第61話 作戦行動開始!
裏切った伯爵の領地内にある高原、そこに俺たちリースキット王国軍は前線基地を築く。
指令用のテントなどを含め堀、柵などを設置していく。15万もいるから、準備はものの10分ほどで終わる。
俺もエルフの大森林から解体して持ってきたログハウスを再び構築する。戦場とはいえ、少しは住環境の快適さを求めてもいいだろ。
今回はさらに司令部のような場所を増設した。場所はキッチンの横。30人ほどが入れるようなスペースをこの前作っていた。本来はここを大広間とか客間とかにする予定だった。それの床を撤去して、PCの投影機(魔法で作成)を設置、地図を投影して、最後に前線基地側の壁に蝶番をつけて改造して玄関からじゃなくても入れるようにする。そこに先ほどの指令用と思しきテントをさらにつなげて、空間の拡張を図った。これにより60人くらいは入ることができるだろう。
作戦会議をしようと思い、近くの塀に命令しようとしてると、横合いから「よっ」と声をかけられた。どっかで聞いたことがあると思いながら声をかけられた方面を向くと、そこには鎧が。視界が鉄の胸当てしかない。と、いうことは……。
「アルフレッド卿か……」
「その通りですぞ総大将殿」
いつもの豪快な性格だが、どこかかしこまっているアルフレッド卿。そりゃあこんな大ごとのさなかでここは戦場だからな。普段通りにふるまえるわけがない。
「いや、それもあるけど」
思い当たるところを全部言ってみたが、どうも違うらしい。少し正解だが、どうやら完答ではないようだ。だったら。
「正解は、これから俺は指揮下に入るから」
「は?」
そういえば、貴族の軍含めて15万だったな……だが、俺が思っていたのは俺が動かすのは王直属だけで、貴族の兵はその貴族(主君)の傘下で戦うのかと。
なんて思ってた俺が馬鹿だった。ああそうだよ。
「アルフレッド男爵、兵2300人、現時点をもってオオカワの指揮下に入る。好きに使ってくれ」
「あ……ああ。協力感謝する」
形式的にそうしなければいけないのだろうか。アルフレッド卿は立膝をついて臣下の礼を取る。本来ならば俺がやるところなんだが。
「と、とりあえずわかったからそれなしにしてくれ……やりにくいったらありゃしない」
すぐに謝って臣下の礼を解除してもらう。突然そんなことされたらこっちの胃が持たない。既にキリキリしているのに。
「はっはっは! そんなことじゃ胃がいくつあっても足りないようだな!」
そういいながらアルフレッド卿がそのごつい指で指示した先には、この国の貴族様たちが勢ぞろい。なに、観貴式? 観艦式ならぬ観貴式?
「全員、君の指揮下に入るそうだ。だから、やめろと言っても今のが、あと数十回は続くわけだが……大丈夫なのかな?」
俺はその言葉に一瞬だが立ち眩みを覚える。内臓が悲鳴を上げている。
「ちょ……そういうのはだな」
「ボーダー侯爵、以下兵5000人、貴君の指揮下に入る!」
「ボーダー卿がぬけがけだと!?」
その後、俺は一列に並ばせて、順々に言わせることで、それを解決した。
もちろんその間は、緊張で胃がキリキリしていたが。
〇 〇 〇
夜。自分で夕食を作って祈祷の時雨と一緒に食べる。赤坂とシルクはどっか行った。俺の横でシルクが何かしら作っていたから、それをもって二人で外で食べているんだろ。
ったく、リア充くたばればいいのになぁ!
「まあまあ。ししょーには私たちいるじゃない?」
「悪いが俺はロリコンじゃない……」
たかが12歳の少女に囲まれたとて、なんとも感じないさ。家に帰るたびに「ご飯まだ~」とか言ってくる従妹と同じくらいだし。
従妹のことを考えてみる。そういえば俺が異世界に転移した日は両親は出張中だったはずだ。大丈夫かな。
「ししょー、どうしたのボーっとして?」
「いや、なんでもない。って、いつの間に大皿の中の料理が八割方ない!?」
相変わらず、すごい食いっぷりだ。さすがは思春期育ち盛りの重戦士3人娘…多く作ったとはいえ、これは……。
「ってか前に来た時よりもさらに食欲旺盛だな!?」
「「「そりゃあこれだけ大きい武器ふるってるし、おなかもすくし!」」」
それで太らないんだよな……こいつらは。
「「「育ち盛りだし!」」」
「自分で言うな!」
さらに追加で肉を焼き、俺も必死で食べる。こいつらとこれから食う時は、全力で早く食べるようにしようと心に決めた。
それから、俺は作戦ミーティングに臨む。俺が今回考えた作戦を参加貴族に話すのだ。
祈祷の時雨はもちろんのこと、シルクに赤坂も参加する。
指令室に入ってきた貴族と祈祷の時雨たちは、初めて見るPCと投影機にびっくりしている。赤坂だけ「また作ったんですね」と言ってきた。それ以外何がある。
あ、ごめん冷たい目で見ないで呆れないで! ため息つかないで!
「それで、なんですかこの立体映像は……」
「ああ、地球時代に俺もVRゲーム解析して作ったことあったろ。それのシステムまだ残ってたからそれ使ってこの高原一帯を立体映像化した」
もちろん、【チェンジマテリアル】とかでカメラをかなり高精度、立体映像を撮れるようにしたけ ど。
「オオカワ……いえ総大将殿、これはなんだ?」
貴族をはじめとするこの世界の住人の代表としてアルフレッド卿が投影機とPCについて聞いてくる。
「これはPC……まあ魔道具みたいなもの。このタイプはノートPCってやつ。それで、これがその画面に映っているのを投射する投影機。要は魔道具内の映像を取り出す道具みたいなものだ」
いろいろ【チェンジマテリアル】で改造しているが、実際はただのPCと自作投影機なのだが。
「まあ、とりあえず。俺が今回考えた作戦はこうだ」
俺はそう言って投影機に作戦時の映像を出す。
「まず、今回は思い切って奇襲作戦に出ようと思う。まず、本陣……ここから300mおきに塹壕を作る。あ、塹壕っていうの堀みたいなものだ。そこに魔導士と弓使いを配置する。塹壕の正面には柵を設置。柵の隙間から弓使いと魔導士が狙撃する。そして、向こうの山の地下に現在ゴーレム含む従属魔獣の群れが向かっている。あそこに大穴を作るから、そこで騎士団は待機。交戦が始まり次第、後ろから強襲し、一気に殲滅する」
自分で言うのもあれだが、かなり強気な作戦だ。魔導士と弓使いの数は全軍のおよそ50%。それである程度遅滞戦闘をして、本隊の騎士たちが来るのを待つ。仮に騎士がこなかったら、すぐに蹂躙されてしまう。奇襲作戦としては成り立つが、少しリスクのある作戦だ。
貴族たちは口々にこの作戦を評価する。6割がたは賛成のようだが、残りは反対のようだ。
「まあ、それだけじゃない……この作戦には続きがあってだな……」
自分でも悪役みたいな笑みをこぼしているのがわかる。これからがこの作戦の面白いところなのだ。
その作戦を聞いた貴族たちは口をそろえて「夢見が悪そうだ」と言ってそれぞれの陣に戻っていった。
さあ、作戦行動開始だ!
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