第58話 リースキット王国防衛会議 1
「俺が指揮を執る? なぜ」
「失礼ながら、オオカワ様は適性や戦闘能力で言えば、サン……いえ、2流程度です。いくら魔力が多くて、かなり難易度の高いスキルと魔法を持っていたとしても、簡単に岩龍とかを倒せるはずがありません」
目の前の副団長は、俺の弱点を余すことなく話してくる。
ほんと、返す言葉が見当たらない。器用万能であるが上に器用貧乏。適正でいえば3流から2流のはざま。はっきり言って、お呼びじゃない。
だが、俺の本来の役職はサポート。それがわかっているんだろう。
「つまり、オオカワ様が強いのは繊細にして、その中に大胆さがある指揮能力というわけです。烏合の衆とて、賢将を持てばあっという間に最強に変わりえます。それに見たところ、かなり癖のある方々をまとめていらっしゃる。改めて今回の任にはオオカワ様が適任であると感じました」
いや、うん。なんかかなり期待してくれてて、さらによいしょされてるのがわかる。おだてても何にも出ないぞ。
だが、言ってしまえば、軍隊の規模で作戦はガラッと変わる。そして戦略家にもそれぞれ得意な戦法がある。ゆえに指揮できる部下の人数にも適正というものがある。
物量戦や猛攻戦法が得意な指揮官は大規模の軍を動かすのに適性があり、一撃離脱や奇襲戦法を得意とする指揮官はむしろ少人数の方が得意だったりする。
ちなみに、俺はオールラウンダー……つまり大人数でも少人数でも大丈夫ということだ。
ま、経験を積んだのがRPGMMOのギルド戦とは大声でいうことはできない。
大規模ギルドで物量戦を指揮したり、少人数の別動隊で敵の本体を壊滅させるための奇襲戦法をやったこともある。
「で、結局先輩はどのくらいなら指揮できるんですか?」
はっきりとしない得意分野に、とうとう赤坂がキレ気味で問いかけきた。そうキレるなって。
「どっちかっていうとトリッキーな戦法が得意だよな~……物量戦と見せかけてゲリラ戦やったことあるし。真正面に展開すると見せかけて、トラップで敵全員毒沼に落としたことあるし」
「「「「「うわぁ……」」」」」
「あとはメンバーを森に擬態させて、それで奇襲とかの物量戦とか。前線にわざと隙間開けて、そこでこの世界で言う戦略魔法ぶっ放して敵を吹っ飛ばしたりとか」
「「「「「うわぁ……」」」」」
頼むからいちいち「うわぁ」って言わないで。ドン引きしないで。別にこれは普通だから。
そんな核爆弾で無差別爆撃やってるわけじゃないでしょ?
「それでも、えげつないことしてますよ……?」
バーニーも若干引き気味でこう言ってくる。まあ、あんま常識的な戦法とか作戦じゃないのはわかってる。でもね、どのMMOゲームの上位ギルドの戦略家は全員俺みたいな思考回路をしているはず。
作戦で負けたことは多いし、無敵というわけじゃない。
それに、現時点では味方の装備、使用可能スキルに戦略魔法もなにもわからない。これは指揮官にとってはかなり致命的なことだ。
「それはわかるのか?」
「それは、これから直接王にお聞きください……」
ふむ。さすがにこいつの立場では話すことができないのか。だったらさっさと王城で王を問い詰めるしかないな。
「あんまり……その、物騒なことはしないでいただきたいんだが……」
「もちろん、そんなことはしない。お尋ね者になるのは嫌だからな」
それから何度か生返事を返していると、すぐに王城にたどり着いた。
〇 〇 〇
王城の東側ーーこの国の騎士団が陣取っている場所で馬車を降りる。今回、正面から出ないのは、俺たちが軍事関係での来訪者だからだろうな。
俺たちの一団を見た人々は、啓礼をしたり、舞台全体で捧げ剣をやってくる。スクールカースト最下位がよくここまで成り上がったもんだと自分でも思う。これもオタク趣味に走った結果と言えよう。
そんな中、王城内を歩いていると、気になる区画を見つけた。そこには、ゴーレムのような巨人が鎮座していた。
しかし、何かが違う。局部にはハッチのようなものがあり、手や足、装甲もよくよく見れば人工物じゃないか。
「これは……まさか!」
「ええ、パワードスーツです」
あ、はい。さすがに「まさか……ガン〇ム!」と言おうとしていた俺が馬鹿だった。まあ、この答えが出てきたのだから、少し落ち着けているということだ。
「つい、最近のことです。元々パワードスーツはありましたが、戦闘向きではなかったんです。それをうちの宮廷魔導士や研究者が日夜努力をして、やっと人体搭乗、人体着脱の2つをもつパワードスーツを完成させたんです。あれは人体搭乗式のパワードスーツですね。まだ名称は決まってなかったはずです」
なるほど。まさかこんなところでパワードスーツを拝むことができるとは……。新田、捕まってくれてありがとう!
