#70 迫りくる影
「なあお前……ほんっっとうに目立たないようにするっていう気はあるのか……?」
「そりゃもちろん」
「じゃあ……なぜ偵察部隊が持って帰ってきた情報にお前が”ニンジャ”というコードネームで思いっきり有名になっているんだッ!」
チェルン砦の攻防戦から約3日。俺はシフォンのいる執務室に呼び出されていた。またどっか攻めてこいと言われるのかと思って行ったら開幕早々これだ。つーかあの偉そうにしている指揮官ほかのやつに喋りまくったな……? めんどくせぇ。
「で? これだけが要件じゃないんだろ?」
「当たり前だ……まあこれも要件の1つではあったが。実習も勉学の一つでここの学園にいるからにはやらないといけない。だからこれはお咎めなしとして……例のアレが割れたぞ」
「ほぅ。思ったより早かったな」
例のアレ……とはカルト宗教撲滅の手はずだ。俺がギャングを懲らしめて持って帰った情報を元に王国の情報部が徹底的に奴らの正体を探っていた。ぶっちゃけ2か月とかかかると思ったが3週間くらいで結果が出た。おそらくはシフォンのデスクに山積みになっている書類全てが報告書なのだろう。
「まず、取った方法だが……とある探偵に協力してもらって囮捜査をしたのと獣人が多い地区で徹底的に見張った感じだ。結果として奴らの暗号と行動パターンにコミュニケーションの取り方と本拠地の具体的な場所までがわかった」
「なるほど……これが暗号解読したやつか」
許可を得て俺はシフォンの机から山盛りの報告書を手に取って読んでいく。そこに書いてあった要点をまとめると……。
まずは暗号。これは最初に辞典を用意する。伝える側は伝えたい言葉や指示を数字にして表す。次に伝えられた側はその数字をもとに辞典のページの特定に書いてある文字に辿り着くというものだ。例えば9-13という暗号は使われていた辞典で調べたところ、専門用語で”待て”という意味になっていた。
次に行動パターン。奴らは標的……要は亜人獣人を狙うわけだがこれは東西南北を1~4として偶数と奇数の方向で交互に決めていた。また実行犯は自爆要員と観測者の2名1組になって行動し、観測者が特殊な指示や魔法をかけたり催眠術を使うことで自爆要員に任意のタイミングで自爆するように仕組んでいるようだ。ちなみに観測者も見つかれば自ら自爆するように予め催眠をかけられているようだ。
コミュニケーションの取り方はいたってシンプル。ただただ会話に隠語を含めているだけ。一部例外を除いて正反対の意味と捉える。数字なら例の辞典をまた開けばいいだけだ。
「なるほどなぁ……まあよくここまで調べ上げたな」
「観測者を数名捕縛してとあるエルフが開発した魔法や魔力を一切行使できない拷問具にかけて吐き出させた。あんま口割らなかったし拷問具から外すと自爆するから扱いに困っているそうだ」
「うわぁ……不発弾の処理とかめんどくせぇ」
「まあ、それは何とかなるだろう。共和国のほうが処分を望めば自爆させればいい。そして問題はなぜここまで各地で警戒されているのに堂々と動けてるかだが……やはり汚職だ」
そういわれて次の報告書を見てみると……そこには逆に感心するレベルの共和国議員や有力な市民の汚職や不正・賄賂の数々が記されていた。なんと王国に領地が接している2つの首長が金や金銀といった高価なもので癒着。その他市民議会の議員の20%も様々な形で間接的に協力をしている。あーあー……こりゃもはや国家がこのテロを推奨してるに等しいレベルじゃねぇか。
「やはりお前もそう見えるか。ぶっちゃけこれを世界中にばらまけば世界戦争だ。被害を受けた国家に加えその同盟国までもがこの共和国に攻め込むだろう。今のところここまで詳細な情報を持っているのは王国と共和国だけ。帝国にもある程度は開示しているがあっちはあっちで次期皇帝問題で揉めてるからそれどころじゃなさそうだ」
「ま、つまり俺らがさっさと黒幕倒して粛清のお手伝いすればあとは”もう首謀者と協力者倒しといたからゴメンネ”で済むってわけだ」
「そういうわけだ。今、3人ほど工作員を送り込んだ。いつか幹部レベルの者がすべてそろう日が来るはずだ。そこで一気に片付けるぞ」
確かにそれが一番効率がいい。ただ、問題は俺らの存在が敵にバレていないかということだ。首長2名がグルな上に色々有力な市民までもが加担をしている。なんならシフォンがここに留学しているのは共和国内でも周知の事実。徹底的な情報遮断ができていない。その幹部レベルがポロっとこぼす可能性はあるがそう簡単に尻尾を掴めたらここまで苦戦していないはずだ。
どうやらもうちょっと慎重に行く必要がありそうだ。
〇 〇 〇
このやり取りからさらに1週間が経過した。ぞの間にも色々情報は入ってきたものの特に一網打尽にできるという機会は生まれていない。観測者や自爆要員はまた数名捕縛しているがどれも拉致されたりして洗脳をかけられたというような者が多い。
その間、俺はというとデジタルの研究室に籠って来る決戦に備えていた。とりあえずわかってることといえば敵は爆発するということだけ。なので爆発に耐性のあるものを大方持っていけばいいだろうということで盾にできそうな頑丈なものを作っている。ぶっちゃけ赤坂を盾にすればなんとかなりそうではあるが、こちらは少なくとも7人くらいで突撃する。それを考えればついでで2,3個頑丈なものを持って行って損はないのだ。
「とりあえず展開式の遮蔽盾はこれでいいか。多少重いのが問題だが」
「ふむ……まあ爆風を遮断するくらいには使えそうだねぇ。完全に防ぎきれるとは言い切れなさそうだけど」
「ん、じゃあそっちはなんかいい案はねーの?」
「そうだねぇ……以前私が作ったあの”アトミックビット”のレーザーを応用して結界を展開できる装置ならなんとかと思っただけさ。色々あって作成できてないのだが……君がここにいるのならやれそうだねぇ」
その後、脱走しようとした俺はすぐにデジタルに捕まってしまい。三日三晩寝ずに展開式の結界発生装置の開発をさせられる羽目になった。
そして誓った。二度とここの研究室には出入りしないと!




