表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
184/211

#053.死神の舞踏会(ワルツ) 前編

 ピエロ頭のような頭部をもったパワードスーツはまた尋常じゃないほどの跳躍をして先ほどまでいた場所に大鎌を振り下ろす。いくら”ハルバード”の機動性があるとはいえこの特徴的な動きを見切って弾を当てるのは困難だ。今はサシで戦っているからいいものの、これであと2機以上敵が現れたら俺はもう対応できない。今は本当にこの機体の機動性に助けられているだけの気がする。


「とりあえず、一撃だけ入れてぇな」


 こちらのように足からジェット噴射で地面から少し浮いて移動するホバー走法ではないものの、素早い動きで一気に距離を詰めてくるから厄介だ。それに、あの動きは本当に人間そのもの――


 あそこまで完璧なら、あちらにも天才的な人物がいるに違いない。


「……もし、これが小隊単位でいたらやばいな」


 おそらく使っているのは第3世代のパワードスーツ。素の性能が高いが、ここまで機動性が高いわけがない。要するに大改造が必要なわけだが、それをしても問題なく動いている。


「押し切られるのもアレだし……一発当てたかったけど撤退するしかないな」



 もう一度足元に弾数が多いシールド内蔵の無反動砲でけん制しながら、どんどんと後退していく。あとは森林地帯に入ってしまえばこちらの勝ちだ。相手はもう飛び道具がないしこちらの砲撃で足場が悪い。もう追ってこられるはずもないようだ。


 無事に逃げきれたが”ハルバード”で一切のダメージを与えれないとなると……対策が必要だな。


  〇 〇 〇


 情報連合の対列島王国最前線基地、チェルン峠のベースゾーンまで撤退した俺は、先に来ていた新田達の本隊と合流し、なんとか体制を立て直していた。ちなみに、本隊側にもパワードスーツは現れたものの、機体は旧型のシャークピットという機体だったそうで、返り討ちにしたらしい。


 それを聞く限り、俺は結果陽動の部分だけを切り取れば大きな戦果になったのではないだろうか。


「しかし……”ハーデス”のあの機動力は本当にどうにかしないとな」

「”ハルバード”でも太刀打ちできなかったんです?」

「なんとかサシで戦えるが、お互い被弾はしなさそうだな。ってか、機動力では完全に負けてるかもしれん」

「ホバー走法じゃないんですよね? だとしたらどうやって……」


 現時点での推察は足の関節部などに特殊な機構を採用しているか、もしくは単純にスペックが桁違いなだけか。だが、素の性能にしては高すぎる気がする。最近……つい半年前に技術が確立された第3世代パワードスーツにしてはハイスペックすぎる。それがさっきから疑問に思ってると伝えると、新田も顎に手をあてて考え始めた。


「そうですね……私の知ってる機械系アニメでもここまで急激に性能が上がる技術が確立することなんてなかったですし……もっというと、第3世代は魔導回廊っていう人間でいう血管みたいなのの小型化に成功したことで技術が確立された世代なんです。それを無理に改造しても使いにくくなるだけですし……」

「だろ? だからそこが疑問だし、逆にそこさえわかればかなりの情報アドバンテージなんだがなぁ」


 ちなみにこういう技術的な会話をしている間、赤坂は完全に蚊帳の外である。さっきから少し離れたところでチラッチラッと見ているのだが……。あ、歩兵隊きた。シルクがこっちに走ってきた。そしてそのまま抱き着いてる。リア充くたばればいいのに。


「あいつらはあとでイジっておくとして……とりあえず今言えることは”ハルバード”の固定砲台の装備じゃ無理だな」

「確かに、砲撃の角度が狭いからその分不利ですもんねぇ。しかも連射できないし」

「そこなんだよなぁ」

「「う~ん……」」



「だったら、自由に使える砲台があればいいのだろう?」



「「うわっ!」」


 リア充ファッキンの呪いの言葉が呼んでしまったのだろうか、つい気を抜いているときに後ろからいきなり声をかけられた。慌てて振り向けばやはりデジタルという名のクソエルフとパワードスーツ整備隊を引き連れて立っていた。この野郎基地内でくらい気を抜かせろよ。


