第57話 呼ばれた理由
久しぶりの予告なしゲリラ投稿になってしまった。
「でかい……」
それが、王都の城壁を見て第一に思ったことだった。
ビル6階相当の高さのそれは、真っ白で汚れがなく、この国の繁栄っぷりを象徴しているかのような錯覚に陥る。
なんでこんなにもきれいなのかーー
すぐに答え分かった。
「あれは……」
左右に広がる城壁にいくらかの人がとりついて、一心不乱に城壁を磨いているではないか。いったい……。
「ああ、あれはこの王都のスラム街とか失職者の皆さんです。なんでも王様がその人たちの救済用に公共事業立ち上げて、それで低所得者を雇っているらしいです。そのため、この国のスラム面積は、この大陸で一番少ないんです
なるほど……そういうことか。ニューディール的な?
そういえば、俺たちは最近になっていくら金を稼いだのだろうか。ギルドに頼んで報酬は預かってもらっているが、最近引き出していない。
そろそろ確認しなくては。
「そろそろ検問所ですよ、先輩」
俺が考え事でボーっとしていたのだろう。赤坂が声をかけて、俺に注意を促す。
「本当に、この国はちゃっかりしてますね……検問所では何が何でも通行税を払わせてるみたいです」
「商業国だし、大陸中央だから当たり前っちゃ当たり前だな。俺がこの国の王様だったら絶対にそうする」
おかげで、こうやって公共事業にも乗り出せているんだから。この国の王様はかなり頭がいいようだ。話が通じそうな予感がする。
そう思っていると、とうとう検問所についた。
〇 〇 〇
意外にも、検問所はあっさりと通過することができた。
というのも、ホーネストに持たせた書状を見せ、水晶玉での審査だけだったからだ。
そりゃあ王様からの呼び出しだから、書状が本物か、その本人かだけで済ませるわな。
「ししょー、こっち! こっちにある広場に馬車が迎えに来るらしいよ!」
「なんでんなことがわかる」
「さっき検問所の騎士が教えてくれた!」
いつになく元気なステフ。悪いがこちらには悩み事と苦しみしかないんだ。そんな明るい声が出せるわけがない。
「ここが王都か……」
「城壁付近とはいえ、けっこう立派な建物もありますね。結構栄えているのかも」
初めて見るこの国の首都に、俺と赤坂は首を振りながら景観を眺める。この国にしては珍しい5~6階構造の建物がかなりあるように思える。1階を商店にして、2階より上を居住区にしているのかもしれない。
「そっか、ししょーたちは来るの初めてか」
「ししょーたちが住んでた場所のことも……」
「聞きたいです!!」
……バーニーからサリーとつないで、最後はシルクかい。いや、普通そこはステフじゃないの?
あ、だめだ。はしゃぎすぎて周りが見えてない。
とはいえ、東京をどう言い表せばいいのだろうか。
少し小さい都市部と住宅街があるといえばいいか……。
思えば、その小さな都市部には多くの観光客が訪れて……オリンピックまでも開催されていたのか。
「ほんと」
意外だよな。あんなちっぽけな国の首都が、世界でもトップクラスに発展した都市になっているとは……。
「まあ、いずれな」
赤坂もシルクに迫られて困っていることだし、とりあえず逃げの一手を打っておくこととする。
それまでにどう説明するかを考えておこう。馬鹿正直に車とか山手線とか、虎ノ門ヒルズとか教えても、わからないだろう。
さらにわざとらしく追及してくるバーニーとサリーに生返事を返しながら進んでいくと、すぐに広場についた。
そこには、数十人の騎士が整列しており、中央には王家が使いそうな豪華な馬車があった。ステフが門番から聞かされていた迎えなのだろう。
「捧げ―、剣!」
隊長と思しき騎士の号令で、整列していた騎士全員が俺たちに捧げ剣をしてきた。うわ、とうとうされちまったよ……。
赤坂は、あわてて剣を引き抜いて、刃を下にして逆さ持ちにする。あとで聞いた話によるとこの国の騎士の流儀らしく、刃を下にして、剣を持つことで、相手への敬意を返し、敵対意思がないことを示すのだという。ちなみに、騎士じゃないならそのまま会釈。
