第41話 魔獣契約をしたい! 3
向かい側から飛んでくる白い鳥。1対の冠羽をたなびかせて、時々羽ばたいて我が物顔で大空を舞っている。
それが、初めてシルバーエル―を見た時に感じたことだ。
「とりあえず、【インビジブル】で……」
俺は素早く自分と新田の姿を魔法で隠す。そうしないと、見つかってしまうし、危険だと思われたらすぐさま逃げられてしまうからだ。
鳥は基本臆病である。
「それと、これを……」
「え、ちょ……」
素早く降下して、倒れているダークウルフ1匹を回収。それを抱えながらすぐに近くの茂みに隠れる。【インビジブル】使用中とはいえ、そのまま棒立ちにはなれない。
やがて、シルバーエル―は倒れているダークウルフの群れの中央に降り立つと、品定めをし始めた。突っついて死んでいるかを確認、それから傷つき具合をみてから、とうとう爪で切り裂き始めた。
「……う」
そんな光景を見始めた新田が気分の悪そうにする。……あんた医療系志望だったよね? それでこれはまずいんでない?ダメじゃね?
「あんまり見たくないんですよ……!」
そりゃあ悪かったね。とはいえ、こっちも今から同じことやるんだけど。
「え……?」
俺は先ほど回収したウルフの腹にナイフを入れる。そのまま横にこう……ズブズブっと。
「……解体解体」
「あんま血とか飛び散らせないでくださいよ」
「そうしないとばれるわ」
そのまま内臓を取り出して首を根元から取り外して。背骨から肉を取り出して、完成。
「それ、なにに使うんですか……?」
「もちろん、捕獲に使うんだよ」
俺はそのまま【チェンジ・マテリアル】を使用して、かえしのついた針を作り、すぐに強力な糸につなぐ。
「な、なにするんですか……?」
「何って? フクロウの一本釣りすんの」
「……ええ?」
まあ、そうなるよな。というか、これは念のためだし。というのも、これを食べているときに、【エレクトリックフィールド】を発動させる。その時、発動前に少しだけ地面が光ってしまうのだ。
それで、逃げられてしまうことがあるので、念のための一本釣り戦法というわけだ。
「はぁ……」
未だに納得をしていない新田。まあ、そりゃあそうだよな。こんなの、誰が思いつくのかという話になるしね。
俺は、静かに、いともそこに置いてあったかのように針を仕掛けた肉をシルバーエル―の近くに投げる。そして、そのままちょっと動かしてアピール。
誘い方は、キスを釣るときと同じ。
『ギュイ?』
謎の動く肉に興味を持ちだしたシルバーエル―が肉に近寄ってきた。よしよし、そのまま来い! そして食え!
『ギュ? ギュイイ?』
「うわぁ……地味だ~」
俺が竿代わりにした木の棒を細かく左右に振っているのを見て、新田がそんなことを言ってくる。あたりまえじゃ、というかこれが釣りの醍醐味というものでしょ。獲物が見えてるから、今回はなおさら力が入る。
『ギュ……』
ゆっくりと品定めするシルバーエル―。つんつん突っついてみたり、足で蹴飛ばしてみたり。
慎重だな~。
それでも俺は必至にアピールを続ける。
「先輩、むしろこれは動かない方がいいのでは?」
と、いいますと?
