第47話 本当の仕事 1
ー大川sideー
楽しくもありドン引きもあった青龍村探検は3日かかってようやく終わった。
「村」なんていうからてっきり日本にある無人駅周辺の形式……いうなれば一両の速達列車が120キロで単線を鬼の形相でぶっ放してたり、途中停車駅が1駅のみの路線の沿線を想像していたのだが……。
違った。まったくもって的外れであった。あれだ、中央本線とかそっちだ。松本市くらい見どころがあった。舐めてたわ青龍村。舐めてたわ異世界観光都市。
それにしても饅頭のあんこが青いとか、青いスープには恐れ入った。かき氷で「ブルーハワイ」という味(色)を見てなければ絶対に縁がない食べ物の色だろう。
そして新田の探検姿勢にもドン引きした。
『先輩! あそこ、あそこの路地の奥何かあるかもしれませんよ!』
『ここです! ここにも道があるじゃないですか! 行ってみましょうよ!』
まるで台湾の夜市にでも行ったような探索っぷりだ。そのおかげでいろいろ見ることができた。
見れたのは大陸マフィア的な人物共の闇取引の現場だったり、犬と猫が喧嘩しているところだったり、カラスみたいな魔物がこぞってたむろっていたり、ヤンキーのアジトだったり、騎士団の詰め所だったり。路地裏の名店はありませんでした。
「け、結局、余りましたね、時間」
「そりゃそうだ。祭りとやらはあと10日後だろ…いったん帰るか?」
今回の俺たちの任務は、この青龍村で年に一回行われる青龍祭とかいう祭りの要人警護とギルド代表としての出席らしい。あとなんで息切れしてんだよ。
ちなみに、あと何日かすれば、王国各所にあるギルドの【エース】級、もしくはそれに似合った実力を持つ者が、ここ青龍村に集結してくるという。
観艦式の人間バージョンか!
「確かにあと10日もここにいる理由はないような気もしますね」
「帰れるからな~」
「「どうしようかな~」」
俺と新田は腕を組んで考え始める。正直言って、ここに滞在するなら休みが10日もらえる。(追加で)。ただし魔物討伐時、戦闘での勘を失いかねない。シュベルツィアに戻るなら、ある程度魔物を 討伐し、夜は寝慣れたベットで休むことができる。ただし休めるかはわからない。
メリット、デメリットともに五分五分。どちらにも魅力を感じてしまう。
「どうしたものか……」
朝、宿の食堂の隅っこでうんうん唸る俺たちは、周りから見たらどう見ても近寄りたくないだろう。現にほかの客はある程度俺たちから間をとっている。
「あ、おはよ~ししょ~……早いねぇ……」
そうこうしていると、起きるのが遅く、かつ寝起きが悪いステフが食堂に顔を出した。
おい、髪の毛逆立ちすぎだろ。どれだけ寝返りをしたんだ貴様は。
「それで……何を二人で悩んだたの? うう……眠い……」
「いや、あと10日暇になったから、一旦シュベルツィアに戻ろうかと。今から帰れば半日もあれば戻れそうだし」
ほんと、【テレポート】とか使えたなら楽なんだろうけど。あいにくそのような魔法は今のところ使えない。というか存在だけ知っていて、あとはなにもわからないといった具合だ。
そんなことを言ったら、ステフがあっさりと俺たちの悩みを解決した。
「え? 何言ってるの~? この後わたしたちは仕事が待ってるんだよ~?」
「はあ? 仕事?」
「うん、仕事」
仕事。好きなものは“天国”という意味、嫌いなものは“地獄”という意味という意味の言葉。あ、今回は“地獄”という意味に捉える方がいいかもしれに。
ステフの顔に、前に俺にいたずらした時と同じ笑顔が浮かぶ。
うわぁ、すっげぇ嫌な予感しかしないな。
「えーとね。あと2~3日すればシュベルツィアから別の冒険者たちが来て、物資を届けてくれるの」
「物資?」
「うん、調理器具」
「「え?」」
ちょ、調理器具だって!? いったいそんなので何をしようというのだ!? いや、わかる、わかるぞぉ……このあと、”わが身”に起きる惨事に!
「シュベルツィアギルドからも屋台だそう、ってことになってね。それで、何作るかをこの街で決めて、そして、届いた調理器具でそれを作るんだ~」
ぬ!? ますます嫌な予感がすっぞ! ワクワクしないけどザワザワすっぞ! 俺は本能で逃げ出したくなる。というか今すぐにでも逃げ出したい。
俺は本能で危険を察知すると、席から離れて逃げ出そうとして――
あ、ダメだ、新田につかまった。
「それで、何作るかをししょーに決めてもらって、実際に作ってもらおうってね!」
「ほらやっぱり!! 思った通りじゃないか!!」
つまるところ、俺が体が、近いうちに、死ぬということじゃないか!!
「……やっぱり帰る!」
「いやいやいや、まずは何を作るかを考えて…そっから会計業務をして…」
「嫌だぞ! 俺は嫌だ! 絶対に俺はそんなことはせんぞ!」
「それから、調理器具届いたら、試作品作って。それのレシピを増援に教えてにらって……」
「ブラックだ! ブラックとおりこしてダークだ!」
「当日は、要人警護か青龍の警護か、見回りか、店番ね」
「ぜっっっっっっっったいに今すぐ帰るんだあああああああああああああああ!!!」
誰が! 誰がそんなブラックを通り越したダークマター企業でなぞ働くものか! ただでさえブラック稼業である冒険者なんてものやってるんだ!
そんなことはやってられるわけが……。
なんて思ってたら、ステフは馬のように息を鼻から出して、1枚の赤い紙を出してきた。
「はい、これ」
『【強制依頼】大川心斗殿、新田明里殿。
上記の2名に以下の依頼を強制する。なお、拒否権はなく、依頼を遂行しなかった場合は失敗扱いになる。また、ギルドは一切の責任を持たない。
依頼内容:青龍村で行われる祭りへの参加。また、同祭りでシュベルツィアギルドから出店する店の総監督……
以上
シュベルツィアギルドマスター ホーネスト』
「くそがああああああああああああああああああああああああああああああ!」
やられた! というか今までもさんざんやられてきた手段! それは最終兵器【強制依頼】!
依頼主には一切の責任を負わず、失敗したら失敗になり、命を落としてもギルドは“知らん顔”できる悪魔の兵器!
俺の無念を叫んだ声はすぐに消え、それは虚無感へと変わっていくのだった。