第23話 修行の成果を見せてみよ!
俺は3日ほど弟子(仮)に基礎的な持久力、筋力アップの訓練をつけ、今日が4日目。
今日はちょっと実戦をやってみようと思う。今までの訓練をものにしていれば、俺がかなり押されるはずだ。
「訓練たって……あんなのほぼ食料目当てじゃないですか」
と、後ろから赤坂のツッコミが入る。やかましいわ! 木登りして上で石投げて鳥堕としたり、筋力アップの訓練のために大穴掘って、発煙筒で野生動物追っかけまわして穴に落としたりとかしたけどさ! 別によくないか!? そうして美味い食べ物が食えればやる気が起きるってもんでしょうが!なあそうでしょ!? 弟子(仮)3人組は口々に肯定の言葉を述べる。
……本当は食費に金使いたくなかったからだけど。口にしないでおこう。うん。
「じゃ、早速バーニーからやってみるか……」
「はい、わかりました!」
自信満々なバーニーは元気よく返事をすると、前に出て背中に背負っている大きなメイスを両手で構える。
対して俺は弓。腰には短剣を2本。背中には矢が3ダースだ。
「それじゃ、はじめっ!」
審判役を頼んだ新田の掛け声で模擬戦が始まる。俺は弓に矢をつがえながらバーニーの出方をうかがう。それと同じようにバーニーも俺の出方をうかがっているようだ。戦闘に関しては結構アグレッシブだったので突っ込んでくるかと思っていたが。
だったら、こっちから仕掛けるか。
「【アローレイン】!」
弓を空に向けて魔力を溜めた矢を放つ。それはクラスターよろしく分裂して矢の雨を降らせる。重装備者が苦手とする範囲攻撃だ。
一瞬で避けることができないとわかったのか、バーニーは重いはずのメイスを天に向け、グルグル回し始めた。頭上から降ってくる矢は防がれるどころか、どんどん風圧で粉々になっていく。
その間に俺は短剣を両手に構えて敵に急接近。無意識な胴体を狙う。そんなことは、同じ戦術家なら百も承知であるバーニーは、頭部を守りながら後退していく。
深追いは禁物。その場でブレーキをかけながら矢をつがえ、放つ。もちろん弾き返される。
矢では攻撃ができないと判断した俺は短剣を手に取りながら詠唱を始める。
『我が力よ、願いに応じ我を空へといざなえ! 【フライ】』
別に無詠唱でもよかったんだが、詠唱した方がコントロールがよくなるので詠唱した。日々の意味不明な訓練のおかげで地面スレスレを飛行できる俺は最高スピードで突っ込んでいく。
「はああぁぁ!」
「え……ちょ……【クーレター】!」
「おおっとぉ!」
重戦車の一発はもらうわけにいかず直前で俺は急上昇。戦闘機でもないのにGを感じる。フーアブナイ。あのまま突っ込んでいたら、今頃あのメイスを振り下げることで出来たクレーターの中心で倒れていたところだ。
さて、どう間合いを詰めるかな……。
と思っていたらバーニーがメイスを片手に持ちかえる。そして、大きく横に振り上げて……。
「【大車輪】!」
見事なサイドスローでそれを投擲してきた! 多分石で鳥を落とす訓練の応用だろう。
俺は向かってくるそれを最低限の行動でいなす。もののあまりの力強さに吹っ飛ばされる。
だが、相手に武器はない。このまま体制を整えて……。
と思ったら今度はポケットから石が。それを連続で5個も10個も投げてきた。スピードが軽く145は越えてるんですけど。俺は正面に来た1つをガードし、後ろから戻ってくる【大車輪】にタイミングを合わせて避けながら【ソードビット】発動。2本を鋭く回転しているメイスに組み付かせ撃ち落とす。それからコントロールを次の2本に譲渡。そのうちの1本はすぐにバーニーの首筋に届き、もう一本は背後の1mで止まる。チェックメイトだ。
「勝負ありですね」
「よっし」
「はぁー、やっぱかなわないっか……」
うん、さらに化け物になった気がしますが。【ソードビット】の特性フルで活用しなくちゃいけないとは思わなかった。
お次はサリー。訓練ではかなり影が薄かったのだが、人一倍頑張っていた。朝晩こそこそやっていた素振りも見ている。
「じゃ、はじめ!」
「【エレクトリックフィールド】!」
俺は合図と同時に周囲に電気の地面を発生させる。一番すばしっこくて、突っ込んでこられたら厄介だからだ。
やはり突っ込もうとしていたサリーは、やむなく止まり、大太刀を構えながら出方をうかがってく る。
じゃ、いっちょやりますか。
「【ソードビット】」
大太刀は基本取り回しが悪い。それは自分がよく知っている。過去にでかい木刀と普通の木刀でやりあった時、完敗したからな。でかいのは基本細かいのにはついていけないのさ。
俺はコントロール重視で3本の剣を操作し、3方向からオールレンジ攻撃を仕掛ける。しかしサリーは避けることはしないで目の前に来た剣の1つを掴み、残り2つをしゃがんで回避。待て、【ソードビット】が掴まれた!? あ、ダメだ。抜け出せるわけないか。
抵抗を辞め、俺はやむなくもう一本を宙に浮かせ、再びオールレンジ攻撃。今度はそれだけじゃない。矢をつがえて、2本を発射。さらに1本を曲射する。
これは避けられないだろ!
