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オタクで変人なPC部員は、異世界で冒険者になったら器用○○でした!?  作者: 古河楓
第3章 PC部員たち、社会の上下関係に巻き込まれる
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第50話 青龍祭りを味わい尽くせ!



 調理道具を組み立てた俺たちは、続いて増援でやってきたシュベルツィアギルドの冒険者たちに、今回自分たちが出し物で作る料理の作り方をレクチャーすることとなった。

 作るのはもんじゃ焼きだから、たとえ猿のようなスキンヘッドでも気軽に作れることができるわけだ。

 だから、例えば今、目の前にいるスキンヘッドのグラサンで、いつもごつい鎧着ていつもごついメイス持ってるようなやつだって……。


「で、できた……!」


 この通り。土手の作り方だの汁と小麦粉の分量だのたらし方だのいろいろ質問してきてうざかった が、ちゃんとできるのだ。なんたって、バカでやんちゃだった8歳の俺でもちゃんと食えるように作れる料理なんだからな!


「ま、まともに食えるものができたのは、これが初めてだあああああ!」

「よ、よかったなサンダース……」

「今までお前は彼女からの弁当が命綱だったもんなぁ」

「これでいつフラれても安心安心」

「貴様らああ! あとで宿の裏来いやごらあああああ!」

「ああ!? やんのかオラア!」


 目の前のスキンヘッドの何気ない一言から今度は喧嘩に発展する。こいつらは俺が心の中で描いていた冒険者どもそのまんまだ。


「はいはい、喧嘩しない喧嘩しない!」


 喧嘩が起きれば、すぐにステフが仲裁に入ってくれる。これは本当に助かる。だって、迷惑だもの。面倒だもの。


「で、ステフは作ることで来たのか?」

「うん、これ」


 と言って、ステフは自分が作り出したものを指さす。そこには、黒い炭のような物体が。しかも紫色の湯気が浮かんでいるんですが。


「……うん、お前は店番しなくていいぞ」

「え? なんでよー、看・板・娘・で・しょ?」

「うん、ただの粗大ごみな」

「なぁっ……」


 俺はそうバッサリと切り捨てる。流石にこいつに作らせたら売れるものも売れなくなってしまう。 そのくらいはこいつもわかるだろうに。


「な、なら食べてみてから言ってよ!」

「じゃ、頼んだよサンダース君」

「は? 俺!? 貴様なんでそんな偉そうに!」

「わからないか? 俺は今回のここの責任者だ。命令はできるはずだぞ?」


 流石に脳筋と言えどもそのくらいは理解できるらしく、しぶしぶとステフの作った真っ黒い物体を口の中に放り込んでいく。おま、度胸あるな。


「…………! なん、の…これしき……!!」


 劇薬を食ったと思われるスキンヘッドことサンダースの顔は徐々に人間にあるまじき紫色になっていき、すぐに仰向けに倒れてしまった。口からは泡を吐いており、頭のてっぺんからは紫色の湯気が……。

 こりゃあ重症だな。


「新田、回復魔法かけといて。俺は使えるとはいえ、【ヒール】でもかなり消費するから」


 支援魔法以外を使うと、思いっきり魔力が持っていかれるのが最近の悩みだ。

 それの解決策を考えながら俺は宿へと戻っていった。


  〇 〇 〇 ー新田sideー


 祭り……青龍祭り当日。私は朝早くに目覚めた。隣ではステフが寝息を立てていて、大川先輩は離れたところにあるベットで惰眠をむさぼっている。

 よくよく見てみれば、30秒に一回寝返りをしている。あの人、寝方わるいよな……ステフもだけど。


 私は二人を起こさないようにこっそりとベットから抜け出して、外の空気を吸うために部屋から出て、宿を出て街に出る。


「うーん……気持ちいい!」


 軽く一伸びして、そのまま散歩に出かける。この青龍村についてから、私はずっと朝散歩をしている。

 というのも、3日じゃ、細かいところまで見学できなかったからだ。

 今日は教会を見に行ってみよう。あのステンドグラスが綺麗だったから。

 そう思い、教会の前まで行って、ステンドグラスを見る。外側は黄色系統の色で、中に行くにつれて青い色になっている。確か、これはグラデーション……。


『ギュイ……』

「え?」


 聞きなれた鳥のさえずりが後ろから聞こえたと思ったら、大川先輩がテイムしたシルバーエル―がこちらに飛んできていた。足には映像水晶を持っている。おそらく、先輩に頼まれてどっか行ってたのだろう。


