第62話 開戦
ー新田sideー
『さて……とりあえず全力で攻めるから国全体の21万でだけど……』
「どうかな~、先輩に通用するのかな」
私は、目の前の机においてある水晶玉を見ながら、私とグランツ公王は話をする。目の前の高級茶葉を使った紅茶はとても美味しい。先輩のクッキーほどではないが、受け菓子も上等。
結構いい生活だ。
……どうして捕虜なのにそんなお姫様みたいな生活をしているかって?
それは、半日前のこと―ー
〇 〇 〇
(先輩…私は、バカでした。どうしようもない……正義感に浸っていた馬鹿でした。だから……助けてください!)
そう私は心の中で叫んでーー
と思わせて。
『わが力よ、願いに応じ大地の怒りを示せ! 【アースショット】』
謁見の間の床を媒体にして魔法を放つ。それは細かく、そして激しく床を振動させ始める。要は地震を起こす魔法だ。
「な、なんだこれは!」
『台地が……怒っているのか!?』
残念、ただの地震です。この世界で2年過ごしていて、一回も地震がなかったから、おそらく未体験だろうと思って使ってみたけど、大正解だったようだ。
元々私は日本人。地震には滅法強い。震度4くらいの揺れの中、私は立ち上がって騎士の包囲網から逃れて。
『わが力よ、願いに応じ水の波で押し返せ! 【ウォーターウェーブ】!』
「「「ぐああああ!!」」」
今度は柱を媒体にして魔法を発動。激しい波が揺れに怖がっている騎士たちを一掃する。
「な、なにをする!?」
「逃げ出しはしないよ? 万とかだと対応できないし。だから騎士の監視とかしないでくれない?」
わざと捕まった私が言うのは変だけど、はっきり言ってプライバシーの侵害だ。贅沢だろうけど、監視をしてほしくない。だから、少し反抗してみた。
「そ……それじゃあ捕虜になる意味が……」
「じゃあ……もう一回【アースショット】を」
『わかった! わかったから! 監視しないから許して!!』
もう一度床に手を付けて魔法を発動させようとすると、グランツ公王はボードを掲げて降参の意を示した。
あれ? これ私1人だけでなんとかなるんじゃないかな……。そう思ったがさすがにやめる。あっけないし、それにここで直接とどめを刺すとしても、そのあとの私の命は保証されない。
例えば、そこ。さっきまで偉そうにしてたあの宰相に殺されるかも。というか、この宰相が実権を握っている可能性が高い。
グランツ公王はそれほど野心がないと見える。となれば、宰相の指示で侵攻という可能性を捨てきれない……。
というわけで警戒しながらも捕虜を続けている私であった……。
〇 〇 〇 ー大川sideー
午前3時。回答期限まであと1時間。
午後11時までかかった高原周辺の塹壕作りと、周辺の要塞化が完了し、見張りを除いて全軍が仮眠をとった。
俺も4時間だけだが、しっかり休めた。まだ少し眠かったので、適当な木をサンドバックにして、そしてお茶を飲んで対応した。
今、指令室には一つの水晶玉と、本陣に残っている貴族、あとは伝令の兵士がいる。祈祷の時雨たちはここにはいない。代わりに俺の横にはシルクが立っている。
「全軍、配置完了です」
「わかった。あとは迎え撃つだけ、か」
そういって、再び俺は作戦の確認をする。ちなみに、この水晶玉は、別動隊の司令部につながっている。
「作戦に変更はないが、万が一の時は臨機応変に、それぞれがいいと思う行動をしてくれ」
実際に俺は戦闘には出ないし、現場の状況を知っているわけじゃない。だから現場は臨機応変やってもらうしかないのだ。
俺が現場至上主義というのもあるけどな。
「全軍に次ぐ。まもなく最終回答期限だ。もちろんリースキット王国は降伏することはない。厳しい戦いになるだろう。数で劣らば知略で勝れ。そして、この戦いに神の加護があらんことを……切に願う……!」
水晶を通して、全軍を鼓舞する。これが今、俺ができる最後のことだ。