サリーはその行動をまるで読んでいたかのように。的確な技を放ってきた。
「はぁぁ!」
居合切りという奴だ。しかもそれを応用して、左を大太刀、右をさっき俺からうb……いや拝借した剣で叩き落す。少しタイミングを外して落ちてくる矢はサリーが避けてしまったことで無駄になる。
うー、だったらこれ使うしかないかなぁ。
『我が力よ、願いに応じその真価を発揮せよ、【ブースト】!』
ほんのちょっと前に本で読み、知り合いの冒険者に教えてもらった身体強化魔法の強化版。テンプレ通り自身の能力を上げる魔法!
それと同時に短剣を取り出す。サリーは剣を捨てて大太刀を構える。突っ込んでくると思ったのだろう。
こっからは、恥ずかしかったけど、やむをえず自分でつけた名前を口にした。
「【五月雨如水撃】」
要はただの【スラッシュ】なのだが。それをただ【ブースト】で強化して瞬間に16連撃にしただけなのだが。MMOとかで五月雨とかつくやつはたいていが連撃系だったので。
「くっ」
サリーも必死に剣を振るって飛んでくる16連撃をいなしていくが、各所に被弾していく。かすっただけだが、バランスを崩すのには十分だった。威力に負けて片膝をつこうとしている。
素早く弓矢をつがえて、3本を連続で放つ。1つはサリーの頭すれすれを飛んでいき、1つはサリーが地面に手をついてるところの前、最後は曲射にしてあり、丁度目と鼻の先に堕ちるようにしておいた。俺はもう1本をつがえる。
「……こ、降参」
「「「おおー」」」
サリーの降参宣言と共に周りから感嘆の声が聞こえてきた。かなり技ありだったのか?
だけど、こっちはスキル使ったし。サリーは使ってなかった。
「……それは違います、【千里眼】を使っていました」
ああ、これもテンプレスキル。遠くをみえるようになったりするやつだ。だから赤坂でさえ何もできなかった(試射の的になってもらった)【五月雨如水撃】(恥)を捌いていたのか。
ま、とにかく勝てたからいっか。
そして、最後はステフなのだが。こいつ、俺があげた試作型バズーカを魔改造したらしい。あきらかに2回りほど大きくなってる。それに、あんなスコープとかついてなかったよな、おい。
それになんで横にバレルがついてんの。いや、俺が教えたんだけど。
「ししょー、言っておくけど私は錬金スキル持ってるからね~? 武器改造とか当たり前だよ~?」
知るか、んなもん! いちいちお前らのスキルなんか把握できるか!
「それにー、まだまだししょーが作ったのと大差ないよ~?」
いやあきらかにあるだろそれ! それに8連装ミサイルポットとかありそうで怖いんですけど!
「それと~」
まだあるのか!とツッコミをいれようとしたとき、ステフが背中に隠していたのか、もう一本のバズーカをとりだした。部品ごとだったが、普通に組み立てている。はやっ。
って、俺1本しか渡してないはず。
「ああ、改造ついでに構造調べて複製したんだよ~?」
知るかボケェ! だから最近夜中に爆発の音が聞こえてたのか! お前夜中に試射はやめろよ! それとフッ見たいに笑わない! それどこぞのスキンヘッドのタコ入道がやること!
……バズーカ2本だとどっかの最終決戦仕様を思い出すな~。
「じゃ、(省略)」
合図と同時に、俺は本能で横に飛ぶ。次の瞬間、そこが爆発した。な、なにが起きたんだ?
「あー、もう、ししょーは鋭いなぁ。せっかく昨日のうちに「じらい」ってやつをしかけといたのに」
「うぉぃい! 俺を殺す気かお前! つーかどこで地雷見つけた! あれは試作品庫のなかに……」
「あー、この前予備の弾取りに行くとき見つけたんだ~、あとこっちも」
と言いながら胸ポケットから不完全品の手榴弾を取り出す。おいおい、使い方わかるのか!? その手榴弾ちょっと特殊だぞ!?
「うん、わかってる。どうせ岩龍倒した酸反応性爆弾ってやつの応用でしょ?だったら火薬はカササギの葉だから、こうして、こすってあげれば……」
といいながらステフはバズーカを縦にして、ハッチのようなものを開くと、そこにはパチンコが。 そこに爆発寸前と思われる手榴弾セット。まさかと思うけど……。
「じゃ、ふっとべー」
ステフが増設したトリガーを押すと同時に手榴弾が向かってきた!