あとで乗せてもらおうと誓い、さっさとこの国の王様と謁見することとする。
王城を進むこと10分。俺たちはやっと謁見の間と思しき部屋のドアの前にやってきた。
やはりドアがでかい。威厳をも感じさせるドアには、金銀でいろんな模様があしらわれており、中央には王家の紋章が。この国の繁栄っぷりをさらにみせつけられた感じになった。
「どうぞ、お入りください」
ドアが開かれ、目の前にまっすぐに伸びるレッドカーペットが現れる。左右には近衛兵が並び、奥には貴族とか大臣のような民衆がいる。
周りのみんなは緊張しているのか、歩き出しそうにない。あのステフでさえ細かく震えているのだ。すげぇな王様。
別に俺はこういうのでそこまで緊張しないし、第一印象で舐められたら終わりなので、堂々と入室 する。それに赤坂が続く。赤坂は剣を腰から外し、鞘の上から刃の部分を鷲掴みにしている。確か、 これで鞘に手が置かれてないという理由で、敵意がないことを示すんだっけ。
俺に騎士道精神はわからん…。
「そこで止まって、申し訳ありませんが……」
「立膝ついて臣下の礼をとれってか?」
「その通りでございます」
横にいた副団長が俺たちに指示を出してくる。言われたとおりに俺はすぐに臣下の礼を取る。後ろについてきていたみんなもすぐに同じことをする。かなり緊張しているのか、動きがドットのようにカックカクだ。
「殿下、お言いつけ通り、オオカワ・シント殿以下5名をお連れしました!」
「おお、ごくろうさんごくろうさん。ゆっくり休むがよい。って言っても、すぐに戦になるだろうがな」
「はっ!ありがたきお言葉!」
あー、こういうやり取り嫌いなんだよな。王族がこうえらそうにしているのはむかつく。人の下につくのがむかつく。見下されるのが嫌いだ。
願わくば、今すぐ目の前に鎮座している王と貴族どもに右ストレートでいいから殴りたい。
新田がいないのが情緒不安定に一役買っているんだろう。
「よろしい。では皆の者、面をあげてよろしい」
王の号令に倣い、俺たちは片膝をつきながら顔を上げて王の姿を見る。
……王は意外と若かった。ひげはもじゃもじゃだが、別に白髪ではなし、童話に出てくる王様のような姿じゃない。雰囲気と、太り気味で、ペンギンみたいな体系はいただけないが、温和そうな印象を持つ。
「そなたが、“英雄”オオカワか……」
「え……ええ。確かにそうは呼ばれてますが」
いきなり「お前がそうか?」と聞いてきたので、そうだということを伝える。少し緊張してきた。
「大川心斗と申します。今回はお呼びいただいて……」
「ああ、いいからいいから堅苦しい。余は堅苦しいのは苦手でな……別にあぐら掻いて座って話とかしてもかまわないのだが、一応公式の形式だからな。しょうがないのじゃ」
「は……はぁ」
突然、王は砕けた調子で話してきたので、少し拍子抜けしてしまった。確かに、王の目には野心というものを感じないし、悪い人じゃないというのが伝わってくる。
存在感は薄いが、その中に確かに威厳がある。まさに典型的な賢王ということなのだろうか。
「さて……と」
王は王座を立つと、まっすぐにこっちに向かってきて、やがて片膝をついている俺の前にやってきて、おもむろに腰を下ろして、
「よう来たな。今回はよろしく頼むぞ」
と、言ってきた。
この王にあるまじき行為に、俺たちはしばらく呆然としていた。