「あれ、朝帰り? おかえり」

『ギュ……』


 シルバーエル―は私の肩にゆっくりと着地すると、顔をこちらにこすりつけてくる。相変わらず温かい。思わず撫で返してしまう。だってかわいいんだもの。


「あ、そろそろ帰らないと……」

『ギュイ』

「これ、先輩に渡せばいいんでしょ?」


 渡してきた映像水晶を受け取り、ポケットに入れてから私は宿に向かって歩き出す。


「この中身、なんなんだろ」


 この前、先輩が夜中に同じような映像水晶を見ながら羽ペンを走らせていたのを思い出す。

 その時は、いかにも悪い人ですって感じの人の不気味な笑い声が聞こえてたけど。

 なにかあったのかな……。


「いけないいけない、暗いことばっか考えちゃ」


 今日は祭りだ。全力で見て回ろう、この祭りを味わいつくそうと私は心に誓う。なんか、ワクワクしてきている。子供じゃないんだけど、こうなってしまうのはなぜだろう。


「あ、そうだ。先輩は私と一緒に来てくれるかな……」


 流石に、祭りで1人は寂しい。なにかと危険もある。それに、大川先輩がこの前言っていたことを思い出す。


『オレ、花火大会とか祭りとかあんま行ったことないんだよな~』

『おいこら! 憐みの目でこっちを見るな!』


「ねえ、先輩も誘った方がいいと思う?」

『ギュ? ギュイ』


 私は思わず肩にのっかっているエル―に話しかける。もちろん、私がわかるような返事は帰ってこない。だが、最後の一鳴きは、「誘ったらいいんじゃない」と聞こえた。


「よし、決めた!」


  〇 〇 〇 ー大川sideー


「祭りを一緒に回る、ねぇ」


 今日の朝食の席で、新田がそんなことを言ってきた。「休憩時間にでも、どうですか?」とのこと。そりゃあ、見て回るつもりだったので、断る理由はない。

 だが、うん。なんか最近新田の様子がおかしいような気がするんだよな~……。

 なんだろ、俺の前でだけちょっと…霧が発生しているような態度なのだ。


「本当に女心はわからん」


 そう思いながら、俺はこれからやる仕事の準備をしていく。

 

 そして、休憩時間。もんじゃ焼きは飛ぶように売れ、もうグロッキー状態の俺に、新田はすぐに見に行くことを提案……いや、強制した。


「今日は、私がこういう祭りの楽しみ方を知らない先輩に、楽しみ方をレクチャーします!」


 うん、なんかすっげぇディスられてる気がする。具体的には「今までお前ダチいなくて怖くて祭り行ったことないんだろ?ハッ、しょうがねーから教えてやるよ」的な。


「悪かったね! 友達少なくて! どうせ俺はゴミムシですよ!!」

「いや、あのどうしてそうなるんですか?」


 うるさいやい、どうせ俺なんてどうせ俺なんて!! 自分の顔と人からの好感度くらい知ってますよーだ!!


