第65話 守りから攻めへ
-赤坂sideー
「うおおお!」
馬上から剣を振るう。それは相手の盾にはじかれる。馬を操り、そのまま通り過ぎてから旋回してもう一度攻撃を試みる。
馬の手綱を右に取り、左に曲がらせる。駆足で揺れる馬上からもう一度狙いを定めてもう一度急接近。今度は狙いを定めて。
「そこだああああ!」
相手の体を覆う盾。そこにある少しの隙間。そこに剣を走らせる。
「うぐっ……」
剣を通じて感じる生き物の肉を切り裂く感覚。間近で聞こえた悲鳴はすぐにほかの金属音に掻き消される。
増援を要請したのは何時間前か?いや、何分前なのだろうか。1秒という一瞬の時間がそれこそ1分の長さに感じる。
俺は自分の判断で敵の第4陣……10万に奇襲をかけた。第3陣の壊滅・敗走に呼応して飛び立った飛竜部隊、それをなるべく行かせまいと奮闘した。先に攻撃を仕掛けていたパワードスーツ隊も今じゃ数は3分の1にまで減っている。
奇襲して、ある程度敵陣を打ち崩せたのはいいが、退路が絶たれてしまった。数の暴力で1騎、また1騎と脱落していってしまう。
敵の数は確実に減っているが、こちらの数もかなり減っている。
くそっ、このままじゃ……。どうする、こんな時はどうするのが正解なんだ。どうするのが最良で、どこをどういう方程式で解けばいいんだ。いや、そもそもこの人のエゴと感情が交錯する“戦争”に正解はあるのだろうか、正義なんてものはあるのだろうか。
答えは、否だ。答えなんかない、でも臨機応変なんてことができるはずがない。
未熟で、出発前の3時間で基礎基本を叩き込まれた俺に、そもそも4万なんて兵を率いる力はなかったのだ。
それなのに総司令――大川先輩は俺に4万の兵を託した。扱いやすいという理由で3万の騎士と1万の魔導士に弓隊。それも精鋭ぞろい。補佐役に戦略家の伯爵もつけてくれた。
その伯爵もこの奇襲攻撃を提案したら快く承諾してくれた。もちろん最初にただ思いついただけと言ったし、3時間で叩き込まれたとしか言ってない。
しかし、「この奇襲作戦には穴がない」と言ってくれた。街道の周りの森林からの奇襲、敵は絶対に舗装されている道路から来ると思っている。そこを突いた。だが、ダメだった。
「伯爵! このままじゃ……」
「ええ……まずいですね。一撃離脱できると思ったのですが。これは私の落ち度です」
「そんなことはない、俺のせいだ……」
「それは今は一度考えないようにしましょう。いかに増援が来るまで耐えるかを考えるのです」
乱戦になりながらもなんとか合流できた伯爵と敵兵を倒しながら作戦を考える。この場合、増援を待ちながら戦う地帯戦闘がベスト。だが、どうすれば。
こんな時、先輩はどうする、どう戦う。どうすれば……。
『…か、赤坂! 聞こえるか!』
どこからか先輩の声が聞こえる。どこだ、どこにいるんだ!?
『これはお前への一方的な通信だ。オペ子に頼んでなんとかやっている。どうせ「どこにいる!?」とか言って辺りをキョロキョロしていると思うが……』
怖い。一発でばれた。
『なんてな。相棒が既にそっちを捉えている。戦況も把握している。かなり不利だ。ちなみに俺達は今、お前らを見捨てるかどうかの協議に……』
え……ちょ……まさか!?
『なんていうのは嘘だ』
「嘘じゃんよ!」
危うく落馬しそうになったので、俺は相手に聞こえないのも分かりながら怒鳴る。
『こっちは今、敵飛竜隊と交戦中。塹壕作った俺が悪いけど、こっちも押されている。だが、すぐに片付ける』
押されてるのにすぐに片付くのかよ……。
『増援に飛竜隊相手に一方的に蹂躙されるだけという理由でパワードスーツ隊100と騎兵1万を送った。第4陣の南南西から突入してもらう。それを含めてあと1時間持たせてくれ! それまでに必ず片付けて総攻撃をかけよう』
「それだけもつと思うか!」
いくら1万が増援に来たと言えど、精鋭ですらかなり数が減ってきているのだ。そんなの無理だ。やはり指揮官は、上官は現場なんて一つもわかっていない。
『そろそろオペ子がきつそうだから終わりにするが……』
「早く辞めてやれ。指揮官を」
まあ、先輩がいなかったら今頃負けていたと思うけど。
『赤坂、もっと自分のセンスに自信を持て。お前の奇襲するという判断は正解だ。俺でも赤坂の立場だったらそうする。まあ、地雷が無駄になったんだけど……』
「すいませんでした!」
おそらく高原に地雷を設置した後なのだろう。それに関しては申し訳なく思っている所存であり……。
『それは飛竜が踏んでくれたからいいんだけど。とにかく、俺が言いたいのは1つだけ』
それを言え馬鹿先輩。それしかいうことないじゃんよ。オペ子ちゃん可哀そうだろ。
『自分の個性をもっと出せ。指揮にも個性を出していい。なにも教科書が正しいわけがない。戦場はエゴが入り乱れるんだ。教科書なんて役に立つわけがない』
「それ言ったら終わりじゃん」
『とにかく! お前らしさをもっと前面に出した指揮をしろ!』
その言葉が聞こえた瞬間に通信が切れた。あのクソ野郎……言い逃げしやがった。くそっ。俺らしさなんて、わからない。
だが、「~らしさ」という言葉はわかる。要は個性。個性を指揮に出せ、か。
考えろ……考えるんだ赤坂唯一! 高校生じゃなくて騎士、童貞17歳!
俺の個性は……。ネガティブ、英語できない、運動苦手、モテない、模試はいつも仲の中…違う、それは短所だ。
だったら特技と長所を……。計算早い、切り替え早い、大食い……。
待て。今の「切り替えが早い」を使えばいいんじゃないか?
守るんじゃなくて、攻めればいいんだ!
「アカサカ様、どういたしましょう」
「よし! ここは思い切って攻めよう!」
「は……?」
「切り替えだ! 退路がなくなったのはしょうがない。どうせ遅滞戦闘も無理だ。だったら思考を反転させて攻め込めばいい!」
守りから攻めへ。それが起死回生の一歩なり!
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