第34話 巨大ゴーレム討伐依頼 1
俺は目の前で急停車したソリに乗っていた奴全員に何があったかを半端やけくそで問いかけた。
「で、結局なんだよもう、今日は休むぞ! 誰がなんてったって俺は休むと言ったら休む!」
「ま、まあ詳しい事は、中ですればいい。それと、ホーネスト……壊した分の代金は絶対払えよ……?最近やっと直したんだが……」
俺の発言を受けてか否か、アルフレッド卿がホーネストに賠償請求をしながら案内する。
正直、詳しい話すら聞きたくないんですけどね。
セシリア様は依然ボケーっとしている。そりゃこんな急な展開が来たら誰だってこうなるわな。俺は、慣れてしまったんだけど。
「先輩、あれここのお嬢様ですよね…?何やってたんですか……?見たところ談笑していたようですが……?」
本館に戻っている途中に新田がそれはそれは暗い声を浴びせかけてきた。なに、何か悪いことしましたっけ、僕。
「ただ単に、この親バカ男爵様に連れてこられて、ファンとか言っているここのご令嬢の相手をしただけだが」
「ふーーん??」
なんだよその態度! 悪かったな! こっちも親バカ領主の相手を延々とするより、こっちのご令嬢様の相手をする方がずっと簡単だと思ったんだよ!
……でもね、面倒くささと神経使うという点では、プラスマイナスゼロでしたわ。はい。
「ま、それはいいとしましょう。今回の依頼で十分な活躍をすればチャラにしますよ?」
は? なに、依頼受けること決まってんの? 俺は聞いてないぞ。絶対に今日は休むと決めてるんだぞ? この前(と言っても3,4日前)のゴブリン騒ぎもあったんだからな。
こっちはそれに加えて家事全般やってんだぞ! 疲れてるんだよ実際! あー、せっかくの休みなんだから休ませろよ。
もちろん、そんな願いなど聞き届けられるわけもない。何と言ったって新田が居て、アルフレッド卿がおり、ホーネストが後ろにいて、赤坂もいるのだ。逃げれようか、いや逃げれない。100%の確率で殺される。
俺は諦めてついていくことにした。
〇 〇 〇
結局、本館のテラスということになり、俺たちは各々席に座り、出された紅茶と俺が作ったクッキーで、ティータイムをしながら要件を離すことになった。
「そんで、今回はなんだよ。どうせまた災厄級モンスターが現れたとかいうんだろ?」
ある程度の流れならもうわかるわい。悲しい事に、そこらへんをちゃんと読めるようになってしまった。それにホーネストがいるってことは、絶対にそう言う関連と相場が決まっている。
「なんだ、お前は読心術スキルでも持っているのか!?」
いやまあ、持ってるといえば持ってますよ? 俺に危害を加えるのか、味方かを一目で認識できるような能力が素で備わってますから。だが、そうじゃない。
ホーネストがいるから、そして新田までもが大慌てで現れたからだ。もうそんなのこの答え以外ないじゃん。そうじゃん。
俺だってそこまで鈍くないよ。
「ま、まあそれはいいとして。とにかく大変なんだよ。一刻を争うことだ」
「いや、そうじゃなかったらぶん殴ってるぞ」
俺がカップを持ちながら右手を小刻みに揺らして見せる。それを見たアルフレッド卿とホーネストはひきつった顔で、乾いた笑い声を発している。
「で、ですね。つい2~3時間前にアルゴール村という村から使者と通達が来ましてね。なんでも村人がジャイアントゴーレムっていう50m級のゴーレムを発見したらしくてですね。それはもう強くて硬くてとんでもなくて」
「多分騎士団全軍使っても倒せるか怪しいんですよ。ノロいからまだ村に着くまでには時間がかかりますけど、早く討伐しないと村がつぶれて死者多数出ちゃいます」
なるほど。つまりはそのバケモンを倒せと。なんだよ50m級って。宇宙世紀のモビ〇アー〇―でも48mとかそこらだぞ。50mだろ……確か18mでビル6階分に相当するから、約17階相当?
