第24話 巨大なウミヘビ 1
ー新田sideー
「【チェンジマテリアル】ッ! 【チェンジマテリアル】ッ! 【チェンジマテリアル】ゥゥゥ! ああああ! 修復できねぇぇぇぇぇ!」
私達の後ろにある、家だった「もの」の上で大川先輩が必死になって物質変換魔法で修繕しようとしている。いや、もう木っ端みじんになっちゃたんだから直すのは無理だよ。諦めましょ、先輩。
「……二度と、二度とすみかを失うのはごめんだ!」
……そういえば、大川先輩は昔、放火魔に家を焼かれたんだっけ。その時のトラウマなのかな?…いや、なのかな? で片付けられることじゃないんだけどね。
「くそ、この代償は高くつくからな、ホーネスト」
「あ、はい……ギルドを担保にしてでも、弁償を……」
ギルドを担保って、それだ大丈夫なんですか? この先輩にそんなこと言ったら有り金全部むしり取られまっせ?
「おい、なんか今失礼なこと考えたろ」
「いえ、なんでも?」
なんて鋭いんだこの先輩はっ! そういえば空間把握能力(仮)あるじゃん、そりゃあ鋭いわ、忘れてましたよ。ここ最近あの3人組に取られてたから忘れてた。
「で、大変って、何が大変なんだよぅ、っと。お、柱一本できた」
今できた角材を背負いながら大川先輩がさらっと聞く、あれま、先輩にしては珍しく助けるおつもりで?
「どうせ、新田が「引き受けます」っていうだろうからな。新田のお人よしはいつものことだからな~。お、これカーペットか」
「先輩にだけは言われたくないです」
どこの誰ですか、英語の成績底辺のやつを教えるとか、私の悩み事に秘密の相談に乗って、一緒に解決してくれた人は。絶対に言われたくないんですけれども?
「俺は、自分でできること以外助けないからな……それに、この世界じゃ強者を放っておいたら次に俺が狙われかねないし。放っておいたら強くなるのはテンプレだ。だったらさっさと倒した方がいい」
という意見に、私も納得。相変わらずのツンデレっぷり(?)。
単純にメリットを追いかけてるような気もするけど、これは、うん。そうとらえておきます。
「ししょーかっこいー」
「茶化すな! これ以上居場所失ったら発狂死するわ!」
冗談っぽく聞こえるんだけど、それが本当なのだからこわいんですね、これが。
「じゃ、じゃあとにかく、依頼内容話していい?」
どことなくホーネストさんがおびえる猫に見えてきた。さっきから空気をつたって先輩の殺気が伝わってくる。あの、怖いんですけど。本当にマスターが子猫みたいに震えてるから。
あ、ダメだ。先輩の周りに暗黒色のオーラ感じますわ。
「じゃ、じゃあとにかく……今回の依頼は、【ルーキー】と【エリート】への合同依頼だ」
「【ルーキー】ってなんだ? お、これは風呂場のタイル!」
先輩が開始3秒で質問を出してくる。いや、【ルーキー】は【ルーキー】ですよ。新人って意味です。
「あ、ギルドでは第4番目に階級が高い奴でして……」
え!? 4番目!? なるほど、これで私たちもいわゆるネームドになったのかな?
「じゃあ、ギルド会議でもまたみんなに会えるんだ!」
バーニーが嬉しそうにいう。確か、ギルド会議ではギルドのあれこれを話す、冒険者ネームドの会議だったはず。4人以上のパーティーなら代表2人が出るはず。
「そうなるね~」
「わーい」
駆け寄ってきたステフとバーニーをなでる。あー、やっぱこの子たち見てると癒される……。
じゃなくて!
「ああ、そうだった。実は、エルフの大森林の正反対方面にある湖で、シーサペントが出たんだよ」
「「「「「「は?」」」」」」
私達の穏やかな雰囲気が壊れて、硬直してしまう。背後では先輩が木材を落としたのだろうか。ガラガラと物音がしている。
シーサーペント。伝説上の生き物で、UMA(未確認生物)。海の大蛇で、全長100mにもなるといわれている、あれ!?
どうやって湖に来たんですか!? ていうか湖によく居場所ありますね! 狭いでしょ! 絶対狭いでしょ!
「あー、実はこの世界のシーサーペントは……」
「羽があってどこへでも移動しますとか言いませんよね?」
「ご名答」
赤坂の疑念が完ぺきにヒットする。いや、もうそれは水龍なのでは? シーサーペントも一部の作品ではドラゴンとして扱われてるしさ…
「この前ジャンガリアンスネークが大量発生してたのもそいつのせいかな?」
「スネーク!?」
「だと思うよ。あいつスネーク系統の召喚魔法持ちでしょ?」
「……以前はバカステフのせいでギリギリだった」
自然と3姉妹の中で喧嘩勃発。サリーとステフって、しょっちゅう言い争いしていると思うのは私だけでしょうか。
「だ・け・ど!」
「今回は違いますね」
「……あの人がいる」
「「「我らの、師匠が!」」」
そういえば、最近なんかと強くなってる大川先輩がいたな。あの3姉妹も軽くいなすような実力があるんだから。あの岩龍の時みたいに何とかしてくれる。私もそう思う。
赤坂もうんうんと頷いている。ホーネストさんも懇願するような眼で大川先輩に希望を託す。それは、多分だがこの全員の総意!
そして、肝心の大川先輩はというと……。
「ふぅ、個別にやったら早かったな。なんとかログハウス復元完了! この際だからどっかに印とか置いといてばらして持ち運べるようにだな……いやいや待てよ?こ の際だから地下室作るか?そこにチーズとか作る設備を……いや、まずは石窯をだな~……解体場所も欲しいな」
なんとこの短時間であれだけばらばらだったログハウスを修復し、さらに改造計画を立てていた。
「それっ、【チェンジ・マテリアル】! まずは石窯からだ! ピザ焼くぞ、ピザ」
「「「「「「ああ……」」」」」」
楽しそうに石窯を作成し、自身の食欲を満たそうとする先輩を見て、その場にいた全員が失望した。それはそれは失望した。街の、ギルドの、もしかしたら王国の望みは、現時点を持っていなくなった。
「熱の移動と火加減調節考えるとドーム型で……薪とか入れるのをちょいと工夫するか。横から開くようにして~。あ、後ろの部分も開閉可能にしよう。掃除をしやすくすれば長持ちするな」
「「「「「「こんな調子で、大丈夫だろうか」」」」」」
私達はすっごい不安になった。頼みの綱が、これだもの。不安になるなという方が無理ですよ。
「大丈夫。要はウミヘビだろ。まっかせーなさーい。……ヘビはいやだけど」
大川先輩はドーム型石窯を鼻歌を歌いながら軽いノリでそんなことをいう。普通はむしろ不安になるところだが、今は、何故か、頼れる気がした。なぜだろう。
「弟子(仮)もいるなら、すぐ終わる……」
その時、先輩の瞳が、一瞬で猛禽類の目に変わったのだった。
登場人物名鑑ー7
名前:ホーネスト
身長/体重:182cm/72kg
今までモフモフされた回数:200回くらい?(女性が多いらしいぞ)
Q:全盛期は? A:終わった。
好きなもの:執務室でのんびりお茶を飲む、魚、猫じゃらし。
苦手なもの:尻尾の手入れ、水に長時間浸かる、昼寝を邪魔されること。