第59話 リースキット王国防衛会議 2
「さて、今この国の状況をまとめるとするか……」
王座の間のレッドカーペットの上に俺たちは座って、話し合いを始める。王も床にあぐらを掻いて座っている。これも王にあるまじき行為だ。
だが、俺はわかった。この王様、俺たちと同じだ。多分同じオタクの分類に入るのだろう。
後ろの祈祷の時雨とシルクもそろってボケーっとしている。俺もあと少しで彼女らみたいに目のハイライトが消えるところだっただろう。
「今、この国には隣国……グランツ帝国が攻め込もうとしている。4時間30分前に宣戦布告と降伏勧告と同時に敵の目標の一つである“ニッタ・アカリ”の拉致を宣言し、事実確認が完了、さらに隣接している領地を持っている伯爵が蜂起、グランツ側に味方した。そして、回答期限は19時間30分後。それまでに回答がない場合はニッタ・アカリを殺害をする……と」
「……ああ」
新田の名前が出てきて、俺は少し胸が痛む。俺が、しっかりしていなかったから。俺がちゃんとしていなかったから。
だが、俺は取り返す。俺はこれから取り戻す。そのために、ここに来たのだから……!
「それで、使える人数と装備、俺に任せても洗える人数はなんだ」
「もう聞いていたか。なら、説明する暇が省けた。オオカワ、お前に任せるのはリースキット王国の……全部隊。軍の全権はすべてお前に任せることになる」
「はぁ……?」
俺は、再び凍り付く。今、何と言った? 全権? リースキット王国の全部隊を俺が指揮する、だと?
それは……。
「知っての通り、隣のグランツ帝国は強い。前回こそたまたま追い返すことができたが、今度はそうはいくまい。それに、こちら側からも裏切り者が現れた。こちらの戦法は敵に筒抜け、既存の戦法じゃまず負ける」
「そこで、俺の出番というわけか」
確かに、負けているとはいえ、作戦が筒抜けじゃあ、無理もない。この王国はあくまでも商業国であり、軍事関係には疎いはずだ。
軍師はいるのだろうが、決まった作戦しかしないのかもしれん。それなら、俺が適任ということか……。
「じゃあ、その全軍の概要を……」
「おお、そうだったな。この国で現在動くことができる人数は約15万。騎士11万4000人と3万5000人の魔導士。そして1000人のパワードスーツパイロットだ。騎士の中だと、騎兵が2万、歩兵が7万8000人、重装部隊が1万6000人だ」
「なるほど……多いな」
俺が指揮したことがある人数は、400人。正確に言えば482人。それの約40倍の数。
これは……無理だな。
「俺には扱いきれないのが本音なのだが。つーかいくらなんでも少なくないか?」
一国の総戦力が15万は少ないだろう。確かに“今動ける人数”が、だ。他はいったい何をしてるんだ?
「ああ、あと5万ほどいるが、町や村などの防衛の任に就かせてる。それらを除けば、この人数のみ。あとはギルドが人員を派遣してくれる可能性も高い」
なるほど。大目に見て15万と1000人がいいところだろうか。
「ちなみに、敵の予想戦力は?」
「一気に落としたいだろうからなぁ……前回は3万だったが、本気で来るとなると20万はいそうだ……それに、相手は飛竜も使ってくる」
なんとなくブラックドラゴンみたいのに乗っている敵兵を想像する。対空戦闘をしなければいけないか。
そして、人数で劣勢になるのだったら、俺が得意としている分野。作戦で勝れば、数万の差はすぐになくなる。
ここは指揮官の見せ場なのだろう。
「まずは偵察を出させるか?」
「いや、それは関係ない。どっちみちしろ、全軍で叩きに来るだろ。それに、国境は1つだけ。しかも山脈。馬とかが通りやすいところからくるだろう。街道も1つだけ。だから前回と同じこの高原で迎え撃つ」
俺は地図を広げながら、そういう。裏切った伯爵はグランツに亡命したと聞いている。つまり、ほかの方面から攻め込まれることはない。そして、伯爵量に通る街道は王都方面の1つのみ。周りは魔物がうじゃうじゃいる森。魔物討伐で戦力を消耗したくないはずだから、まっすぐに来るはずだ。仮に別方面に動いても、防衛にあたっている部隊から連絡を貰えばいいだけのこと。
だが、飛竜部隊はそうはいかないな……空は広い。どこへでも行ける。今回の迎撃作戦で一番の脅威となる。
「ししょー、それについては考えがあるんだけど」
「なんだ……って誰が言ったんだ?」
俺はみんなの顔を見ずに返事をしてしまった。声的には祈祷の時雨の誰かだ。しかし、そこは腐っても三つ子。見当がつかないくらい声質が似ているのだ。それに、俺はまだこいつらを知ってから……えーと、まあ、大雑把に言うと半年も経ってないんだ。わかるはずもない。
「えーと、サリーだよししょー」
「え? バーニーでしょ、バカステフ」
「ステフですよ、ししょー」
子供がいたずらをするときの独特な笑みを顔に出しながら、3人はそれぞれ違う人を指す。
こんにゃろう……今すっごい大事な時なんだけど。
まあ、いい。こういう時は相手の心を全て読めばいいだけ!
