第60話 出撃
2話投稿の2話目です!
「……以上だ!わかったな!」
「ひぃぃぃ! わかったからその剣を収めてください!!!」
最初に指示を出してから3時間。俺は赤坂へのスパルタ教育に集中した。こいつには今考えている作戦で重要な任務を任せるつもりなのだ。気は引けるが、信用できる手駒がすくない。
こんな時、新田がいれば…なんて思ってしまう。
「ひぃ……ひぃ……」
3時間の間、俺のスパルタ教育を受けた赤坂は今にも死にそうな顔をしている。いくらなんでも情報量が多すぎたのか?
こいつ、意外と覚える関係と計算はできるから、余裕だと思ったのに…
「おい……お前大丈夫か?」
「今話しかけるな! 忘れる! 忘れちゃう!」
こいつ……すっごい必死だな。もうしばらくの間使い物にならない。そう判断した俺は謁見の間から外のテラスに引っ張り出して、自分は中に入る。今は放置プレイをするしかないだろう。
そう思って、その場で不安定気味の精神を落ち着かせていると、伝令の騎士が走ってきて、俺の前で立膝を搗く。
「全軍、出撃準備整いました!」
「よし、全軍を大広場に集めろ。入りきらない場合は、それぞれの持ち場で待機しながら聞け」
「な、なにをされるつもりで?」
「いいから、さっさとしろ」
「は、はい!」
再び騎士は大急ぎで立ち去っていった。
戦意高揚のため、そしてお約束だからという理由で全軍に向けて演説をすることにしたのだが…どうしよう。
とりあえず、適当なこと言っておくか。それっぽい、名言っぽいこと言っておけばなんとかなるっしょ。
そんなことを考えていたら、さっきの騎士が再び現れ、集合が完了したことを告げる。早すぎだろ。
俺は再び赤坂を引っ張って、全軍が集まっているという場所に行く。
そこは、普段王とかが演説するような場所だった。今は、国王がなにやら演説していた。やるまでもなかったか?
「今回、貴君らを導くのはかの“英雄”オオカワだ! 天才軍師の下で戦い、国を守り、新しいものを見てくるがよい!」
「「「「おおおおおおおおお!!」」」」
うわぁ……すっげぇ盛り上がっちゃってるよ……もう出番ないじゃんよ。あと俺は人生教習所じゃないぞ! 絶対「うわぁ。なにこいつ」ってなるだけなんだけどなぁ……。
「それじゃあ、あとは任せたぞ。“英雄”よ」
演説が終わったのだろうか。国王はこちらに向かって歩いてきて、すれ違うところでそんなことを言ってくる。
俺はそのせいで余計にやる気がなくなる。なんでそんなアニメみたいなさ、ドラマみたいなことすんの? ここは現実。異世界とはいえ、現実だぞ?
「まあ……とりあえず適当にやってくるか」
こちらの士気は急降下したが、戦う将兵の士気を下げるわけにはいかない。なので、いい加減なことを話してさっさと出撃することとする。
俺はテラスのようなところに出る。横には護衛……いや、近衛兵がいた。その横にはステフとサリー、反対側にはバーニーとシルクが。なにやっているんだ。まあいい。
さっき現実なのに、みたいなこと言ったが、アニメで聞いたようなこと言うか。ここでやっとオタクの中二病的な部分が出せる。
「突然だが、貴君らは何のために騎士になった」
俺はそう切り出す。すると、下に整列していた騎士や魔導士がざわざわし始める。本当にどうして国家の犬になったかは疑問だが。
「家の誇りのためか? 純粋な愛国心か? 力試し? 推薦されたから? 貴族の子だから当たり前? 自分の名誉のため? いろいろあるだろ」
アニメでは大体こうだったのでそう言ってやると、いくらかの騎士はうんうんとうなずいている。目が悪くても、すぐ横の近衛騎士までもが頷いているからわかる。
「そんな誇り高き騎士の諸君よ。これから貴君らは王の命でこの国に攻めてくる愚か者どもを倒しに行くのだが……、死ぬ覚悟はあるか?」
俺もこの身で体験しているが、人間は死のう、そう考えて行動しても、最後の最後で誰もが怖いと感じるのだ。そんな恐怖と俺たちは戦いに行く。
周りの近衛兵含めて、またざわざわとし始める。
「死ぬほど痛いとかいう言葉はあるが、それは死んでいない。それ以上の苦痛というのが死というものだ。どうだ、わかったか。この中でもしかしたら明日、明後日のうちに顔を合わせることができなくなる者が絶対に出るだろう」
「「「「…………!!」」」」
周りにいる全員が真剣になるのがわかる。
「だが、貴君らがそれを怖がって出撃しなかったらどうなる。考えてみろ。もしかしたら、貴君らの家族が、大事な人が、恋人が蹂躙されて殺されるだろう。絶対にそうなる」
元々この国を攻めてくる理由がそうだからな。100%でそうなるだろう。助かる術は絶対にない。
「だったら、自ずと守るものはわかるのではないだろうか? 貴君らは“国の騎士”として国を守りに行くんじゃない。“守りたいものの騎士”としてグランツの侵略を止める。そうだろ!」
「「「「……ッ!」」」」
「だったら全力で死守しろ! 国は二の次だ! 自分の守るべき“者”を守る力になれ誇り高き騎士たちよ! 怪我をしても、なにがあっても突き進め!」
そう締めくくると歓声が聞こえてくる。え、なに? こんな中途半端なので盛り上がるわけ?
ちょろ過ぎだろ。
とりあえず、士気を上げるという点では成功したみたいだ。まあ、結果オーライ?
それから、俺はすぐに出撃準備をする。先ほどの転移魔法を使える人に頼んで、ログハウスの地下に広がっている武器庫からありったけの弾薬と試作武器をと取り出す。大型のミサイルランチャーは大人数で運ぶ必要があったが。
王国歴443年7月23日午後1時。―回答期限まで残り16時間―
リースキット王国軍と冒険者ギルド、傭兵部隊を含めた計15万6238人、そしてステフ所有のジャイアントゴーレムを含めた従属魔獣6400匹が出撃した。
なお、総大将は大川心斗、そして、赤坂唯一であった。