第22話 大川式訓練譚 3
ー赤坂sideー
「というわけで訓練を始める」
「どういうわけだよ」
しまった、思わず俺こと赤坂唯一はツッコミを入れてしまった。いや、わかってほしい。朝起きて表が騒がしいと思ったら、これだ。
軍服を着た3姉妹が横一列に整列して、大川先輩もGHQ最高司令官のようなグラサンに軍服を着ている。なにやってんの。
大体、修行つけろとか言ってたのはこの3姉妹なのだが、それをなぜ昨日あれだけアウトとか言っていた軍服でやるのかがわからん。
返ってきた返事は、「通気性がよくて、運動性良くて、丈夫だから」だそう。なるほど、気持ちがわからない。大川先輩からは「俺の守備範囲外だからどうでもいい」とのこと。さいですか。俺も守備範囲外だからどうも思わん。
「で、何やるんですか……?」
どんな修行するのかに興味がないわけじゃないから聞いてみる。できることは一緒にやってもいいと思っている。ま、無理だろうけど。
「ああ。昨日の夜飯だけで食料なくなったからウォーミングアップに熊とか鹿とか狼とかを狩るところから始めようかと」
「自分でやれ」
要は腹が減っているだけだろうが。確かに8割がた食べつくしたのはこの3姉妹だけどさ。朝から若干11歳の少女3人に獣狩りさせる奴いないだろうが。
「じゃ、軽~くスバローカウの5体でも獲ってくる?」
「そーだねー」
「……血抜きはすぐその場でやった方がいい」
おいこら3姉妹! お前らはお前らで簡単に「じゃあスバローカウ獲ってくるわ☆」とか言ってんじゃねーよ! 怖いわ! あんなバケモンをよくさらっと獲ってくるとか言えるな! いやまあ、俺じゃ相手にならないくらい強いのは承知の上だが。
とりあえず、俺はここでモーニングティーでも。
「じゃ、俺は行かないんで。赤坂、ついてって」
「うぉい! 丸投げしてんじゃねーぞクソ先!」
朝動きたくないからってこいつ俺に丸投げしやがった! は? 狩りなんて先輩の【エレクトリックフィールド】で一発じゃないの!
「だからいかないんだっつーの。それに、俺はアーチャーだし。騎士でも剣士でもないし。剣なんて習ってないもーん」
「もんじゃねーだろ! かわいくねぇんだよこの! それにあんた剣士の適正はCだろ!」
まったく、地球時代から何も変わってないじゃないか。部活でもめんどくさい企画は全部こちらに押し付けてきたからに……。
でも、英語とか英語とか英語とかでお世話になってたから文句言えなかったんだよなぁ!
改めて考えてみたけど、師匠の先輩が行った方がいいんじゃないの!?
「あー言っておくけど剣の技量だけなら赤坂の方が上だから」
嘘つくなァァァ! なんで騎士Aの俺の斬撃ををこの前サーベルで軽くいなしてたやつが下とか言ってるんだよ!
「え? そうなの?じゃ、アカサカ、行こうよ!」
「じゃ、決定ということで」
「ちょ、えっ、まっ—」
「「「おー!!」」」
「クソ先、あとで覚えとけよぉぉぉぉぉ!」
俺は速攻で3姉妹に担がれて、森の中に突入していくのだった……。
〇 〇 〇 ー大川sideー
赤坂と弟子(と決めたわけじゃないけど)が森の中に突入していってから1時間。俺こと大川心斗はゆっくりと朝のコーヒーを堪能していた。ん? コーヒー豆あるの? ああ、そこら辺のマメ科の植物を物質変換魔法でコーヒー豆にしたのだ。才能の無駄遣いだって? やかましい。
「先輩、本当に赤坂を行かせて大丈夫だったんですかぁ? 心配なんですけど」
後ろから同じくカップを持った新田がそんなことを聞いてきた。なに、弟子(仮)がいるから死ぬことはないだろう。
「違うんじゃないですか、それ。本当のところ、どうなんです?」
「ありゃま、ばれてたか。本当は、あいつにもうちょっと人間性を高めてもらおうと思ってね。多分だけど、あいつ1人でスバローカウは余裕のはずだ。ここらで少し自信をつけてもらって、ネガティブ思考を克服をだな~」
「ついでに1匹でも多く捕まえてもらって、ありったけ食いたいとかいいませんよね?」
「マ……マサカ……んなコトねぇヨ」
なんて鋭いんだ! こいつはエスパーか!? だって、昨日弟子(仮)のせいでロクに食えなかったんだもん。
「でも、先輩の言う通りですね」と新田が続ける。やはり、こいつも赤坂のネガティブ思考を危惧していたようだ。戦闘は臆病な方がいいともいうが、ある程度の強さがあるのなら思い切りの良さの方がよかったりもする。ネガティブだと、戦況をうまく見れない可能性が高いのだ。
「もとから赤坂にはそういう訓練やるつもりだったとこにあいつらが来たからな。ついでだ」
「先輩って、そういうとこがいいところですよね。面倒見がいいというか……」
と、新田が言っているときに……座っていた場所の目と鼻の先に、ずたずたに切り裂かれたスバローカウの死体が放られてきた。そして、血がブワーっとなる。ぐろっ!
「あ、ああああ! 先輩ィ! カップの中に! 血が、血があああ! 目の前には内臓がぁぁ!」
突然の出来事に横にいる新田がパニックになり始めた。いやいやいや、そのくらい何とも思わんよ。あと、スバローカウの内臓は食えるらしいよ? だからせめてモツって言えよ。
パニックになっている新田をなだめていると、それを投げた張本人たちが森の中から帰ってきた。
それはもちろん俺の弟子(仮)たちと赤坂だ。後ろには狼やら鹿やらが大量に。おおっと、さらにもう1頭スバローカウもいる。
そして、獲物の中に赤坂がいる!?
「おい、赤坂! なにがあった!?」
「あー、一度盾にしたら伸びちゃって~」
おいステフ! 連れていけとは言ったが誰が盾にしていいといった! 流石にそれじゃあ赤坂も伸びるわ!
「ま、食材もそろったし、朝ご飯にしよ~」
「人の話を聞けぃ」
スルーしようとするステフにツッコミを入れ、俺は解体作業に移った。すぐに解体したから、彼女らが獲ってきた肉は美味かった。
登場人物名鑑ー6
名前:ステフ
身長/体重:141cm/36kg
身体の成長具合:姉妹の中ではワースト
サイコパス度:マスタークラス(マッドサイエンティストの鏡レベル)
好きなもの:何かを作る、趣味に走る、食べること。
苦手なもの:苦いもの、バーニーの説教、子ども扱いされること。