「ぬン……!」
俺は3人を凝視して、ほかの生物的思考行動を止める。とっさにバーニーとサリーが目線をそらす。もうわかった。でもやるなら本気でやるので、ここからさらに集中していく。
全員がおびえているのが手に取るようにわかってきた。その情報はジャンクだ。もっと、もっと深く……。
ふむ、わかった。
「で、ステフの意見というのはなんだ?」
「すっごい! どうしてわかったの!?」
ステフは声に出して、サリーとバーニーも驚いた顔をする。赤坂とシルクも正解した俺を凝視して……ってやめてそれ。怖いから。
「わかったのは簡単。俺がそっち見たときにバーニーとサリーは視線をそらした。それも左に。左に目をそらすと、高確率で嘘をついているときだからな」
「え、そうなの?」
まあ、俺が読んだ本には少なくともそう書かれてたな。それに中学校のの時の担任とカウンセラーも大学でそう習っていた。実際のところどうかはわからないけど。
「で、念のために読心術を」
「「「それだけは勘弁して!」」」
3姉妹は脊椎反射をも超えそうなスピードで返してくる。でもさ、もうやっちゃったし。
なんか変なことはなかった気がする。
「どれ、その見てほしくないのが気になるからもういっちょ行くか?」
冗談で俺はもう一度同じようなポーズをとろうとしたら、3今井は大慌てで部屋の隅まで移動していく。
冗談だと教えてやると、全員が反射的に戻ってくる。やっぱお前らの行動パターンが読めん。
「まあ、まずその方法を教えろ」
「あ、うん。それはね、これ使うんだよ」
そういって、ステフがポケットから何気なく取り出したのは、地雷である。子供が「ああ、これこれ」みたいなノリで出してくるもんじゃない。
ちょっと引き気味の俺に、ステフは続ける。
「これ、実は改良してあって、ここに棒をはめ込むと、上に建てることができるでしょ?」
「まあ、そうだが」
「それに、幻影魔法が使える魔導士を数名と、護衛騎士数名でチーム組ませて、見えなくすればあら不思議! 空中地雷になるんだよ!」
「…………」
……はい、その発想は全くありませんでした。そんな考えがあるとは。
「でも、遠距離のブレスはどうするの?」
「あ。それは大丈夫。今からこの支柱を熱を逃がす構造にすり替えれば……出来るかも?」
考えてなかったのかよ。
「それに、それはあくまでも罠だから攻撃手段じゃないじゃん。本命はこっち」
そういって出したのは、一本の矢。その矢じりの部分には、見慣れたものが塗ってある。
「おい! まさかそれって」
「そう! 酸反応性爆弾の火薬の薬草をすりつぶしたやつ! すりつぶしても爆発することは確認済み!」
つまり、これを【ドリルショット】とかでどうにか体内に入れれば、数分もたたず飛竜は木っ端みじんに……。
想像しただけで俺は寒気を覚える。よくそんな非人道的な使い方を思いついたな。そこら中から「お前だ!」って声が聞こえるけど聞こえない聞こえない。
「国としてはなるべく飛竜は無傷で捕えたいんだが……かなりの戦利品になるし」
確かに。飛竜は高い。だから売ればものすごい金になるだろう。それを木っ端みじんにすると、素材すらも使えない。却下だな。
飛竜は空を飛ぶのか。だったら空のコンディションが悪かったら何もできないんじゃ……。
「なあシルク。風とかの魔法で空の天候とか変えることできないのか?」
「え、はい変えることはできますよ。水の戦略魔法の1つに【ヘビーレイン】というのがあります。それは簡単に言うと周囲1キロくらいを大嵐にする魔法です。水滴も一粒一粒が大きくて、速度を落とさせたりするにはこれが一番です。あとは戦略魔法ほどじゃないですが、【サンダー】と【竜巻】で疑似的に嵐を再現することはできます」
ふむ。どれも魔法か……魔導士が必要だな。
「なあ王様。その警護に出ている3万のうち、魔導士はどれだけいる?」
「ああ、1万はいるな……」
予想外の数字が返ってくる。それだけあれば、いける。
15万なんて馬鹿みたいな数を指揮するのは初めてだが、俺らしくやれば大丈夫だろう。
……いける!!
「じゃあ、今からでも俺は指示を出すことはできるんだよな?」
「おお、やってくれるのか!?」
王は俺の言葉に反応して目を輝かせてこっちを……ってそれもやめろ!
やってくれるのか!? ってことはやっていいってことだろ!
「じゃあ、今から俺が指揮を執る。全軍、出撃用意! 各町の防衛隊に飛竜を確認したら魔法で嵐を起こすように通達! 出撃は3時間後だ!
「「はっ!」」
近くにいた護衛騎士がそれを受けて大急ぎで走り去っていく。さらに、周りに残っていた貴族に大臣も大急ぎで散開していった。
「なんで貴族までいなくなるんだ?」
「あいつらも自分の兵に準備させるんだろ」
「え、でも」
おそらく、15万の中には彼ら貴族の兵も含まれてるんだろう。
それなら好きにさせといたほうがいいだろう。
「よし、お前らも準備しろ。ただ傍観させる余裕はないからな。あと、赤坂はちょっと来い。今から指揮のイロハを叩き込むから……」
「「「「はい!」」」」
「え? ええ?」
俺は部屋の隅に赤坂を引きずっていき。それから3時間休みもせずに最低限の指揮行動を叩き込むのだった。