それをしっかりしてから、馬車に乗り込む。全員が座り終えると、騎士たちは捧げ剣を解除して、馬に乗っていく。最後に、先ほど号令をかけた騎士が、この馬車に乗り込む形になった。
おそらく、護衛なのだろう。
「皆さんのご到着、お待ちしておりました。第12護衛騎士団、副団長のアンドレアと申します。僭越ながら、私が王城までご案内させていただきます」
丁寧に頭を下げる副団長に、俺と赤坂は反射的に頭を下げる。しょうがない、日本人の癖だ。ちなみに、シルクとサリーも俺たちにつられるように頭を下げていた。
すぐに馬車は動き出し、周りを2頭の馬が固め、前後に10頭前後の隊が周りを固めている。
「さすがに、我々も必死ですので。護衛に特化した隊列を組ませていただいてます。申し訳ないですが、観光はまた今度に……」
「お前だ、ステフ」
窓にへばりついていたステフにむかって持っていた紙を素早く紙飛行機にして後頭部と投擲する。それはちゃんと直撃し、痛かったのかステフは頭をさすりながらしぶしぶ席に着く。
周りからは「おみごと」だの「さすがししょー」だの言われる。うるさい。
「いきなり神業を見れるとは…【チェンジマテリアル】でしたね……これは一部の錬金術師がやっとできるスキルですが、こうも簡単に使われるとは」
あーうん、俺も最初のうちはすっごい苦戦したから。最初に成功したのは、水を水素と酸素にわけること。そっから、塩酸とか水酸化ナトリウムとかいろいろ試したのだ。
わかったことは、分子とか原子レベルで構造さえわかれば、あとはイメージするだけなのだ。
化学はあまり得意じゃなかったが、鉄(Fe)をカルシウム(Ca)にするときに、その原子の名前さえわかれば、一発。少量でも含まれてればそれを増幅させるイメージにするだけなので結構便利。
「まさに聞きしに勝る能力をお持ちになっているようだ……近衛兵の団長殿が「手合わせしたい」と日々言っているのが納得できます」
え? なにそれ。近衛兵の団長だろ? つまり騎士団長だろ? あれじゃん、すっごい強いやつじゃん。
確かこの前相棒が持って帰ってきた盗撮映像で、「数でなんとかなる」って言ってたやつか。それでも要注意人物にされてるんだから強いんだろうな……。
「あ、まあその話題はこのくらいにして」
だったらもう少し早くしてくれ。既にステフからの追及に耐えきれなくなりかけてるから。
「今回、皆さんをお呼びしたのにはわけがありまして」
それは言うまでもない。こんな器用貧乏な俺は、この国じゃあ”英雄”扱いだ。それを呼ぶのは当たり前。赤坂も冒険者の最強騎士と言って過言じゃない威力を持っている。
祈祷の時雨は前線維持に一役買ってくれそうだし。一応子供でもシュベルツィアギルドの【エース】だ。
「ええ……まあそれもありますが…」
「それに、うちの新田がなぜか勝手に捕まったしな」
「ああ……おそらくは「どうせ助け出してもらえるし、隙見て壊滅させよ」とか言っておいてあの死亡通告聞いて「やっぱ助けて~!」ってなってるんでしょうね」
あ、わかる。すっごい赤坂が言っていることがわかる。そんな新田の姿がありありと目に浮かぶ。わかりたくないけどわかる。
「それもあるんですけど……」
「じゃあ、ほかに何があるんだ?」
さすがに、その2つで理由は十分にある。勝手に仲間が捕まっている、かつ王国でも強い部類に入るとなれば、前線に出して当たり前。
ほかに何が。
「えーと、申し上げにくいんですが……」
「大丈夫だよ、ししょーには何言っても許されるんだから」
「ん? ステフ、今すぐ死にたいか?」
今度は隠し持っていた手投げナイフを3本取り出して、構える。いっそのことここでこいつを殺しておくのもありだな。騒がしいし。
「では……言ってしまいますと」
いや、そこは聞けよ副団長。
「今回、お呼びしたのは、我らが王、アンタレス8世様の「会いたい」という意見に加え、戦術家でもある”英雄”オオカワ様に全軍の指揮を執っていただくためでして……」
「は?」
……俺が一国の軍隊の指揮をするだって?