第46話 赤坂とシルクの討伐デート 2
関所を通り村の中に入った赤坂とシルクは、とりあえず目撃情報を集めようと、村の代表者がいそうな場所に向かう。
いたって村は平穏で、普通に畑を耕している者もいれば、路地で遊んでいる子供もいる。
この世界に“公民館”だとか“区役所”なんてものは存在しない。なので“村長”とか“長老”のような人物を探さなければいけないのだが。
「誰かに聞いてみましょうか」
「うん、そうだね……」
俺は初対面の人と話すことがあまりできない、いわゆる“人見知り”である。そのため、迷っても基本は1人で探すのだが……。
そんなことは一切知らないシルクは、すぐそこを散歩中だった初老の男性に声をかけようとトテトテと走り寄っていく。
「あ、あの~すいません、ちょっといいですか?」
「ああ、大丈夫だよ? なにかな、お嬢さん」
「あ、あの私達冒険者なんですけど、この村の村長とか、長老みたいな人はいますか?」
冒険者と聞いた男は少し驚いたそぶりを見せたが、すぐに気を取り直して、村長がいる方角を指さした。
その指さした先は、自分の顔だったが。
「え……?」
「ワシ。ワシが村長だよ、お嬢さん」
「ええ……?」
一発で目当ての人物を見つけてしまった……そのことにシルクは驚いて、ボケーっとしてしまう。赤坂も少し離れたところで「マジか」という顔をしている。
それは誰が同じ状況になっても、変わらないだろう。。
「あ、そ、そうだったんですね……すいません、知らなかったので」
「いや、構わんよ。こんな宿場町の村の村長なんて知る価値ないからなぁ。はっはっは」
軽い自虐を済ませた村長は陽気に笑って見せる。その笑顔に赤坂も悪人ではないと判断をして、ひそかに構えていた剣を鞘に納めて、シルクの隣に向かう。
「して、こんな村に何用かな? ここは物流の中継地点とちょっと変わったイモしか取り柄がないぞ?」
「イモ……? あ、すいません、それはいいんです! 私たちはここにキングスコーピオンがいると聞いて討伐しに来たんです」
「なに……あの厄介者を、本当にきみたちが倒すというのかね……!?」
シルクが「キングスコーピオンを倒すためにここに来た」といった瞬間に村長は一瞬だけ動揺したが、すぐに冷静になる。そして、無理と判断したのだろう。
確かにシルクは外見はまだ幼さが残り、装備も大物のキングスコーピオンを討伐できるほどの実力者にしては貧弱で粗末。
俺も全身鎧を身に着けて大きな盾を装備して、剣もそこそこいいもの。だが、兜がない。
それに力量があるように思えないのだ。
「……確かに! 確かに私は雑魚かもしれません。ですが……ですが! アカサカさんは……“あの”! “あの”英雄オオカワさんと同じパーティで活躍なさっている方なんですよ!?」
「なに!? “あの””英雄“オオカワ様の!? それは心強い!!」
「いや、だから違うんだって! 違いますから!」
「まず、アカサカさんは……」
また始まったシルクの赤坂を語る会。再び俺はそれを止めようとするも……。
「黙ってて下さい! 今いいところなんです!!」
「……はい」
(俺の! 俺のことなのに! もういいよ! 好きにすればいいよ!!)
今度は心中で、そう叫ぶのだった。
〇 〇 〇
「これです、これ。これがキングスコーピオンの尻尾。なんか突如現れたと思ったら、すぐに地面に潜って寝込みやがって」
「……はあ」
約500mほど先の農地に、オレンジ色の物体がニョッキリと生えている。それは先端がとがっており、そこからは尖った銀色の針のようなものが見えている。それはまさに注射器をでかくしたようなものだ。
土に潜っている…つまり本隊は地下に埋まっているのだろう。
「いや、あれが眠っているからね……ここ一体の土全部だめになっちゃったんだよ」
「なるほど、確かにキングスコーピオンの毒でやられたんですね」
そう言ってシルクは辺りから立ち込める謎のにおいに顔をしかめる。それは臭くて、体にしみついてくる。
その匂いは、日本の、とある人地域では常識と化している臭い。日本人の本能を刺激する臭い…それは。
「硫黄……か」
「「硫黄?」」
硫黄は、原子番号16、元素記号Sの非金属元素で酸素族元素の一種である。あの、日本の温泉街にたちこめる臭いの元である。それは、正確に言うと“二酸化硫黄”だが。
世の中にはそんな硫黄まみれの島で世界一と言われた軍が大量の犠牲を払ったという史実も存在する。
「なるほど……して、その硫黄とやらの効果はどんなものが?」
「詳しくは知らないけど、燃焼すると有毒だったはず」
補足ではあるが、粉末のものが空気と混合すると粉塵爆発するので、危険である。ちなみに、この村ではその前に魔法が使える者(門番の騎士)が結界を張ったので、未だに爆発は起こっていないとのこと。
「じゃあ、さっさと片付けちゃいましょうか」
「いや、そう簡単にはいうけど……」
ここからキングスコーピオンまでの距離は500mなり。とても騎士が攻撃できる距離じゃない。
「大丈夫です! アカサカさんならできます!」
「どこから出てきて、どうして言い切れるの……? そんなことが」
謎でしかないというような顔をしながら、剣を抜き放つ。
『我が力よ、願いに応じ彼の者を風の刃で切り裂け! 【ウインドカッター】!』
試しにウインドカッターを使ってみるも、届かない。つまり【竜巻】なども届かない。
射程が短い剣など論外だ。
なんて思っていた時。【ウインドカッター】が消えたところで、小規模の粉塵爆発が起こった。
「ん……? まさかとは思うけど」
何かをひらめいた赤坂は、もう一度無詠唱で【ウインドカッター】を少し離れた地面に放つ。
すると、そこからはやはり粉塵爆発が起こる。
「これって、まさかとは思うけど、風魔法を使ったら爆発する……?」
正確には、空気に触れたから、だが。
しかし、それで攻略法を思いついた赤坂は、すぐに別の魔法の詠唱を始める。
『我が力よ、願いに応じ風の嵐を呼び起こせ! 【竜巻】!』
詠唱が終わったと同時に、赤坂がイメージした通りの風の嵐が発生する。それは辺り一面を覆いつくす風の嵐。
それは張られていた結界を容易に突き破り、土を巻き上げていく。そして、次の瞬間。
「きゃああ!?」
「うわあああぁ!?」
強烈な爆風が彼らを襲った。
凄まじいまでの威力のそれは、次々と民家の屋根を吹き飛ばし、2階建ての所は、容赦なく窓が割れる。
そんな爆発が起これば、キングスコーピオンなどひとたまりもない。
休眠していたキングスコーピオンは、木っ端みじんになったのだった。
〇 〇 〇
そのころ、大川たちはと言うと。
「これは美味いな……」
「とはいえ、あんこが毒々しい色の饅頭ですけどね~」
「青龍饅頭だから、青くしたんだって~」
赤坂達が爆風に巻き込まれ空を舞っているなど知らずに、のんびりと饅頭を食っていたそうな。