第36話 巨大ゴーレム討伐依頼 3
気が付けば、俺は木の上にいた。初めてこの世界で目を覚ました時と同じ感覚だ。下を恐る恐る見てみると、15mほど下に地面があった。そこには先に目を覚ましたであろう赤坂とステフ、シルクが座っていた。って、なに食ってんだお前らは! あ、スティックみたいの食ってる! 俺にも1つよこせや!
俺は怖いという気持ちを抑えながら、幹の方にゆっくりと移動していき、つかまる。はー怖かったあ。
俺はそこからゆっくりと木を降りていく。ありがたいことに、でこぼこしているこぶが多くあり、それを足場にすることで、容易に降りることができた。
「あ、ししょーおはよー」
「ああ、おはよー……じゃないわ! 何食ってるんだお前らは! ほかの奴を救助せんか!」
「だって~、上るのには体力必要なんだもん~」
いや、助けてやれよ。バーニーとサリーは大丈夫だろうけど、新田は降りることができないのだ。
「とにかく、俺は新田を捜索する……」
「せ、先輩ィィィ、赤坂ァァァ! お、降ろしてぇぇぇぇぇ!」
「手間省けましたね」
何というタイミング! 新田がさっき俺が下りてきた木の上で声を上げる。さっき俺がいた場所よりも上だ。
「わかったわかった! 今助けに行くから」
と言って、【フライ】を使おうとして……。
「あれ? 魔力がほとんどない?」
ということに気が付いた。そうか、ジャイアントゴーレムの装甲を変換するので、全ての魔力を使い切ってしまったのか。
「しょうがない」
そう言って俺はまた木を登っていった。
〇 〇 〇
「さて、どうするかな」
結局全員が木から降り終わって、その場で臨時の作戦会議をすることとなった。ジャイアントゴーレムを逃してしまい、【チェンジマテリアル】によって装甲を変換してしまったのだから、実際のそれとは違うし、外見、大きさともに違くなっている可能性が高いのだ。
「と、とりあえず戦力が均等になるように2手に分かれてから捜索して、見つけたら何かしらの方法で知らせるというのはどうですか?」
とバーニーが提案してくる。うむ、それしかあるまい。形状がわからない限り、姿が見えない限り、そして【フライ】が使えないのだから、そうするしかないだろう。
「じゃあ、どうする。俺はもう使い物にならないから。魔力ないし」
「いえ、先輩には空間把握能力(仮)がありますし、バズーカという攻撃手段もありますから」
落ち込む俺に新田がそう言ってくれる。ありがとう、でも役立たずという自覚くらいあるから、気にしないで……。
「とりあえず、師匠は主力ということにして……火力的に言うと、私と師匠とニッタさんとステフ、シルクさんとサリーとアカサカさんでしょうか」
確かに。タンクでおそらく精霊魔法2発は撃てるシルクに、なんでもぶった斬れそうなサリーに、騎士だけどある程度の火力がある赤坂と、役立たずの俺、メイスで岩をも粉々にするバーニー、バズーカで押し込めるステフ、それに魔力タンクの新田。
うん、戦力は均等と言ってもいいだろう。
「よし、それで行きましょう」
「そうだな。これでお互い知らせるとしよう」
そう言って、俺は持ってきていた閃光弾を取り出す。数は3つ。
「緑が発見の合図、赤で増援要請、青が討伐完了だ。緊急時は全部一気に投げろ。爆発音ですぐわかるだろ」
それから、閃光弾の使い方を全員に教えて、2手に分かれて捜索を開始した。
〇 〇 〇
そして捜索すること1時間。俺と新田とステフとバーニーで捜索しているが、未だに見つけることができない。
「……ねー、もうどこなのぉぉぉぉぉ!」
捜索が面倒くさくて、飽きっぽい性格のステフがとうとう音を上げた。いや、俺もあげたいよ?
「ステフ、とにかくこの依頼は達成しないと死者が多く出るから……」
「わかってるよバーニ―、でもさ~、いないじゃんもう」
確かに。あれだけの巨体なのに、さっきも唐突に現れたし。なんだよ、ステルス機能でもあるのか?
「それはあると思いますよ? あれだけでかいゴーレムならなおさら」
「あのね~、ゴーレムはあんまり戦闘したくない魔物なんだよ。体がでかいしノロいし。地底の魔物に群れで襲われたらあっという間にやられちゃうでしょ? だから、ゴーレムはたいてい幻影魔法で自分の姿を隠してるんだよ~」
それを先に言え、先に。それじゃ見つからないじゃないか! ったく、今も見逃してる可能性が高いじゃないか。
「……そうか、魔力探知にも引っかかりませんでしたものね。じゃあ、村を襲うのを待って、直前で食い止めるってやり方が一番いいんじゃないですか?」
「いや、それだと万が一突破されたときのリスクがある。それに可能性は低いが、装甲を変えたから、もしかしたらそのステルスをうまく使えていない可能性がある」
素材が変わると、使い道も大きく違くなるように、ステルスの使い方も違くなるのではないだろうか。
「確かに、アルミニウムと銅じゃ使い道が違いますもんね!」
それを新田も理解して、「もしかしたら」の可能性を知ってか元気になる。俺にもその元気を分けてくれると助かるんだけど。
「もしかしたら、そこら辺の岩に擬態していたりとか」
「はは、まさかな」
と言いながら、俺はたまたまあった岩をポンポンと叩く。
すると、それがわずかに、動いた。
「……ん?」
不思議に思った俺はもう一度、もうちょっと強く叩いてみる。
すると、岩は明らかに動いた!
つまり、これはゴーレムの一部ということか!
「いたぞ……そのまさかだ……!」
次の瞬間、地面から巨大なゴーレムが姿を現したのだった。