【ソードビット】でそれをくし刺しにして、難を逃れる……はずだった。の、だ、が!
それはピカーっと光り、俺の目から外の景色を奪っていく。直前でステフが派手に目を覆っていたのに今更気が付く。
……これって!
「うん、正解は閃光弾でした~。ししょー頭いいよね。王国が合図で使う信号弾を応用して視界を奪う道具にするって」
いや、元からありますよ閃光弾。じゃなくて! これじゃあまともに矢を射ることができない! だってなにも見えないんだもん! 攻撃が飛んで来たら空間把握能力(仮称)で避けられるとは思うけど、攻撃できないんじゃあな~。
「じゃ、とどめだよ?」
早いわ!
多分だが、ステフがバズーカを構えたんじゃないだろうか。空気をつたって、俺が狙われてるのがわかる。
ん?片方の標準から俺を外した? いったい何を……。
「これも応用だよししょー。【爆撃雨】! ドーン!」
片方のバズーカから音がなったと思ったら、ヒュルルルと花火が打ちあがるときの音がする。多分 だが、これは~……。
空爆かよ! やばいよ死ぬよ!
「【フライ】、【ソードビット】、【エレクトリックフィールド】!」
俺はあわてて空中へと飛び上がり、飛んでくる弾頭を(気配でとらえて)撃ち落とし、それでも迎撃できないのは【エレクトリックフィールド】の効果で不発にする。要は雷管を焼き切ったのだ。
もう1つから音がする。多分時間差攻撃をするつもりだったのだろう。バレバレだ。というかこれは常にやっているものだから言えるが、最初を避けてしまえばあとは楽。【ソードビット】で貫いて迎撃。
あとは、さっきの音の場所から位置を特定して……?
後ろから音がした。なんか、小粒なものが襲ってくるような気がするんだけど。とっさに俺は飛んできたものを【ソードビット】で貫くと、そこで小規模な爆発が起こった。
「あーもー、一発限りの32連装マイクロミサイルが~」
どこのロボットアニメの武装だよ! つーかどこでミサイルを知った! どこで発射装置を見た!
ってか本当にミサイルあったし!
「……はい、私が教えました。あのラノベに出てくるパワードスーツがやってたから」
新田お前こん畜生! 覚えてろよ! 今日のサラダにお前が嫌いな生トマト入れてやるからな!
心の中でちゃんとあとで復讐することを決めて、俺は射線を逃れる。多分、ここと同時に、ほら、撃ってきた。それを三日月のような軌道で回避。音がした方面に向かって片方の短剣投擲。
「あ、砲身に! こんのぉ!」
と言いながらステフはもう一方から撃ってくる。そんなの無駄無駄。俺は横に逃れてる。
多分半径5m以内に入ったのだろうか、ステフが立っている場所が手に取るようにわかる。
「【ソードビット】!」
後はもう一本の短剣をステフに向けると、意外と素直に降参した。
〇 〇 〇
とりあえず、俺の目が使い物にならなくなったので、今日の訓練をおしまいにして(新田は生トマト丸かじりの刑に処した)、俺はリビングでコーヒーを飲んでいた。あ、カップの位置よくわかるね? うん、空間把握能力(仮称)のおかげでね!
「にしても、強かったな~」
「ですね~」
赤坂も関心の成長っぷり。流石は俺。
「ん?」
悦に浸っていると、何かの気配を感じた。具体的には、来ちゃいけないのが来ているような……。
「先輩、なんか土煙が向かってきますよ!?」
赤坂が俺の代わりに目の前から土煙が向かってくることを教えてくれる。
それの正体とは……。
「ああああ! みんなぁぁ! 大変なんだよォォォ!」
やっぱ、ホーネストだった。最近、こいつに対する危険レーダー機能が俺の空間把握能力(仮)に追加された気がする。
そのままの勢いで窓を破ってきた。おい! 家破壊すんな!
「ああああ! 止まらねぇぇぇ!」
そして、そのままホーネストはどんどん家の奥に突っ込んでいき……いまだに3姉妹が着替えているはずの更衣室のドアを破壊していった。
「ま、まずい赤坂、逃げるぞ!」
「あ……あいあいさー!」
そして俺たちは急いで家から退避して。
「「「くらえ! 【ネオ・トライアングルラッシュ】!」」」
「ぎゃああああ!」
「「ぎゃああああ! 俺たちの家があああああ!」」
祈禱の時雨3姉妹の本気の攻撃により、ログハウスは木っ端みじんになりましたとさ。
たまきメモ:祈祷の時雨
祈祷の時雨はシュベルツィアギルドに所属する11歳の3姉妹で構成されたグループ!全員が重戦士で持ち前のパワーで一点突破を得意とする!なお、身体の凹凸はあんまないぞ!
……ロりで大きい鎌とか大太刀持ってるのって萌えだよね?