第27話 新しい出会い
俺たちがシーサーペントを倒してから1か月。リハビリも終わり、完全復活。料理の修業もして、準備万端!
さらに、暇なときにとあるものを作ってみた。実は、そいつが今足元にいる。
丸いボディで、厚さは25cm程度。足がついており、ゴミを見つけると突進してそれを食っていく。
……そう、お掃除ロボットである。仕組みは前々からなんとなくわかっていたので作ってみたところ、何故か魔物化してしまった。なので通常のお掃除ロボットにはないように、LEDを思わせる光の目がある。口は従来のお掃除ロボ通り下にあるけど……。
未だに鳴き声を発したことはない。そりゃ機械生物ですから、当たり前といえば当たり前
だが、俺が食べ残しとか料理でいらなくなった野菜のヘタなどを見せて手招きするとちょっとだけピョンと跳ねてやってくる。一応感情と意思はあるようだ。もうお前、犬だ。
便利なことは他にも。命令すればどこぞの回転ずしのようにボディに皿を載せて食卓まで運ぶことも、お茶を運ぶことも可能。この前軽く訓練したら2階まで食べ物をこぼさずに運べることが発覚。どんな魔物だよ。
弱点は機械なので、水。ボディを吹くくらいなら嫌がらないが、大量の水を見ると逃げ出してしまう。ちなみに動力源はバッテリーのはずだが、ここ最近体内で食ったごみで発電するような機構を自分で作ったのかは知らないが、限界行動時間を5時間以上過ぎても元気にそうj…いやエサ探しをしていた。
とにかく、何かくれといってるようなので、卵の殻をパス。お掃除ロボ1号はそれをバク宙でノールックイーティング。すげっ。誰が教えたかは知らないけど、ナイス。
なんてお掃除ロボ1号とじゃれあっていたら、今日も寝起き最悪の新田がリビングに降りてきた。
「せんぱ~い、おはようございますぅぅ……」
「おお、もはよーって、今日はいつも以上に最悪だな」
「ええ、ちょっとこの子に芸を仕込んでたので」
はい? 今何と言いました? 芸?なんでル〇バ型機械生物に芸なんて仕込むんだよ。つーかこいつがバク宙して食べるようになったのお前のせいかよ。
まあいい。とにかく席についとけ、もうちょっとで朝飯できるから。っておい。お掃除ロボ1号!お前は座らんでいい!
「赤坂はどうするんですか……ふああああ」
「ああ、あいつはあとでパン1枚かじらせりゃいいだろ。今日はやっと依頼受けに行けるんだから」
2週間ちゃんと療養しても新田からのストップ命令が出ていたので行けなかったのだ。そういえば新田は医学系志望だったな。俺はそのことを離しながら目玉焼きとトーストを食卓に置く。で、俺の席に座っていたお掃除ロボ1号にはしょうがなく、パン耳をおすそ分け。
それをお掃除ロボが目を細めて(!?)うまそうに食べる。こいつどんどん感情表現豊かになってるよな。
「そういえば、あれから1か月街に行ってませんけど、どうなっているんですかね?」
「知らないな。ここ最近そこのお掃除ロボとお前らに監視されてたから【フライ】も使えないし」
また大騒ぎになってなきゃいいけど。いや、本当に。
〇 〇 〇
結局出かける時間ギリギリになって起きてきた赤坂は、パン1枚(パン耳はお掃除ロボに持ってかれた)を食べさせ、復活した魔力を使い【フライ】で街に行く。なんとなくだが、以前より魔力の減りが少ない気がする。なんでやろ。
俺たちは毎度のごとく検問所に行き、ギルド証を見せる。
「ど、どうぞ! お入り下さい!」
何故か門番の騎士は俺らに向かって敬語を使い、通るときは敬礼をしてきた。何があったっていうんだ? そのうち「捧げ剣」をされそうで怖い。
そのままギルドに続く道を歩いていく。ここでも何故か俺たちは注目されている。道端のおばちゃんたちがこちらを見てなにやらヒソヒソ噂話をしている。なに、俺たち悪いことした?
「先輩、なんか噂話されてますが……」
「なにかやらかしたんですか?」
「なんで俺になるんだよ!? 俺はずっと監視されてたんだから街には来ておらんわ! むしろお前らだろ!」
何故全て俺がやらかしたことにするんだお前らは。あほか。街まで歩けば2日かかるんだぞ? むやみに行けるか!
そんなことをツッコミながらギルドの前に到着。何故か裏口のドアが立派になっているのにドン引きしながら、中に入る。そして、中に入った瞬間に、俺たちはギルド職員に腕を掴まれ、強制的にギルドマスターに執務室に連れていかれた。なにやらかしたっけ。
〇 〇 〇
「で、今日から君たちは、このギルドの特別補佐役になってもらうんだが……」
中に入り、待っていた顔が真っ青なホーネストはそう話し始めた、おいどうした。顔が真っ青だぞ?
「だって……だって、担保に、担保にギルドの全財産が……」
ほほぉ。まだおびえていたのか。もうちょっと脅してやるかな。面白いし。
「……先輩?」
(痛い痛い痛い! 足踏むな! わかってるよ冗談だよ!)
俺の表情からそのことを察したのであろう新田が制裁してくる。わかってる嘘だから!
