系のような印象なのだが、それでいて軍の人間だという。しかも聞きしに勝る情報部の人間と来た。
この国の情報部はいわゆるエリートと出世頭の集まりのような場所で様々な国や盗賊団にまで潜伏、内部工作をする隠密行動のプロ中のプロ。
噂によれば、先ほども言ったが潜入・潜伏・情報工作・暗殺等、いわば王国の影。簡単に言えば日本で言う忍者みたいなもの。
そこの人間が出張ってくるとは思わなかった。
「そんな奴が堂々と青龍に乗って現れるとは……」
「私が最近税を納めてなくて動きが怪しいシェーン商会に売り子に化けて潜入してましたから。丁度青龍村の店にいましたから、私だったんですよ」
「じゃあ、そのシェーン商会にはもうバレたのでは?」
「それはノープロブレムです! 身代わりを置いてきましたし!10分以内に私に化けた別の情報部の人間が来ますし!」
なるほど。さすがは情報部。抜け目がない。
にしても、よくこのドM青龍に乗る気になったな……っていうか乗れるな。
『ひどい……』
「そこまでドMですかねこの子。確かに子供たちが首筋でぴょんぴょん跳ねて遊んでるの見てる限りドMとは思いますけど……」
『カエデちゃんまで!?』
「根はいい子なんですよ? ねー?」
『すっごい馬鹿にされてると思うんだけど……』
いや、実際いいやつなのはわかるんだけどさ。オカマ口調とドMがあるからなぁ…というのが本音だ。
「ああ、そういえばまだ正式な“あれ”言ってませんでしたね。カエデと青龍は、これからオオカワ総司令の指揮下に入ります♪」
「わかった」
今ので俺の目の前にいる少女への印象がエリートから原宿とか渋谷にいるビッチ系ギャルに変わった。つまるところ、苦手サイド。
「でもやっぱオオカワ総司令だと呼びにくいなぁ……」
「あ、そう。もう面倒くさいからなんだっていよ」
「じゃあ……心斗君で!」
どうしてそうなった。いや、なんでもいいとったのは俺だが、どうしてそういう発想になる。これだから陽キャというかギャルというかは慣れなれしくて。
まあ、いい。ここは我慢だ、我慢。
「まず、この飛竜の群れなんとかしてくれない?」
『「合点承知毎度あり!」』
ハモるなや。
「まず、傷の手当しないとですね」
「できるのか?」
「大丈夫です! 私の魔法適正は光・火属性ですし。あと……少しくらいなら精霊魔法も……」
精霊魔法のところで顔を曇らせる。あれ? こいつシルクみたいなやつ?
「私の場合……シルク……えーと、さんのように精霊が無邪気なんじゃなくてそもそも言うことを聞いてくれなくて……」
「ああ……」
わかった。そういうことだ、テンプレだこいつ。
「それはいいとして。【ドライブ・ヒール】! 」
彼女――カエデが無詠唱で【ヒール】の上位魔法を使う。俺でさえ最近やっと【ヒール】を無詠唱でできるようになったんだが……はいすいませんでしたごめんなさい。回復魔法適正は一般人の平均でした。
カエデがかけてくれた回復魔法のおかげで肩の抉れていた部分の傷がふさがっていく。だが、完璧にとはいかなかった。
「サンキュー、こんくらいなら大丈夫」
「ううん、あとで包帯巻くからね。まずは、目の前の敵を!」
『そうだね~、さっさと片付けちゃおっか♪』
いや、あの言いにくいんだけど、あの飛竜はお前と同じドラゴンのはずだが……。
『え? 敵なんだからドラゴンもくそもないじゃん♪』
あ、はいそうですかすいませんでした……。お調子者のおかまドMは意外と冷酷なようだ。というかこのセリフ今日2回目だ。
でもさ。
「上(国王とかから)はなるべく飛竜は生け捕りにしろこの野郎と言われてるんだが」
「ああ、その命令は撤回されてます」
「は?」
え? マジで? そんなあっさりと? つまり今までのは取り越し苦労!? あ、了解帰ったらそんな国王、修正してやるっ!
「それを意識されて防衛に失敗されたらやばいと思われたようです。まあ、金になるからなるべく生け捕りにしろとは言ってましたけど」
「やっぱ修正確定だな」
帰ったら絶対に修正すると決め込む。それで、どうやってこのすばしっこい飛竜の群れを倒すのだろう。
「そりゃ簡単! 青龍は龍だもん。飛竜の苦手くらいわかるじゃん!」
「お前自身は考えてないのかよ……」
こいつ……かなり無鉄砲なタイプ? つまり嫌いな部類に入ると言うことか。命を賭して戦うのだから確実にやらないと意味がない。じっくりゆっくり考えて作戦を実行してこそ意味がある。もちろん臨機応変にその場で変えるのもありだが、変えるのは奥の手でなければならない。
「とりあえず、よろしく!」
『あいよ~』
いつも通り軽い感じの青龍は、再び飛竜の群れに突撃すると、すれ違いざまの敵を蹴りに翼の風圧に尻尾を鞭にしたりしてあっという間に30体を撃墜した。しかも命を取らずにすべて翼の付け根に直撃している。
そんな青龍を見てか、他の飛竜たちは距離を取り、ブレスを放ってくる。それを急上昇でかわして、そのまま宙返り。カエデは一回手を放して、真下に来た青龍に着地するとかいう離れ業を披露した。
「今度はこっちもブレス使って~」
『は~い』
「全軍、青龍のブレスの衝撃に備えろ!」
俺は青龍の攻撃が味方に出ないようにインカムを通して指示を出す。
徐々に高度を上げた青龍は、全ての飛竜を見下ろせる場所で止まると、その大きな口を開け、正面にかなり複雑な魔法陣を展開する。
『いっくよー、【ブリザード・ブレス】』
「からの【リフレクタービット】! 」
ビットがそもそも耐えきれるかどうかはわからないが、あまり地上への被害が出ないように、空中で拡散させる。
飛んでいくビットを見てか、ブレスが細く、そしてビットが絶えれるくらいの威力に抑えられたのがわかった。こいつ結構頭いいじゃん。
とはいえ、さすが青龍のブレス。拡散されて広範囲のその脅威がばらまかれる。直撃した飛竜と操縦者はたちまち前進が凍っていき、3秒もしないうちに分厚い氷が全身を覆い、落下していく。これが、【ブリザード・ブレス】……。
「すげぇ……」
「いや、心斗君も同じだよ! 普通威力を抑えたからと言ってブレスをはじき返して広範囲に拡散させるとかないから!」
ふむ。今のでわかったが、光属性の魔法はほかの属性より反射するようだ。試してみるか。
「ちょっと二人とも目を閉じてくれ」
『は~い』
「なにするの?」
「実験で相手の視界を奪ってみる」
俺の考えが正しければ、この魔法で相手の視界を完璧に奪えるはずだ。
『我が力よ、願いに応じ彼の者の視界を奪え【フラッシュ】』
一瞬、世界が白い光に包まれてた。一瞬のうちに起こった光属性の魔法【フラッシュ】が【リフレクタービット】で拡散されて、有効範囲が伸びたのだ。
そのフラッシュで視界を奪われた飛竜とその操縦者たちは、それから次々に落ちていった。
もちろん理由は、「目が見えなくなって戦闘不能」である。