第29話 vsやばいゴブリンたち 2
月から降ってきた光の奔流は、野営をしていたゴブリンの大軍の中央に直撃した。まさに神聖なる光。白だが、少しだけ黄色のような色が混ざった光の柱。雷なんて比にもならない威力。それは大きなクレーターを作り、大量のゴブリンを蒸発させて消えていった。
「はぁ……はぁ……」
大技を撃ち終わったシルクは肩で息をしている。あれだけの威力だ。かなり魔力を消費するのだろう。
「い、いえ。私が契約している精霊は昼間に使える【サンライトブラスター】の方が得意で……しかも今日は月が小さかったので消費魔力が思ったより大きかったので……」
なるほど。精霊にも得意不得意があるのか。意外と人間に近いのかな?
「とりあえず、精霊とかについては後で聞くとして……残りの魔力は?」
「あ、はい! あと4分の1です!」
今ので4分の3使ったのかよ。こいつもしかしなくても燃費が悪い子だな? まあいい。かなり数は減ったはずだ。
「殲滅戦に入るぞ!」
「はい!」
『『我が力よ、願いに応じ我らの視界を光で灯せ、【ライト】!』』
俺と新田は【ライト】を使って照明をつける。敵にもばれてしまうが、ゴブリンごときに後れを取る俺たちじゃない。
俺は素早くバリスタを組み立てていき、赤坂が装填した矢に魔力を込めて【アローレイン】を発動。厄介なゴブリンライダーを狙い撃ちする。
『我が力よ、願いに応じ水の波で薙ぎ払え! 【ウォーターウェーブ】!』
近くに来たゴブリン突撃隊は新田の魔法によって生じた波に飲み込まれ押し戻されていき、降ってきた矢に体を貫かれる。
近くに来たのはちゃんと押し戻せるとわかった俺は目を凝らしてゴブリンメイジの狙撃に専念する。
『ギャギィッ!?』
ゴブリンメイジは、自分たちが狙われているとわかった瞬間に、結界のようなものを張って逃げ出した。
だが、結界は正面にしか向いていない。曲射できるのだから問題ない。俺は再び【アローレイン】を発動して一気にメイジを殲滅した。
「よしっ! これで多分だが“ガルガンチュア”は使えない!」
「やりましたね! ……ッ!?」
俺たちがひとまずの脅威を脱して歓声を上げていると、矢が着弾した。よく見れば、弓を持ったゴブリン共がこちらに向かってありったけの矢を打ってくれている最中だった。
……そのうちの一本が、後ろにいたシルクに飛んでいく。気づいた時にはもう目と鼻の先に迫っている。
「危ない!」
そう叫ぶと同時に、赤坂が盾を構えてシルクの前に躍り出て、それを確実にはじき返す。
やるなぁ、お前。
「大丈夫か?」
「あ、はい…大丈夫です」
わぁ……なんなのこのベタな展開。見てるのがいやになる。あの赤坂がちゃんと機能してくれるのなら、陽動に出てもいいかな?
「あ……」
そう考えると、後ろから間の抜けた赤坂の声が。振り返ると、足に矢を受けている。
「おい、大丈夫か?」
「ああ……はい。あまりいたくはないんですけど。なんかグチュグチュしたものが塗ってあるみたいで……」
「あほぉ! それ毒だよ毒! どう考えたって毒ぅ!」
しまった。解毒剤を持ってきていない。情報によると、ゴブリンの使う毒は即効性。早くしないと手遅れになってしまう。
これが人間にも使えるかどうかはわからないが、やってみる価値はある。いったん俺は赤坂の方向を向いて、意識を集中させ、「毒」を感知する。
それを……。
『我が力よ、願いに応じその真価を発揮せよ! 【チェンジ・マテリアル】』
「よぉぉし! ゴブリン切り刻むぞぉぉぉぉ!」
赤坂の体内にある毒を、アドレナリンに変えてみたところ、何故か赤坂がハイテンションになり、剣を鞘から抜き出して丘を降り、ものすごいスピードで群れに突っ込んでいった。
「……何が……何が起こった」
「さあ……わかりません。そもそも何に変えたんですか?」
「ああ、アドレナリン。操作間違えてたらアルコール」
「だったら、操作失敗してアルコールだと思いますよ……? 顔が酔っ払ってましたから」
えーつまるところ、俺は操作を間違えてよかったということかな? 酔っ払った赤坂は、敵の大軍を斬っては斬りまくり、【スラッシュ】を飛ばし、【ウインドカッター】が炸裂。【竜巻】が群れを空へと巻き上げて、倒していく。
……これ単騎で倒せるんじゃないか?
