第52話 信頼感
ー新田sideー
「はいよ嬢ちゃん、これが頼まれてた素材で作った杖だ。ぶっちゃけ、その魔力でその杖を使えば……頼むからそこらへんで魔法撃たないでくれよ……」
「わかってるよおじさん。私のことなんだと思ってるの?」
いつも、私が魔法道具などを買いに来てる店に頼んでいた杖がやっと完成した。少し重たいが、魔力を拡散させないで収縮する性質がある魔法金属で作られた杖だ。私はこの店主のおじさんに頼んで銀色に着色加工してもらった。
まあ、まず……。
「試し撃ちさせてね」
「待て待て待てぃ!! そんなことされたら【フレイムランス】一発で吹き飛ぶ! 魔力を中央に収縮させるから威力が段違いなんだよ!」
「え……」
そ、そんなに威力があるの? 確かに私の魔力量はそこら辺の同じ魔導士とは比べ物にならないくらい多い。先輩にも赤坂にも言えることだけど、その中でも私がずば抜けて高い。
そこらへんで魔法撃てば大惨事になることくらいわかっている。でも、試射場は魔法を拡散させて 軽減させる特殊コーティングだから大丈夫だとは思ったんだけど……。
「いや、さすがに実戦でやってくれ! 壊れる……【アイスショット】の一撃で普通にこの街だけ氷河期になるわ!」
「そんな実力ないから」
というか、最近になってやっと水の中級攻撃魔法をまともに使えるようになった私にそのような芸当はできない。
魔法適正さえあれば、先輩はできるんだけど……不器用だから、私は。
「ま、まあとりあえずギルドの試射場にでも行ってくれ!」
そうか、そこまでなのかな? 私はそこまで力もっちゃったか。だからさっき先輩が「気をつけろ」って言ってたのか。
「じゃあ、とりあえずギルドの試射場にでも行ってみよ。先輩も多分いそうだし」
「そ、そうしてくれ」
店のおじさんにドン引きされつつ、私は店を出る。
「あ……ちょ……」
段差を降りようとしたとき、変わったばかりの杖の重さに驚いて、ぐらついてしまう。
「大丈夫なのか?」
「あ、あはははは……」
苦笑いをしながら私は外に出て、ギルドに行くために、目的地に行く道を歩いていく。
そして、それからすぐ。私はなんで護衛(先輩)についてきてもらわなかったということを後悔した。
私は屋台街を抜けて、人通りの少ない通りの裏道との角に通りかかったとき。
「……動くな」
「!?」
いきなり、裏路地から一本の剣が出てきて、首筋に突き付けられる。そして、すぐ後ろから3人の男が現れる。そのうち、1人は2mはあると思われる巨漢である。
少し半身になって、その3人を見る。3人のうち2人は剣を持っていて、大男は手にとげのあるガントレットのようなものを……。
「……」
「そうだ、逃げ出すのは無理だ。あっちの裏路地を見てみろ。あっちでは毒矢が狙ってるぞ、ヒャハハ!」
「……!」
向かいの路地を見ると、そこでは1人の男が弓に矢をつがえてこちらに向けている。
「さあ、わかったらおとなしくこの路地に入れ」
「……わかったから、まず剣を引っ込めてくれない」
小さな声でそういうと、素直に剣を引っ込める。そのまま、あくまで言われたとおりに自然を装って路地裏に入る。
「……!?」
そこには、隣国……グランツ帝国の紋章をあしらった盾を持った人物を含め、30人ほどの騎士がいる。
なんで、どうやってグランツ帝国の騎士が……。
「どうしてって顔をしてるな。ひゃっはははは! 転移魔法【ゲート】を使えばいくらでも人員を呼び込めるのよぉ!」
転移魔法……そうか。そんな魔法があるから騎兵もいるのか。
ちなみに、しゃべっている男は、さっきから後ろに立って、私の首に刃を突き付けている。
……背伸びしながら。
「あの……あんまり無理して首筋に突き付けなくてもいいんじゃ……」
「う、うるせぇ! 低身長でも、145cmはあるんでぃ!」
「いや、私160cmだから」
こんな時でも、軽口を叩けるようになったのは、おそらく先輩の影響だろう。こんな、命を狙われている状況なのに、なぜかリラックスできている。
それに、私にはこの先の展開が読めている。
「どうせ、私の命をここで奪うんじゃなくて、拘束することが目的でしょ?」
「ひゃはは! その通り! お前はあの“英雄”オオカワが持つ唯一の弱点だからなぁ!」
「弱点?」
私的には、先輩はなにも弱点はないと思う。戦闘能力でいえば、万能だからそこまででもないし、精神面も強い。目が悪いのは空間把握能力なんて言う素のチートスキルで補っているくらいだ。そこに、あこがれるんだけど。
(どうせ……ってか絶対に先輩はすぐに助けに来てくれる。少し毒とか、いろいろされるだろうけど、絶対に生きて、このままで帰れるから)
迷いはない。なぜか芽生える仲間への、(能力的に)あこがれる人への信頼感が私を後押しする。
「じゃあ、連れていくなら連れてって。そうしないとばれちゃうでしょ? ほら、早くそこの魔導士君は転移魔法を開く! そしてそこのあなたは向かいにいるアーチャーを呼んで! 即時撤退よ、即時撤退!」
「「「は、はい!」」」
私の指示に従って、騎士たちはすぐさま帰還体制を整え、巨漢は向かいのアーチャーを呼びに行く。
てきぱきと指示を出していく私を見て、後ろにいる低身長は。
「なんで、お前が仕切ってんだべ……?」
と、疑問を口にしていた。