第5話 世界の常識
ー大川sideー
クレーターの中央には原型すら残っていないヌーの姿があり、周りの岩は高温になっている。さらに、瞬間的に起こった爆風と、少し深めにできたクレーターがその魔法の威力を物語っている。
俺たちを助けたのは熊獣人の、どことなくあの学年主任に似た人なのだが……いったい何者だ?
「…………? ……」
熊獣人の人は、こちらに向かってきて、何かを話しているが何もわからない。
それは新田と赤坂も同じようで、首を傾げたり手ぶりで「わからない」と言っている。
熊獣人はそれを見て、少し考えると。
「!? ……? ……あ……ああ、これでわかる? 」
「あ……はい。わかります」
日本語をしゃべり始めた。この世界には日本語が存在し、それを話す人もいるらしい。言語に関しては、とりあえず一安心だ。
だが……あの熊獣人。俺たちをなぜ助けた。あれだけの魔法を……いや、魔術を使える奴が俺たちを助けてもなんの得にもならないはず。
恩人だからぞんざいに扱うわけにいかないが、信用ならん。
ここは、聞くのが一番だ。
「失礼だが……そちらの目的はなんだ? こちらには財はない。あるとすれば少し珍しいが使えない道具ばかりだ。はっきり言って、信用できないのだが」
俺は足の痛みなど忘れて、警戒態勢をとる。いつもなら新田がこの行動を邪魔するのだが、今は賛同してくれるらしく、黙っている。
「それは……失礼な。だが、わかる。精霊魔法の使い手など、この世界には数えるほどしかいない。そんな奴が助けたら目的を聞くのもおかしくない……安心しろ、俺は君たちに危害を与えるつもりはない」
ちゃんと感情がこもっている。どうやら、本当のようだ。
俺の中の信頼ゲージに+10pt。この時点で悪人じゃないことは確定。
そう分かった途端に、粉砕骨折した方の足から耐えられないほどの激痛が走った。
「ぐぅ……」
人生で1度も骨折したことがない俺だが、これは自分でもやばいと思う。跳ね上げられて、地面に着地した時にいろんなところを打ったのだろう。身体中が痛い。
激痛に耐えれなくなった俺は、かろうじて意識を保たせながら横になる。
「先輩、大丈夫ですか?」
「これ見て、大丈夫だと思う?」
「大丈夫じゃないですね」
そういうこと。俺の後輩は物分かりがよくて助かる。うん、赤坂はいい子だ。
あ、ダメだ。眠くなってきた。でも、足も痛いし、こいつらも心配……。
そんなことを察したのだろうか。新田が近くにやってきて、優しい口調でこういう。
「先輩、私たちは大丈夫ですから。ゆっくり寝てください」
「しかし」
「一番戦って、一番守ってくれたんですから。そんくらいの特権はあります。あ、寝れないのでしたら……」
「は?」
ズン! と、俺の腹に岩が置かれる。かなり痛い……これは、もう、ダメ。あと……どうやって持ってきた……。
「じゃ、ゆっくり寝てくださいね」
「おま……」
これが、俺の今日の最後に記憶となった。
〇 〇 〇
次に俺が目を覚ますと、そこは馬車だった。
ガタガタ揺れており、空には白い雲が浮かんでいる。太陽は、あの魔物と戦った時と同じ位置でギラギラ輝いている。
「あ、起きたんですね」
「……ああ、もはよう」
「先輩、その体でその物言いとはいい度胸ですね。今すぐこの馬車から投げ捨ててもいいんですよ?」
別にいいじゃん……とは思ったが口には出さない。このまま落とされたらそれこそ俺の人生は終わりだ。魔物じゃなくて後輩に殺されるのはごめんこうむりたい。
「にしてもよくも1日のんきに寝てましたね~、結構私たち大変だったんですよ? あ、赤坂は今、御者の訓練してますよ」
ああ……俺は1日も寝てたのか。
それにしても、へー、あいつがねぇ。つーか、馬の扱いはかなり簡単だぞ? 訓練とかいるかなぁ? 現に障がい馬術をやっていた俺だが、一週間ほどでちゃんと完走できるようになった。
それに、無理やり寝かせたのお前だろ。ちゃんと覚えてるからな、石を腹に打ち込んで無理やり気絶させたの。そんくらいしていい特権あるんじゃなかったっけ?
