#051.動き出した闇
「”シュペー”だと?」
「ああ。信用できるかどうかわからんがそれでも信憑性が高い情報網だ」
「なるほど……知らないところが出てきたか」
俺が大陸マフィアの本拠地を壊滅させた翌日の午後。俺とシフォンは実習には出ずに俺の部屋で集めた資料を見ながら会議をしていた。共和国の大陸マフィア”トラフ”から得た新興宗教団体”シュペー”の存在。それを踏まえてこれからどうするかを決めるのは急務だった。
「ふむ……その者が言うには地下組織じゃ最近有名になってきたのだな?」
「ああ、なんでも獣人の人身売買にグランツ系宗教のしつこい勧誘、誘拐に詐欺等々表にバレないように色々やってるらしいな」
「なるほど……つまり誘拐した者を例によって人間爆弾にしているということか」
「そうみて間違いないだろ。その本拠地がどこかはわかってないがな。なんでも不気味すぎて誰も知ろうともせんし、調べようともしないらしいぞ」
これは昨日、壊滅させた本拠地にいた趣味が悪すぎるマフィアのボスに徹底的に吐かせた情報だから信憑性は高いものだ。まさか自分の幻覚魔法があそこまで効果的に働くとは思わなかった。失禁シーンとかは見たくなかったけどな。まあ要はそこまで徹底的にやったということだ。
「ふむ……しかし、聞いている限りだとこれはかなり危ない橋を渡ることになりそうだな」
「そりゃそうだろ。元々1ミリも危険がないなんてことはねーからな」
ただ、今すぐに突撃しても完全に裏が取れたわけじゃあない。それこそ完璧な根拠と証拠もないまま突撃してもこちらが悪者になるわけだし、なんなら法律外のルートで手に入れた情報だ。共和国に王国から報告する義務がある以上、裏から仕入れたのを証拠とするのはいかがなものか。それを考えるとまた頭が痛くなりそうだ。
「まあそれは私が考えるが……お前は体調大丈夫なのか? 病み上がりで暴れたと聞いたが」
「そーだな、そこまでよくはねぇな。動けるけど」
「はぁ……お前はどうして"安静”ということをしないか……しょうがない、またアレを作っていくからそれ食べておとなしくしておけ」
くそ、また美味いあれか! なんか毎回どんどん餌付けをされていってると感じるのは俺だけなのか!?
〇 〇 〇
それと同時刻。学研都市”ルーツ”にある教会の一つの隠し階段のさらに奥……多数の緑色の液体のようなものが連なる通路には数人の人物がいた。いかにも司教という感じの4人は、そろって漆黒の神父服を着た人物に頭を下げている。それはどこか怪しく、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
「また、失敗というのですカァ?」
「は、はい……申し訳ありません」
「さらに情報が漏れたとも聞きまシたがァ?」
「え、ええ……この近くにある”トラフ”が一人のルミウス魔法学園の教師によって壊滅させられ……我々の情報が漏洩した可能性があります……!」
自分たち――”シュペー”がやってきたせっかくの”浄化”が邪魔された。それに自分たちの武器も最近は不良だというじゃないか。たかだか国の犬の目をごまかして外に出て、汚らしい獣人どもを排除するなんてこともできないほど、初期のころより使えなくなったのか。そう考えると漆黒の神父服を着た人物は大いに憂鬱にさせた。
「どうしてそれくらいできぬのデス」
「そ、それが……つい最近最初期型|を使い切ってしまって……まだ次のが教育不足なんです……!」
「それに、最近はどんどんと規制が強くなっておりまして……!関係の行商機関に圧をかけておりますが、逆に通報される可能性がありまして……うかつに手出しができず!」
徐々に周囲に紫色の覇気を纏わせながら魔力を増大させる漆黒神父に向かい、さらに4人の聖職者は深く頭を下げる。それはもう、額を地面にこすり付けるくらいには。
「それデ、いつこの地を”浄化”して帝王さまに安心シてご統治していただけるのデスかァ!?」
「す、少なくともあと半年は……!」
「もうイイ」
一人の聖職者が話、もう一人が意見を言わんとしたとき、ついに堪忍の尾が切れた漆黒神父は、つけている仮面を外し一歩一歩、ゆっくりとひれ伏している聖職者たちの目の前にやってくると、左から2番目のがたいがいい者の髪を鷲掴みにして無理やり顔を上げさせる。
「ひぃぃぃぃ!?」
「さあ、どうしますカァ? 今すぐその役立たずを使えるようにスルか、それトモ自分で”浄化”してきますカァ!?」
「い、いえ! す、すぐに教育を済ませますっ!」
「はい! なるべく急がせます! 関係各所へもさらに圧をかけようかと……!」
「……そうデス、それでいいのデスよォ~」
必死になって命乞いをする聖職者に太刀を突きつけその紫の瞳で嘲笑うかのように見下ろした漆黒神父はすぐに仮面をつけてまた彼らに背を向ける。
「さァ、汚らしいあの汚物どもをさっさと清掃しちゃっテくださいヨ? すぐにでも帝王様にこの地を統治していただくことコソが、我々の至高なのデスからァ!」
顔を上げた4人の目の前で両手を広げて天を仰ぐ神父。その姿はまさに狂気的で……周囲の緑の液体には、ヒトのような、生物の”何か”が見え隠れしているのであった。
「すべてハ、帝王さまのためにィ!」




