第6話 今後どうする?
俺たちは無事にシュベルツィアの街についた。正確には、街の外の検問所に。
実は、ここでかなり焦ってしまった。俺たちにはこの世界の身分証がないからだ。学生手帳ならあるが、この世界の物ではない。
熊獣人の人は、そんなこちらの気も知らず、呑気に検問所にいる騎士に話しかけた。
「…………」
「…………、……」
「……………………」
「…………!」
うむ。やはり何言ってるかわからん。異世界語は俺には難しかったようだ。
やがて、こちらに熊獣人の人がやってきて説明し始めた。
「身分証がないとダメなんだが……持ってるか? 」
はい、キター! テンプレその1! 初期は必ず身分証なくて詰む!
だが、考えろ俺。こういう時はなにか言い訳をすればいい。だが……うーん。
そうだ! いっそのこと学生手帳を出して、「これが俺たちの身分証です」的なことを言えば……。
なんて思ってたら、新田が適当に返していた。
「あ、すいません。私達詳しくは言えませんが、国とか関係ない少数民族の出身で、だから古代精霊言語やら変な恰好してるんです」
おお! なんといい嘘だ。この場所では最適じゃないか!
「だが、君はこの人を先輩と……」
「ああ、集落の学校の先輩だったんです。実際、親戚みたいなものですね。そっちのもそうですが」
なんという身分証明! こいつを信用するのやめようか……だがナイスプレー。
「だったらOKだ。犯罪歴がないかを魔石で調べて、翻訳魔法さえかけてもらえば完璧だ」
ふ~ん……翻訳魔法あるんだ。これで本当に言語の問題は解決したも同然。あとは書きだけになる。
熊獣人のヒトの説明を受けながら、赤坂と新田が詰所へ入っていく。そして、俺は1人取り残され……。
「あ、そっちの坊主忘れてた」
忘れんなっ!
とにかく、熊獣人の人が背負って運んでくれた。
〇 〇 〇
検問所の中は、ドラマなどでよく見る警察が事情聴取するところによく似ていた。殺風景で、テーブルには魔石、あとは木製の椅子があるだけだ。
「じゃあ、ここに手を触れて、意識を集中して」
熊獣人の人の説明で俺たちは順番に魔石に触れていく。もちろん、全員反応などない。
「次に、翻訳魔法かけるから。そうだな……少しむずかゆい感覚がするだろうが、我慢しろよ」
奥から真珠のようなものを持ってきた騎士が、ぶつくさ何かを言い始める。
そして、真珠が輝きだし、光が膨張したかと思うと、体がなんだかむずかゆくなった。
「よし……私の言葉がわかるか?」
「あ、はい。わかります」
騎士の声が完ぺきな日本語に聞こえる。翻訳魔法ってすげーな。
「これで、もう通っていいぞ。クマキチ、あとで事情は聞きに行くからな」
「おう。夕食ついでに食ってけ」
「そうさせてもらう」
クマキチ……まさかとは思うが、この熊獣人の名前?
「クマキチさんっていうんですか?」
赤坂が聞きずらそうに質問する。
「ああ、その通り。自己紹介遅れたな、クマキチだ。元冒険者で、今は宿屋を経営してる」
「じゃあ、こっちも。俺は赤坂っていいます。こっちが新田、で、怪我をしてるのが大川先輩です」
「新田明里っていいます。よろしくお願いします」
「大川心斗だ…よろしく頼む」
「おう……アカサカにアカリにシントだな」
何故赤坂だけ、苗字呼び? まあ、下の名前名乗ってないからだけど。
熊獣人あらためクマキチさんは、再び俺を抱えて、馬車に戻ると、今度は街の治療院に向かってくれた。
〇 〇 〇
治療院は、現代の病院のようなところではなく、見た目はそこら辺の住宅だ。中世風の街並みであるシュベルツィアの街の中央付近にあるこの治療院は、どこかイタリアの民家のような印象を受ける。
「神よ、私の願いに応じこの者に慈悲を。【ヒール】」
「おお……」
中で俺はまだあどけなさの残るシスターに回復魔法をかけてもらった。
不自然に足の痛みが消えていく。完全に治ったようではなかったが、幾分か楽になった。
「すいません……まだ【ドライブヒール】が使えなくて。今日はメインの先生がお休みで、急遽私が担当することになって……」
「あ、いや、大丈夫ですよ。もう痛みほぼ引いたし。普通に歩けるくらいには」
「あまり無理しないでくださいね。治癒魔法は基本的には外傷などを治すだけの効果で、今回は骨自体の耐久度は変わってませんから。いきなり走ったりするとまた折れちゃいますので、今後3日ほどは激しい運動しないでくださいね」
そう俺は諭された。なんだろう、涙が出る。誰も今まで俺のことをこんな風に心配してくれなかったから……なおさら。
「また今度、お礼持ってきます」
「お大事に~」
ああ、そうか…俺の人生のメインヒロインは異世界にいたのか……!
……という冗談はさておき。
俺たちは、かなり重要なことを忘れていたことに気づく。
「今日の宿、どうする?」
新田のこの一言。それに俺と赤坂はビクッとした。
「ど、どうします先輩! 俺たちゴルド持ってませんよ!?」
「うん、知ってる。持ってる方がおかしいから安心しろ? 銀色の硬貨なら持ってるが、紙紙幣は使い物にならないだろ」
「500円玉は? 金色ですし」
「いや、そもそもこっちの質屋が買い取るかすら怪しいぞ……」
それを道端でこそこそやってると……救世主が現れた。
「なんだ、今日どっかに泊まる金もねぇのか。うちの宿なら、3部屋貸せるぞ?」
クマキチさんは、当たり前のようにそんなことを言い出す。いや、でも悪いような気が。
「いや、大丈夫だ。最近は忙しい時期でもないし、まだまだ部屋も空いてるから」
おお! 神よ。神は、ここにいる……!
後輩ズもそう思ったらしく、クマキチさんに両手を合わせてなにかを祈っている。
こうして、俺たちは今日の宿を手に入れたのだった。
おまけ ー回復魔法をかけたけど……ー
「あまり無理しないでくださいね。治癒魔法は基本的には外傷などを治すだけの効果で、今回は骨自体の耐久度は変わってませんから。いきなり走ったりするとまた折れちゃいますので、今後3日ほどは激しい運動しないでくださいね」
そう俺は諭された。なんだろう、涙が出る。誰も今まで俺のことをこんな風に心配してくれなかったから……なおさら。
そして俺は、寝かされていたベットから降りて、そこから立とうしたら……。
……ボキッ。
派手な音を立てて右足が折れた。
「……また折れたんですけど」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさーい!! 新米だからうまく出来ないんですぅー!」
……入院することになりました。