「あと3分です」
「ああ……あ、シルクお茶ちょうだい」
「はい、ちょっと待っててくださいね」
夜の高原は冷める。寒い、シルクが入れてくれたお茶が、緊張して冷める体の芯に再び活力を与えてくれる。
「……」
「……ああ」
シルクが俺の手を握ってくる。彼女も緊張しているのだろう。手に力が入っている。つーか結構痛い。握力あるんだなぁ…。
なんてやっていたら、時間になった。
「時間です」
俺と貴族たちは揃って外に出る。そこには、丁度グランツ側からの魔法映像が出現したところだった。
『回答期限だ。さあ、リースキット王国……いい返事を用意してくれているよなぁ?』
どすのきいた声を出すグランツ公王が画面に映る。相変わらずムカつく顔だ。手が自然と後ろにマウントしてるバズーカに手が伸びる。
「……落ち着け……そうだ。落ち着くんだ」
そう自分に言い聞かせる。手をもとの位置に戻して、リラックスする。
突然、横合いから「あ……」という間の抜けた声が聞こえる。出したのは、俺もよく知るアルフレッド卿。
「どうしたんですか……こんな時に」
呆れ気味に聞くと、鎧の隙間から一通の手紙を差し出してきた。
「これをオオカワから読み上げてほしいと王が」
「忘れてたのかよ! 今の今まで!」
国書を渡しそびれる貴族……大丈夫なのか?
「時刻午前4時2分、開封承認」
開封日時時刻を確認してから俺は手紙の封筒を破いて、中に書いてある手紙を見る。そこには、しっかりと決別文書が書かれてあった。
これをここで読み上げればいいんだな。
「グランツ公王、聞こえてるか!」
とりあえず、俺は魔法映像の画面に向かって吠える。やり方がわからなかったからしょうがない。
『聞こえているぞ……貴様が使者か』
「そんなところだ。読み上げる。リースキット王国は長年大陸中央の地を守り抜き、この大陸の発展を支えてきた由緒正しき国家である。宗教はこの国ではいかなるものをも信仰する自由がある。しかし、貴国とは国交は樹立しておらず、この押し付け布教は我々の許容範囲を超えるものである。よって、我々リースキット王国は貴国の申し出を断固拒否するものである!」
読み終えると、周りの貴族連中や騎士から「おおおお!」という雄たけびに奇声が聞こえてくる。国書を読み上げた後に奇声はやめい。
『ほほぉ……予想を裏切らないなリースキット。して、貴様の名は』
「俺か? 俺は大川心斗。リースキット王国軍総指揮官だ。どうもうちの新田がお世話になったみたいじゃないか」
『……もう、ほんっとに今になって捕虜にするんじゃなかったって後悔してるわ!!』
その言葉に、周りにいた全員がずっこけた。頭から地面に埋まるかと思うくらいに、だ。
どうやら新田は元気でやっているようだ。グランツ公王の今すぐにでも泣きそうな顔を見る限り、ろくなことをしてなさそうだな。
とりあえず、忠告しておこう。
「殺すなよ? 新田を殺したら貴様だけじゃなくてこの世界の全員を殺してもまだ足りない」
『……え?』
「貴様などすぐにミンチ肉にできるんだ。少し傷つけてそこの傷に塩塗って……貴様が死ぬまでそれを延々と繰り返せる……なんなら胃に火薬入れて体内から爆発させれるぜ?」
『……ちょ……まっ』
「いいか? わかったか? だったら殺すなよ?」
『……はい』
俺は全力で敵の総大将を脅しまくる。少し立場が逆転してきた気がする。
『と、とりあえず! 我に逆らったらどうなるかを思い知らせてやる! 生きてたらいいなぁ! フハハハハハ!』
最終的に捨て台詞をグランツ公王が吐いて、魔法映像は消えていった。
それと同時に、1人の伝令が文字通りすっ飛んでくる。
「伝令! 予想通り敵軍が現れました! 斥候によると敵の数は、21万です!」
「予想通り多い……! だが、作戦に変更はない!」
さあ、来るなら来い……! 俺が絶対に負かせてやる!