「はぁ……先輩って、ほんと自分を過小評価しすぎですよね」

「いや、本当だろ」


 自分でも悲しくなるけどこれは事実なんだ。今まで、散々嫌われてきたから、もう既に嫌われ慣れれてるんだよ。


「話になりませんね。とうか、さっさと行かないと。いろんなもの売り切れちゃいますよ!」

「あ、ああ。そうだな」


 もうちょっとでお昼時。屋台で何か買って食べるか。


 そう思って、俺は手短にあった屋台でなにか買おうとするのだが、それを新田に止められる。


「先輩、こういうのは先にいろんな場所回ってから決めた方がいいんですよ。もしかしたらいろんな珍しいものに出会えるかもなんですよ?」

「な、なるほど……」


 流石に腹が減ったので、さっさと何かを食いたかったが、ここは我慢する。なんせこっちは教えてもらってる身だから。祭り初心者の小心者だからな……。


「なんでそんな自信なさそうなんですか? それに女の子と2人で祭りを見て回れるとかなかないですよ?」

「ああ、どうせ俺には縁のない事さ……今までも、これからも……」


 俺は今の新田からのパンチで自信を喪失してしまい、フラフラ歩くことになった。


  〇 〇 〇 ー何故か再び新田sideー


「ああ、どうせ俺には縁がないことだよ…今までも、これからも……」


 そう言って、どんどん失速していく大川先輩を見ながら、私は心の中で、


(はあああああ!? どうしてこれだけ見え見えに言っても気づかないの!?)


 明らかに、誰でもわかるくらいの発言の仕方なのだが……まさか、先輩はここまで鈍感だったとは……思わなかった。

せめて、今までの恩返しをしよう、と思ったのだが、まさかこれほどとは! 思いもしなかった!!


「どうせ俺なんて、どうせ俺なんて……」


こんなことをぶつぶつ言っている先輩はどうして私を助けることができたんだろう。私は不思議になってたまらない。

 でも、いつもはこんなだけど、面白いし、家事全般できるし、優しいし。私が持ってない物をいっぱい、いーっぱい持っている。

 だから、助けてもらえてうれしかったし、感謝してもしきれないんだ。


「お、あれ美味そう……」


 気を取り直した先輩の目線はケバブ的なものに向いている。先輩、あなたあれくらい作れますよね?


「自分で作ったのと、他人が作ったの。外で食べるのと中で食べるのとで気分も味も違ってくるだろ?」

「ああ、なるほど」


 たとえ自分で作れても、買って食べることに意味があり、風柳だと先輩はいいたいのだろう。

 うん、流石に私もお腹が減ってきた。そろそろ何か入れないとこれ以上の探索も無理だろう。


「じゃあ、あれ食べますか?」

「おう……そうしてくれないと死ぬわ」



 先輩もお腹がすいていたようだ。そりゃああれだけの働きをしていたらそうなるか。


「あの、これ2つください」

「あいよ!」


 私がオーダーしている間に、先輩はすぐそこにある席をとっている。やっぱり私たちのチームプレーはいい。


 そして、いざ食べるときになると……。


「先輩、いいですか。ケバブはですね、ヨーグルトソースがおいしいんですよ」

「いやいやいや、そこはブラックペッパーかけてからチリソースだべ?」

「ヨーグルトソースです!」

「いや、チリソースだ!」

「「ぬぬぬぬぬぬ……!!」」


 一歩も引かないケバブのソース派閥勝負。そういえば、地球時代に先輩たちと出かけたときに昼ご飯に「そばにするか、うどんにするか」で争ったことがあったっけ。確か、私がうどんで、先輩がそばだったはず。

 というか、元凶は私達か、あれは。


 懐かしい思い出に浸りながら、私たちはにらみ合いを続けるのだった。


おまけ~思い出~


「そういえば先輩、地球(あっち)のお祭りどんなだったんです?」


結局2人でそれぞれのソースで頼むことにした俺たちは近くのベンチで並んでケバブを食べていた。そんな時に新田はこんなことを聞いてきたわけで。


「そうだなぁ……射的とかモデルガンのくじとかは多かったな。あと他のところの屋台よりは割高だったな」

「……土地柄ですかね?」

「そうじゃね? ただし材料はいいもんばっかだったな。割に合ってるかどうかだったら少し損だろうけど、祭りだからそれも忘れちまうんだろうな」

「……もう思い出じゃなくて考察になっちゃってます」


実際調べたらコスパ的には少しマイナスだった(by作者)

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