「と、とにかくお前らは矢に気を付けて魔法で援護してくれ。俺は陽動してくるから」
「はい! 【ファイアーウォール】と【ウォーターウォール】、【アースウォール】とかの防護系魔法あるので大丈夫です!」
おい、待て。そんなに使えるんだったら俺最初から陽動しに行ってたよ? もういいや。さっさと殲滅してこよう。
俺は【フライ】と【インビジブル】を発動し、ステフ改造式バズーカ2丁を持って、陽動攻撃を開始する。
逃げ始めてたり、隊を再編成しているゴブリンを見つけては、そこにバズーカを撃ち込む。
あいつらから見たら、空の何もないところから弾が飛んでくるような錯覚を覚えるだろう。『祈祷の時雨』でも見抜けなかったステルス性は十分に役割を果たしてくれている。
下ではゴブリンを見つけては突撃する(酔っている)赤坂がゴブリンに対して無双している。今も10匹ほどの小隊に突撃して、シールドアタック的な何かでまとめて吹っ飛ばしている。
まさに鬼神の如しだ。
心配になって先ほどの丘を見てみると、【ファイアーウォール】で籠城しながら、【フォールストーン】で援護してくれている新田が。ありがたい。
それを確認して、俺はゴブリンロードのもとに飛んでいく。先ほどから、ゴブリンロードは“ガルガンチュア”に張り付いて、何かをしている。どうせ、おうとしているのだろうが、あいにくゴブリンメイジは全滅。自身が全属性持ちで風の戦略魔法を使えるなら使えるが、そうではないと思われる。
なんて思ってたのもつかの間。こちらに気付いていないゴブリンロードが7色の光を“ガルガンチュア”に流し始める。最悪だ、ゴブリンロードは全属性持ちだったのだ。
まさか……。
『グオオオオオ…』
ゴブリンロードは、“ガルガンチュア”から離れ、何かを唱え始める。とたん、大気中の魔力がどんどんゴブリンロードの周りに集まっていく。
もしかして、自分1人で戦略魔法を使うのか!?
これはまずい!
「……!」
俺は素早く2丁のトリガーを引き、バズーカを発射。惜しみなく32連装マイクロミサイルも使う。
『グオオオオ!?』
未だに俺は【インビジブル】発動中。ゴブリンロードは何もないところからの攻撃に混乱しているようだ。
そのままマイクロミサイルのラックをパージし、弾を装填しながら移動し、今度は背後から砲撃してみる。
『ギャオオオ!?』
至近弾の爆風に吹きとぶゴブリンロード。何が起こった!? という顔をしている。ハハハ、その顔が見たかったんだよぉ!
【ソードビット】を使いたいが、この前は【フライ】と【爆雷雨】の併用に俺自身が耐えきれなかった。そして、今回もミスれば、後方2人にも被害が及ぶ。
……無茶はできない。お遊びなしで片付けてしまおう!
【フライ】と【インビジブル】を切り、俺は地面に降り立つ。ゴブリンロードの目と鼻の先にだ。
『ギャギィ!? ギュオオオオオ!!』
やっと攻撃してきたのが俺だとわかったゴブリンロードが剣を抜きはらって突進してくる。
それを【チェンジ・マテリアル】で段差を作って転ばしてやる。もちろん、周りが見えてないのだから勢いよくすっころぶ。頭からのヘッドスライディングは見事だったが、そこに1塁ベースはないぞ?
『グオオオオ!』
またもや突進。それを今度は【ソードビット】の柄で転ばす。今度も見事なヘッドスライディングを見せてくれる。
わかった? 俺はそこら辺のゴブリンみたいに弱くないのよ?
『グオオオオ……!!!』
緑の顔を真っ赤にして(!?)怒っているゴブリンロードは、今度は魔法を使い始めた。
だったら……新技行きますか! リハビリ中に使えるようになったこれを!
『我が力よ、願いに応じその真価を発揮せよ!【マテリアルブースト】!』
魔法を発動したと同時に、俺の武器が光り輝き始める。この【マテリアルブースト】は、素材の本来の力を数段上に伸ばす効果のある魔法だ。消費魔力がまだまだ多いので、軽くしか使えてなかったが、今ここが試し時ってもんよ!
俺は踏み込んで、一気に距離を詰める。わかったのは、自身の服はおろか、靴にまで効果がかかっていること。靴底にゴムを使ったこの靴は、今までよりも動きやすい。
「はあああ!」
ジャンプして、10mくらい上から強襲。よけようとしたゴブリンロードの片手をすれちがいざまに切り落とす。武器の切れ味もいいな。
続いてバズーカを構える。スコープが見えやすい。これなら確実に狙えそうだ。
足元をよーく狙いトリガーを押す。同時にバズーカが火を噴き、バズーカ弾頭にあるまじき速度で敵に向かっていくと、ゴブリンロードのほぼ真下に着弾。従来の数倍もの威力の爆風を生み出した。
『ギャオオオオ!!!???』
爆風で軽々と宙に投げ出されるゴブリンロード君。20mほど上空で滞空したあと、落ちてくる。
……そろそろとどめだ。
「【ソードビット】」
目を閉じて意識を集中。4本のナイフが宙に浮き、落下中のゴブリンロードに向かっていく。
「……やれ」
命令と同時に1本目は左足を、2本目は残っている方の手を、3本目が胴体を貫き、4本目は脳天に突き刺さる。
同時に地面に激突したゴブリンロードは動かなくなる。討伐完了だ。
あとは、この“ガルガンチュア”をどうするかなのだが……構造を見てみるか。
『我が力よ、願いに応じその真価を発揮せよ、【クレバーアイ】』
これはいわゆる透視魔法というものだ。ふむふむ……雷管があって、そこを断ち切れば魔力が込められてすぐに起動できる状態でも解除はできそうだ。
俺は慎重に雷管の位置と形状を記憶し、イメージして【チェンジ・マテリアル】で雷管をただの木の棒にしてしまう。これで、不発弾処理も完了だ。
向こうでは掃討戦が始まっているものと思われる。
……急いで戻って加勢するか。
そう思い武器を拾い上げて、しまうと、【フライ】を使って、元居た丘に戻る進路をとる。
この後、朝飯は何にしよう、なんて考えていた時。
上からヒュー……というなにかが落ちてくる音がして、一拍遅れて、体中にものすごい衝撃が走る。そして、重い。
「ぐ……お……」
あまりの重さと衝撃に耐えきれなかった俺は、そのまま撃墜されたのだった。