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オタクで変人なPC部員は、異世界で冒険者になったら器用○○でした!?  作者: 古河楓
第3章 PC部員たち、社会の上下関係に巻き込まれる
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第48話 本当の仕事 2

「なにを作るな~……」


 俺は宿の自室に籠り、頭をフル回転させていた。

 というのも、今回の依頼内容…屋台で作れるものを考案して、実行しろやコノヤローというもので、調理器具以外は領収書的な奴でギルドが出すそうだ。


「屋台といえばな~」


 ……屋台と言えば。

 …………屋台と言えば。

 ………………屋台と言えば。


「屋台の定番って、なんだ?」

「いやふつうわかりますよね!?」


 珍しくベットの上から新田がツッコミを入れてくる。いや、だってさ……。


「オレ、祭りとか花火大会とか行ったことほとんどないんだよな~」


 なんせ小学校の頃はろくに祭りなんてなかったし、中学の頃はいじめられるのが嫌で地域の祭りなんていかなかったのだ。しょうがないでしょ。

 おいこら新田! 憐みの目をこっちにむけるな! 腹立つ! すっごい腹立つからやめてくれえええ!


「いや、だってですよ……」

「悪かったな! 悪うござんしたね!! どうせ俺なんて、どーせ俺なんて!! そんくらいの人間だよ!」

「いや、いじけなくても……」


 俺は部屋の角に移動して、床を手で丸型になぞり始める。いいよいいよ……どうせ俺なんてどうせ俺なんて……俺なんて…………なんて……。

 あれ、涙も出ないや……悲しくもないけど意識が遠のいてきた。


「あーもーししょーはぁぁぁ! これから見て回ればいいじゃない!! わたしだって一緒に行ってあげるんだよ?」

「なめんな……祭りなら3年前にお社の祭りに行ったことがあるわい」


 それは、修学旅行の帰ってくる日の夜だった。新幹線で「あ、あるの? じゃあいこーぜー、来れる人挙手!」というダチの言葉に始まり、いくつかのグループを結成。俺は同じ生徒会と幼馴染ら美術部員を従えて練り歩いた。

 中でも射的ではどちらがどれだけ大きい商品を手に入れるかで盛り上がったんだっけ。結果、俺が一発目で(まぐれだが)大当たりを撃ち抜いて、ゲーム機器を没収。射的のおっちゃんは死んだような眼をしていた。


「へー、おもしろそうじゃないですか……」

「いや、そこからが問題なんだよ……」


 俺が住んでいたのは銀杏並木が有名で、町の道路が円形上に広がっている場所。多摩川の周辺……わかるよな?


「ええ、わかりますよ」


 そこには首相が住んでたこともあるし、OBにはタレントに大臣までいたところだ。

 彼らの金遣いの荒さと言ったら、もう……。


「あ、おっちゃん、やきそば特盛(800円)4つね」

「あ、この串焼きうまそうだな! 3つくれ(計1800円)」


 屋台で札束が飛び交っているのを目の当たりにしたのだ。最後の最後には1万円札が登場した。


「うわぁ……」


 それからも暴飲暴食を続ける仲間たち。かき氷にシロップ全部かけししたり(風味材と着色剤が違うだけで実際全部同じ味)、金魚すくい上手な奴が金魚のいけす空にしてしまったり、何故かミドリガメすくい(!?)があったり……。

 あの札束の飛び交い方と自分が引き当てたゲーム機の重さが妙に印象に残った夏の一時だった。


「うわぁぁぁ……」


 俺の思い出話を聞いた新田がドン引きしている。いや、まあそうだろ。祭りで計1万円近く使う中学生がいるのは俺たちの地域くらいだし。生徒会長なんて1万5千円も使ってたぜ……ぶっちゃけると、生徒会の約10分の1相当になる……。

 気前よく人に800円もする串焼きおごってるからそうなるんだが……。


「というか、それだけ覚えてるんだったら定番くらいわかるんじゃないんですか?」

「いやな、かき氷は不可能だし、串焼きじゃあ他も出すだろうし芸がないな……と」

「確かにね~集客性に欠けるとね~、私達への報酬にも影響するからね~」


 ぬ……報酬も出来次第なのかちくしょー。それはますます考えないといけないじゃないか……。

 いや、まずどんな奴があるかで変わるじゃないか。


「で、青龍村ではどんな食材が手に入るんだ?」

「ああ、うん。基本は輸入品のコメ以外は手に入る感じかな~」


 なに!? 米が手に入らないだと!? いくら【チェンジマテリアル】による小麦粉の米への品種改良をしているとはいえ、それは困った。


「その代わり、小麦粉はいやってほどあるよ?」


 こ、小麦粉……なるほど。揚げ物とかパンは可能だ……結構レパートリーは広がった気がするぞ。


「こういう時はグルメな先輩が今食べたいものでいいんじゃないですか?」

「今食べたいものね」


 用意できるのは小麦粉にいろんな食材。おそらく揚げ物も大丈夫と思われる。


 ……だったらなぁ。


「もんじゃ、かなぁ」

「……先輩、あなた年取ったおっさんですか?」


 悪かったな! つーか年取ったら俺だっていずれおっさんになるわい1

 ただ単に鉄板あって、汁と水と小麦粉があって、いろんな具材があり、冷たい飲み物があると想像してみたら、たまたまもんじゃ焼きになっただけじゃい!


「なに? その「モンジャ焼き」って」


 ああ、そういえばステフは知らなくて当たり前か。成り立ちから説明すると…


 起源は、江戸中期の江戸で作られた仏事用菓子「麩の焼き」らしい。それから「助惣焼」になり、「文字焼き」になって、それの発音が変化していって「もんじゃ焼き」になったらしい。

 東京の下町では今もなお食べられる伝統料理みたいなもんだ。


「ふーん……そのトウキョーとかわからないけど、要は歴史がある食べ物なんだね~」


 あ、しまった。東京って地名出しちゃったよ。いまだに転移者とは言ってない気がするんだが……。 ステフはバカだから助かった。

 まあいい。汁は作り方知ってるからいいし。

 問題はヘラだよな…本来の食べ方はヘラでおこげをつくってあっつあつを食べるのだが……。

 この際「食えりゃあいいんだよ、食えりゃあ!」という発想でやるか……いや、だがな。


「ヘラとかじゃなくてスプーンでいいのでは?」


 いや、そりゃそうだけどさ、なんか再現したいじゃん?そこちゃんと故郷の味再現したいじゃん?


「そうですけど、それにまさか皿を鉄板にするわけにもいきませんし」


  うん、持ってる手が焼けて死ぬわな、それ。


「ねねね、じゃあさ。なんか熱した石を添えるのはどうかな? この前ししょーがステーキ作ってくれた時みたいにさ!」


 ああ、あれか。確かどっかのファミレスがやっていたのをパク……いや、リスペクトして、試しただけなのだが。

 流石に屋台でそれはオーバースペックでは?


「いやいやいや、ししょーがいるからなんとかなるって!」

「俺頼みかよ!!!」


 俺は便利屋じゃないんだぞ! おい! そこらへんちょっと気にかけろよ!!

 とはいえ、頼られるのはうれしいんだが……。


「とにかく、試作品作って、それからじゃない?」

「まあ、うん、はい」


 気づけばステフがベットの上から目を猛禽類のように光らせている。これは、逆らっちゃダメな奴だ。食欲で目を輝かせたステフにかかわる……というか逆らうのはすなわち命を落とすことと同義と思え!


 俺は素直に頷いて、早速もんじゃ焼きの作り方を紙に記載していくのだった。


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