「さっきの攻撃とかは、生きてると思ってて殺すための蹴りだったんですよ」
なるほど。じゃあ、自然な動きで止まるために、もう一発もらう必要があるな。そうでもしないと、こいつは賢いからばれてしまう。
『ギュイイ!』
狙い通り、再び蹴りが放たれたので、少しだけ痙攣するようなしぐさを再現しながら、エサの動きを止める。いたって、自然に、だ。
『ギュ……』
今度は死んだか、おいしそうかの品定めになった。やはり、つついて死んでいるかを確認したり、威嚇で羽を広げてみて反応を見ている。もちろん、反応はない。
『ギュイ!』
よし、食べよう! ということなのだろうか。シルバーエル―は大きくうなずくと、くちばしを大きく開いて、それを加えて……。
空へと飛びさろうとした。
「……はあああ!? ちょ……【フライ】! 新田、騒ぐな」
そのまま新田に警告して、手を掴んでやりながら、動きに合わせて【フライ】発動。【インビジブル】で結構魔力を消費しているのだが、やむを得ない。限界が近くなったら、それこそステフ式バズーカのパチンコシステムで撃墜してやる。
『ギュイ♪』
久しぶりにいいものが手に入った、というような感じの鳴き声を発しながら、どんどんシルバーエル―は速度を上げていく。
「……うにゃああああ!」
少し辛くはなったものの、せっかくの獲物だ。逃すまいと俺も速度を上げる。見えない攻防は、シルバーエル―が巣にたどり着くまで行われた。
〇 〇 〇
「はぁ……はぁ……」
「だ、大丈夫ですか?」
「なんとか……【エレクトリックフィールド】使えるくらいには」
結局、根性で巣までついてきた俺たちは、そのままチャンスを待っていた。そして、今は食べるの待ちだ。
『ギュ……』
今か今かと待ち構える俺たち(インビジブルは消費の都合上切った)の前で、とうとうくちばしが開かれて、そこに肉が入っていき。
閉じた。
「今だ!」
俺はその瞬間に、竿(木の棒)を引く。透明な強度の高い糸はがピン! と張り、手ごたえが伝わってくる。ヒットだ。
『ギュ!? ギュイイイ!!』
突然のことに、驚くシルバーエル―。そりゃ食った瞬間に口の中の物が抵抗して、引っ張られてくのだから、そして、口の中に何かが引っかかるのだから。
『ギュ…!!』
「素直にお縄につけい!」
俺は渾身の力で引っ張ると、あちらは空に向かって、羽ばたき始める。そうはさせるか。
「ぬおおおお!」
『ギュイイイイ!!』
「うわぁ……なにこの地味な攻防は……」
うるさい! これが、釣りの醍醐味というものでしょう! ただし、今釣ってるのは、魚じゃなくてフクロウだけどね!
「【フライ】!」
今度は空中でのバトルになった。あちらから放たれる無数の【ウインドカッター】を避け、こちらも片方で竿を引きながらパチンコを放つ。
それをフクロウはうまくかわす。
「うおおおお! 【ブースト!】」
『ギュイイイイイ!』
右に、左に、上に、下に。360度開けた上空でのフィッシング。非常にエキサイティングで、スリリングな空中決戦。
そろそろとどめだ!
「【爆雷雨】!」
「ギュオオオオ!」
渾身の【爆雷雨】と、シルバーエル―の【竜巻】が激突。
……するかと思えばこちらは直前で分裂したわけで。
『ギュイ!?』
そのままフクロウの近くで爆発。爆風によって羽をやられたであろうシルバーエル―はそのまま墜落していった。
〇 〇 〇
「で、本当に魔獣契約してきちゃったんですか? たった一晩で?」
「ああ、たまたま、ね」
翌日。俺は新しい相棒を連れて、冒険者ギルドへと向かった。相棒は肩に乗っかって、毛繕いをしている。呑気だが結構強いようだ。
「ま、これからよろしく頼むぜ?」
『ギュ? ギュイ!』
こうして、俺たちのオタクパーティーに、新しい仲間が加わったのだった。
おまけ~悩み事~
とある日の朝、俺は窓から入ってきた日の光で目覚める。なんとも健康的な朝だ。そしてそのまま台所へ……朝飯作りたいからな。
するとどうだろうか、キッチンのバスケットに置いてあったはずのトマトとかの野菜と柑橘類が全部なくなっていて、代わりに丸々とした鳥野郎が……。
そう、これは相棒。夜行性だから夜にも腹が減るわけで。肉とかは置いといたんだけどそれでも足りずに野菜類にまで手を出しやがった……。
「クッソ―……またやられた」
今日の朝ご飯はただのトーストになりそうだ。なんとかならないものかなぁ~……。