「で、特別補佐ってなんです?」
「ああ、まずそこからだった」
忘れてたのかよ、おい。
「今回、岩龍の一件でうちのエースたちのパーティーは解散。よってギルドの【エース】は消滅。空きになった。で、その場合はギルドマスターである俺自身が【エース】の権限を所有することになるんだが。そうするとかなりの権力を持ってしまうんだ。」
そりゃそうか。【エース】は冒険者のリーダー的な存在で、ギルド内でも最大派閥。その力は自分に従わない冒険者を排除することだって可能らしいし。
「そこで、『祈祷の時雨』をエースにするという話も持ちあがったのだが、彼女らはまだ幼い。任せられる気がしない。だが、【エリート】を【エース】にすることがセオリーであり、正解だ。そこで、君たちには特別補佐役として、実質シュベルツィアギルドの【エース】と同等の権利を与え、彼女らをサポートしてほしい。ついては【ルーキー】から【エリート】へ序列を上げる」
おお、これは大出世ということじゃないか?【ルーキー】は序列で言ったら第4位。それが第2位まで上がるのか。
「その分、強制依頼は増える、会議への参加は絶対だ」
はー、代償も代償でめんどくさいものが多いな。考えていると、ホーネストが「まさか断らないよね? 絶対受けてよ」という目線をぶつけてくる。
うん、俺もこのギルドを『祈祷の時雨』に任せるのは反対だ。ホーネストがいるからあれだけど、すぐにストレスで胃潰瘍になるなこりゃ。
「わかった。引き受けよう」
「ありがとう、ありがとう! ほんっっっっとうにありがとおおおおおお!」
引き受けるといっただけでこの喜びよう。とっても不安だった(?)のかな?うん、俺たちが引き受けなかったら過労で早死にすること確定だったし、そりゃあ舞い上がるか。
「じゃ、そういうことで」
「いや、ちょっと待て」
俺はそそくさと執務室を出ようとすると、後ろからホーネストが呼び止めてきた。
「この街では、岩龍を屠り、シーサーペントをほぼ単騎で倒したオオカワとそのパーティーを英雄視する人が多い。実際、あれ一匹で街は全滅だからな」
つまり、行動には気をつけろってことですかい? わぁってるよ。つーか、だから街でいろいろ噂されてたのか。
「それと……」
「まだあるんかい!」
「この街の貴族様から招待状が来てる。どんな奴か見たいんだと。アルフレッドめ…冒険者は見世物じゃないといってるのに。まあ、近いうちに行ってやれ」
はいはい。わかりましたよ~。とうとう貴族様まで出てきたか。面倒だな。社会的強者とはあんまりかかわりたくないんだけどな~。
そんなことを思いながら俺たちは再びホールに戻り、依頼を物色し始める。なんか、デカブツの魔物が多くなっている気がするな。
「……なな、なんでですか!? 私ならこのくらいは」
「ですから! とっても危険なんですって! 魔法以外に自衛の手段がないと帰還が怪しいんです!」
「……そんな」
いつも依頼受託、報酬受け取りに使っているカウンターで、誰かが言い争っているな。まあいいや。
「どうする? この中で……」
「そうですね~」
「ですから! それを受けるんだったらどっかのパーティーを誘ってください! 例えば、ほら。そこにオオカワさん達がいますよ?」
「え? あれが、英雄オオカワ……と、そのパーティ?」
おいこらちょっと待て。いつから俺は英雄になったんだこら。そういうの面倒くさいからやめてくれよ。順位社会と格差社会は地球だけで十分なんだよ。
「「「…………………」」」
「誘えば絶対に引き受けてくれますよ。それに、そこまで報奨金では揉めませんから。保証しますよ?」
「じゃ、じゃあ……」
と言って、争っていたうちの1人がこっちにやってきた。おい受付嬢。と、横目で視線を向けると。苦笑いしながら「お願いしますね」と返された。おい!
「あ、あの~」
俺たちの背後から申し訳なさそうな声が聞こえてくる。多分、誘いに来たのだろう。にしても、声が高いな。女性か?
振り向くと、そこには白い髪をツインテールにし、青い瞳を持ち、ローブを着た少女が立っていた。手には依頼書を持って。
「す、すいません。こ、この依頼を一緒に受けてくれませんか? お願いします! これ受けないと今月も家賃がっ!」
そう言って深々と頭を下げる少女。ここまでされちゃあなぁ。受付嬢の方に鋭い視線を送る。受付嬢は相変わらずニコニコしてるだけ。
「わかった、受けるよ。だから顔上げて?」
と、新田が勝手に決めてしまった。おい! そこリーダー(実質)の俺が言うとこ! こっちを横目で見ながら「まさかここまでされて断りませんよね」と言ってくる。せっかく受けようとしたのに。なんかやる気下がってきた。
「まあ、いいか。で、依頼って、何?」
登場人物名鑑ー9
名前:受付嬢
身長/体重:156㎝くらい?/非公表
Q:作れる料理は? A:何もない
妹に隠してること:冒険者時代(4年前)はツンデレ脳筋剣士だった。
好きなもの:たま~に剣をぶん回すこと、甘いもの、南方のワインと猫
苦手なもの:残業、北方のビールと面倒くさい冒険者