え、なに? 巨大な高層ビルが襲ってくんの? 怖い。
「いや、まあそうなんですけど……」
いや、何度も言うが無理だろ。だって、内臓がないから酸反応性爆弾使えないし、ステフ改造式バズーカでいくら損害与えられるかわからないし、勝てるとしたら、直接【チェンジ・マテリアル】が使えたときだ。通用するなら、多分倒せる。
「というか、【エース】案件じゃんこれ。【エース】のパワーならいくらジャイアントゴーレムだろうが粉砕できないのか?」
「それでも火力が足りない可能性があるからこそ、君たちの出番というわけじゃないのか?」
優雅にお茶を飲んでいたアルフレッド卿がそんなことを言ってくる。まあ、そりゃそうだけどさ。備えあれば憂いなしは俺の好きな言葉だけどさ。
「それに、私がもう受付済ませてきましたから。ちゃんとパーティーでの受託ですよ?」
「うぬ……」
パーティーでの受託……つまりはパーティー全員参加ということ。俺が逃げたらパーティー全体にペナルティが付く。つまり、絶対に受けなくちゃいけないということ。
「わかりましたか、先輩? ちゃんと受けましょうね」
「はい」
子供に言い聞かせるような口調で言ってきた新田の言葉に、俺は素直に頷いた。
〇 〇 〇
「では、また来ますから。すいませんね、こいつらのせいでこうなっちゃって」
「いえ、お仕事ではしょうがありませんよ。また今度の機会にお会いしましょう!」
門の前で俺はセシリア様に別れを告げる。別に、来たくないんですけど。結局、面倒くさかった。【ソードビット】の原理だったり、酸反応性爆弾を知っていたり、バズーカ撃ってみたいとか。さんざんだった。
その後、俺たちは街に戻って馬車に乗り込む。今回は、シルクも来るそうだ。最近、赤坂にべったりだと思うのは、俺だけでしょうか。
「とりあえず、精霊魔法なら少しはダメージ与えられると思いますから」
確かに、火力補充という面ではこいつはかなりありがたい。数は打てないけど、最適な援軍と言えよう。
「俺って、いる意味あるんですか……?」
赤坂がそんなことを言ってくる。確かに騎士はそういうデカブツの相手を苦手としているが。
でもね、そんなこと言ったら俺が一番いていいか怪しいわ。ほとんどがCだし、ステフ改造式もそこまで威力があるわけじゃあないからな。
「ま、とりあえず現地には既に『祈祷の時雨』が先乗りしてるらしいから、大丈夫ですよ」
お、弟子(仮)もいるのか。なら、倒せそうだな。…多分。
俺は高火力6人をどう使ってゴーレムを倒そうか考えながら馬車に揺られること約4時間。
夕暮れ前にそのアルゴール村に着くことができた。
「で、では確かにお連れ致しましたので……ここで」
「ああ、ありが……と……?」
お礼の言葉を言おうとした瞬間、御者が慌ててドアを閉め、来た時の数倍の速度で帰っていった。なんだなんだ、この先に何があるってんだよ。あと馬もすげぇな。
俺は3人を伴って村の入り口にやってきた。そこにはアルフレッド卿に負けないほどのマッチョが甲冑を着て、門番をやっていた。
「おう、なんのようだ」
「あ、あの~、俺たち、先乗りしている『祈祷の時雨』の増援なんだが…入れる?」
「あ、お前たちみたいなヒョロが増援……? まあいい、人は見かけによらねぇからな。入りな。そして宿屋コルテスというところに行けば『祈祷の時雨』には会える」
「ああ、ありがと」
阿修羅みたいなのに、意外と話が通じたのに内心驚きながらも、後ろでおびえている3人を引っ張って、中に入っていく。
だが、そこには、異様な光景が広がっており。
「なんなんだ、これは……」
と、思わずつぶやいてしまった。