「それはそうですけど。ああ、足は動かさないでくださいね? 固定してるんで。にしても、綺麗に粉砕骨折してますね~」
ニコニコしながら言うことか、それ。自分でだってわかってるよ。粉砕骨折だって。今もちょっと動かそうとするだけで鋭い痛みが走るもの。わかった、足を動かすのはやめよう。
「あのあと、いろいろ教えてもらったんですけど。聞きます?」
はい。もちろん。この世界の常識は知ってないといけない。
この後、聞きなれたマシンガントークによって敢行された説明会によると、以下の通りになる。
ここは、やはりというべきか、異世界そのものであり、神が住む神界と、地獄がある冥府の中間にして、神の世界の次に自由な世界として、人々は「エキストラワールド」と呼んでいる。
「……お前らが制作に関与してたゲームに同じのなかった?」
「ありました」
「聞いた話によるとかなりの大立ち回りをやっていたらしいじゃないか」
「例えば?」
「デバック中のキャラストーリーへのダメ出しが原作のゲーム会社の3倍多かったり、隠しルートが運営にすらわからないようになってたり……眼鏡装備」
「あああああ!! それは! それは言わないで! っていうか何で知ってるんですかぁ!?」
新田が殴ろうとしてるけど……と、とりあえず続き。
ここはそのエキストラワールドのとある大陸の中央にある国家、リースキット王国という場所らしい。国民の実に3割が行商を生業としており、数々の商会があるのだそうだ。
そして、ここはその王国の王都から50キロほど行ったところにある「シュベルツィアの街」の北側にあるエルフの大森林。冒険者がよく出入りしているが、強い魔物しかいないので一般人は絶対に立ち入らないとのこと。というか、冒険者って本当にあるんだ……。
今、俺たちはそのシュベルツィアの街に向かっている。主に行商人の王都への中継地点になる場所だそうで、主要な職業は宿泊業。冒険者ギルドもあり、治安はいいとのこと。
「エルフっているんだな」
「長寿の象徴ですからね。テロメアどうなってるのかみてみたいです」
「……とっ捕まえて解剖すんなよ?」
続いて、魔物に関して。
実はこの世界の住民はほとんど自衛しかしてこなかったおかげで、魔物内の弱肉強食が加速し、弱いテンプレのスライムなどはとっくのとうに見られなくなり、代わりに先ほどのヌー……正式名称はスバローカウ。別名、大型馬車。最高速度は時速70キロにもなり、火魔法との合わせ技で冒険者を苦しめる比較的上位の魔物のようだ。サバンナに解き放ったらライオン駆逐されそうだな。
話を戻そう。
結果、強い魔物しかいなくなり、ゴブリン、コボルト、スライムなどの弱いテンプレの魔物どもは必然的に群れになり、その数は千単位になるらしく、冒険者は常に死と隣り合わせ。初依頼で帰ってこない冒険者は全体の7割を超すという。但し、依頼料などはかなり高めなのだとか。
冒険者のことは、ギルドで直接聞いた方が早いそうなので2人とも説明は受けてないのだとか。
せっかくだから教えろよ……。
次に魔法。この世界には普通に魔法が存在しており、基本属性は、火、水、風、土、光、闇。テンプレだ。そして、特殊なのに無属性魔法がある。属性魔法の初級魔法なら一般人でも使えるらしい。やはりというべきか、適性があり、適性がないと魔法を使えない。
ここら辺はオタク知識のおかげで比較的すんなり理解することが出来た。
そして、金について。単位はゴルド。なぜかゴールドと伸ばさない。というのも、過去に商会などでは「伸ばすのめんどいから略しちまえ」となり、とうとう国王までもが「ゴルド」と言い出したのでこの単位になったんだと。
王様、かなり大雑把な性格……よくそれででかい国になったな。あれか? 日本みたいに国土小さいけど技術力でなんとかした系統なのか?
とまあ、これがこの世界の常識なのだそう。
あ、最後に。
実は、この世界で日本語は「古代精霊言語」として使われている。というのも、過去に精霊と人間の交流の懸け橋となった人物の母語が日本語だったからだ。
俺たちはそのようなことに驚きと好奇心を持ちながら、街を目指して走っていく……。
大川「それにしても新田、あれなんでヌ~ってわかったん?」
新田「いや、先輩もわかってましたよね? 私を不思議ちゃん扱いするのやめません?」
大川「不思議ちゃんwwwww」
新田「馬車から飛び降ります?」
大川「い、いやだからなんでって聞いてんやけど」
新田「まあ牛に似てると思いますが……その通りなんですけど。ヌ~はアフリカの丁度ライオンとかが住んでるところにいる動物で、頬みたいなところからひげみたいなのが生えてたりちょっと頭でっかちだったり、牛よりも角がでかいのが特徴です、そのほかにも……」
その後ウィキペ〇ィアの全文くらい話しました。(※大川と新田は作品内で放送されてる動物番組でヌーを知ってました))