「まあまあ、いきなり現れるのは今に始まったことじゃないだろう?」

「だから困ってるんだがなぁ」

「まあ、とにかく、だ。キミは自由に動く砲台があれば”ハーデス”は倒せるのだろう? ならば、この”アトミックビット”を使えば解決さ」

「あとみくびっとぉ?」


 なんだその中二病が考えそうな名前は、とひとまず文句をつけようとしたその時、奥から一機のパワードスーツが何やら4本の羽つきの砲台のようなものを置いてどこかに行ってしまった。


「まさかと思うが、あれか……?」

「ああ、キミが普段使うあの【ソードビット】の原理、そしてマジックキャスターの特性の2つを足してできた私史上最高傑作なのさ!!」


 そう両手を天に掲げるように高らかに宣言するデジタルに、後ろの整備隊からはまばらに拍手が聞こえてくる。もしかしなくてもこいつのことだ、強要したな? 

 いや、まずそれにしてもデザインはもうちょっとどうにかならんかったのかこれ。


「ならなかった、これが【エアロフラスト】を含めた推進装置と継続飛行時間、そして砲撃の反動などを考えたときに最も効率のいいデザインだ!」

「ロマンどこ行った!?」

「ロマンはある! パワードスーツが長距離から砲撃し、全方向から魔導砲で敵を串刺しにするというもっともなロマンがあるではないか!」


 ん? おいちょっと待てデジタルは空間把握能力(仮)なんてない。なんならパワードスーツなんて操縦できるわけもないしスペックを聞いている限り普通の機体じゃ実験できないはずだ。


 どうやったんだ?


「あぁ、それは問題ない。私が”筒付き”に性能を寄せた第2世代で試作機を作って演習したが、操縦しながら一本射出したところで操縦者が高熱出して気を失ったからな。その時点でキミは使えるということだ」

「おいテメェこのクソエルフ俺を殺す気か!」

「大丈夫だ、”筒付き”は第3世代ということは魔力増強のジェネレーターを積んでいるはずだ。そこを経由して制御するからキミの魔力量からしたらそんなに大したことはない」


確かに俺の魔力量はそこら辺の奴らの数倍はあるが……白兵戦考えるとカツカツなんだよなぁ。それにこいつが作ったという時点で信用はならん。


「まあそういわず、試してみてくれ」

「それはいいけどどこにこれくっつけるんだ」

「そういうときのためにいるのが私たちでい!」


純粋に武器ラックなんてどこにもないと言おうとした瞬間に後ろに待機していたシルヴィアが威勢のいい声を上げる。そうか、だからこいつは整備大隊を引き連れてたのか。


「まあいいが……なんかあったらお前にはガツンと一発もらってもらうからな」

「それはDVってものだよ」

「違うっ! 鉄拳制裁だ」

「よし、そうと決まれば話は早い! お前ら、次の出撃までに間に合わせるぞぉ!」


まあいい。とりあえず使い物になるんだったら”ハーデス”との戦闘も、なんなら他とのタイマン性能は格段に上がることになる。使い物になるんだったらな。とりあえず許可を出したらシルヴィアが先陣を切って”ハルバード”にとりついて作業始めてるし。あいつらは相変わらず作業が早い。


「ああ、あとできれば”ハーデス”は生け捕りにしてくれると嬉しいんだけど……」

「おいマッドサイエンティスト、タバスコ一気飲みするか?」

「お、なんだいそれは。ぜひともわけてくれ」

「んじゃあとで持ってきてやるよ」


その日の夜。情報連合の研究所の一角で悲鳴とともに口から火を噴くエルフが確認されたという。

ちなみに原因は「アホみたいに辛い唐辛子のジャムを一気飲みした」である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