第43話 はじめての旅行 2
翌日。俺は新田をお供にして、ステフとの待ち合わせ場所に向かった。
……赤坂だが、なんとシルクが世話をしてくれるというので、置いて来た。赤坂は、ニコニコして満更でもない振りをしていたのも要因の一つ。
ったく、くたばれよリア充!!
「まあいいじゃないですか。先輩も十分リア充みたいなもんですよ? 女の子2人と旅行とか普通はできませんからね?」
「うん、ごめん。どちらかというと“お荷物”2つの方が正しい」
「「な……」」
だってさ。【フライ】をすれば怖がって俺にコバンザメする新田に、はしゃいだら制御できないステフだろ?
ストッパーがいないんですよ、ストッパーが。
まあ、ステフがいるおかげで、俺は宿屋で新田と相部屋しなくていいわけだ。いろいろと気を使うんだよ、ほんと。
「え? 何言ってんのししょー。全員で同じ部屋泊まるに決まってんじゃん」
「「は!?」」
おい、ちょっと待て、どうしてそうなるんだよ。それ、俺がいちっっっっばん嫌なパターン!
なぜそうなる! どうしてそうなる! どうしたらその考えにたどり着くんだああああああ!
「えー? だってさ、お泊り会みたいで楽しいじゃん?」
「うむ、わからん」
今まで、その「お泊り会」とやらに一回も参加したことのない俺には全くもって分からん。
俺の思考回路をフル稼働させてもわからない。
つまりは、アニメでやってるみたいな、あれ?
う~ん、リアルだとちょっとな~、やだ。いつもだけど、寝るまでに他人に気を使いたくないというか、なんというか。
だから修学旅行とかで大部屋とか特に無理。
「まあまあそういわず~。この3人なら兄妹って言ってもばれないし」
「ま、まあ確かにそうだけどな……」
ぶちゃけ、こいつらの兄貴になるのはちょっと。面倒くさいというか、その……。
面倒くさいというか。どう考えても、早死にするというか。
「なんですか!? そんなに私達嫌いですか!?」
「いや、だから嫌いじゃないけどさ、すぐに面倒事起こしそうじゃん。ストッパーがいないじゃん。絶対すぐ胃に穴開くじゃんよ」
「なんですって!?」
「なんだとぉ!?」
そんなどうでもいいようで、俺のこれからの人生苦労だらけになるかという重要な攻防をつづけたのだった。
〇 〇 〇
「それでー、今回の目的地は、“青龍村”なんだよ!」
「青龍村ぁ?」
結局、【フライ】という移動手段になり、上空を飛行中にステフがやっと今回の目的地を話し始めた。
青龍……確かこの世界ではおとぎ話にしか出てこないはず。そんな生物の名前を付けた村か。
すっごい胡散臭いな。
「ん? ししょー知らないの?」
何をだ、何を。これでくだらない事言ったら急降下するぞ。
「先輩、やらないでくださいね?」
「……」
そんな、恨めしそうな声が後ろから飛んでくる。見栄を張り、結局怖くて俺の背中にコバンザメすることになった新田だ。
「やらねぇよ……」
流石に、後ろから命を狙われたら、そんなことが出来るはずない。
「いいぞ、ステフ」
「うん、実はね~」
ああ、実は? あんまため込むなよ。知りたくなるだろ?
「青龍って、本当にいるんだよ?」
…………………。
「はあああああああああ!?」
「「きゃああああああ!?」」
思わぬ発言に、俺は思わず急ブレーキをかけてしまった。急に感じるGに、ステフと新田が悲鳴を上げる。
「あ、あぶねーあぶねー。危うく失速しかけた……」
「「もう失速してる!!」」
いや、だってさ。そんなこと言われたらそうなるじゃん。
「実際に、いるんだよ。青龍が。青龍村に。結構大きくてね。尻尾で8mくらいあるんだよ」
「なんだ、見たことあるの?」
「うん、牙とか凄かったよ~。でかくて、鋭くて!」
ここまで具体的なことを言われたら、本当にいると判断して間違いがなさそうだ。というか、俺が想像していた青龍とほぼ同一なんですけど。
「ちなみにだけど、ここからあと10キロくらいだよ?」
「近いな! 往復2週間じゃないのかよ!?」
「ああ、うん、実はね~」
と、言いながらステフがバックからこの王国の地図を取り出す。そこには街道のような道が複数記載されている。
あれ? あんま重なるところないのか?
「ここがシュベルツィアでしょ? それで、ここが青龍村。シュベルツィアから青龍村には街道がつながってなくて、王都を中継しないとなると、一回国境近くまで行かなくちゃだから。で、今はここ。この大森林は本当に強い魔物とかしかいないから、通れないんだよ。直線でも軽く70キロあるし」
なるほど。だからいろんな方面に街道が伸びてる王都を経由すると。だから2週間もかかるのか。納得。
「確かに、【フライ】なら1日もあれば着きますしね」
やっと機嫌が直った新田も会話に参加する。まだ顔色悪いな。さっきまで死にそうな顔だったのに。
「じゃあ、あと1時間も飛べば青龍村なのか」
「そういうこと~! さ、早くいこっ! 久しぶりに青龍にも会いたいし!」
やけにステフのテンションが高いな。
ん? 待てよ? そういえばだけど、あのゴーレム君どうしたんだ……ここ最近姿を見てないぞ!?
「ああ。あの子なら、バーニーとサリーについて行かせてるよ? あっちも遠出だからね」
ああ、なるほど。確かにあのゴーレムなら本来何時間もかかるところもすぐに踏破しそうだな。
そんなことを考えること1時間。俺たちは無事に青龍村についた。
〇 〇 〇
「よし、止まれ。許可証は? どういう要件だ?」
青龍村には大きな検問所があった。並びながら話を聞いている限り、出入りする許可証が必要なようだ。
「よし、通っていいぞ。次!」
おっと、俺たちの番だ。
「あ、門番のおじさん久しぶり~」
「お、ステフの嬢ちゃんか」
「はい、これ許可証。見ればわかると思うけど調査依頼ね。後ろの2人…ニッタさんとししょー…えーと」
おいおいおい……俺がししょーなんだったらししょーの名前くらい覚えろ!
しょうがない。自分で名乗るか。
「大川だ」
「ああ、そうそう英雄オオカワだ! こういえばわかるでしょ?」
いや、だーかーら! 英雄じゃない! 一人の器用貧乏冒険者だ!
「な、あの英雄オオカワとはいざ知らず……失礼しました! どうぞお通りください!」
「ありがとね~」
……勘違いされた俺の名前は、こんなところにまで届いているようだ。どうやって、誤解を晴らそう。
そんなことを考えながらステフを追って村の中に入る。
すると……。
「らっしゃいらっしゃい! 名物青龍饅頭だよ!」
「安いよ安いよ!」
「…………!」
「……!!!!」
中は新宿歌舞伎町のような、どこかの観光都市にも引けをとらないほどの繁盛っぷりを見せていた。
「これは……」
隣で新田までもが呆然としている。建物からせり出す看板が立ち並び、屋台も出ている。
「じゃ、とりあえず青龍のとこ行こうか」
村の様子に「マジかよおいおい」となっていた俺たちに向かって、ステフが目標を定める。
そしてトテトテ走って行ってしまう。
俺たちは、慌てて彼女を追いかけていく。
そして……。
『どーもー、青龍でーす! よろしくー!』
ステフが紹介してきた青龍という生物は、かなり軽い、ノリのいい性格だった……。