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#050.一寸先は闇 後編

 その日の夜。学研都市・ルーツの大通りからそれた裏道……のさらに奥。とある廃工場の前に俺は立たされていた。学校の教師がつけるローブに腕には学校の紋章が刻まれている。俺がついうっかり口を滑らせたときに問い詰められて、言ったら作られたものだ。ちなみに、武器はいざというときのだが―ナイフ一本のみ。


 そして、ここは共和国では泣く子も黙る大陸マフィア”トラフ”の本拠地である。共和国の裏事情に精通している闇の情報屋、そしてこの国の約70%の山賊がこいつらの配下だという。

  

 じゃあ、なんでこんなところに一人で、かつダガーナイフ一本で来たか。それはもちろんあのマッドサイエンティストのせいだ。「情報が欲しいならここに行くといい」とゴリ押しされ、すぐに外出届とどこで手に入れたかわからない教師用のローブに腕章を持たされ追い出された。まああれからシトリーに許可取ってきたからなんら問題はないんだけどな。


「くそ……あのクソエルフめ、あとで覚えとけよ」


 まだまだ病み上がりの途中なんだけど、それでも追い出されたものはしょうがない。さっさと帰って寝たいから早めに終わらすことにしようそうしよう。


 だったら話が早い。【ブースト】を全身にまとわせて、目の前に広がる巨大な門を蹴り破って中に入る。いつもみたいに空飛んでうんたらかんたらやってもいいが、いかんせん時間がかかる。帰りのことも考えて今回は正面から殴っていった方が早いだろう。


 蹴り破った門の上を歩きながら、建物の方面に行こうとすると、周囲にどんどんと人と生き物の気配が増えてくる。おそらくだが、隠れていた警備員とか番犬の類だろう。それなら……。


「【インビジブル】」


 小さく唱えると、徐々に外からは俺の姿が見えなくなる。もちろん消えたことに対して、周囲の警備員どもは驚き一斉に周囲の建物の陰から現れる。もちろん番犬もそれに続いてこちらに駆けてくる。

 どうやら犬畜生どもが先に来るっぽいので……。


「【エレクトリックフィールド】」

「「「ギャイン!!」」」


 【エレクトリックフィールド】は自分の周囲の地面に電気を流す魔法。まさか犬っころを殴り殺すわけにいかないので感電してもらって動けなくする。


「な、なんだ!?」

「おい、ウルフが全員倒れたぞ!」


 おいおい……こいつらウルフか。つまるところ魔物であり、この警備員どもにテイムされているらしい。だとしたら結構レベルが高いことになるんだが……。


「くそ、どこだ、どこ行った!」

「探せ探せ!」

「俺は報告に……グッ」

「もうちょっと頭使え」

 

 流石に報告に行かれると面倒だったので、【インビジブル】を解除して近くにいた一人をそのまま回し蹴りで吹っ飛ばす。俺は一歩も動いていないのにまずは周囲を探すとは……まさかの頭が回らないタイプらしい。


「なっ……! いたぞ!」

「囲め囲め!」

「ここに入ったことがどういうことかわからせろ!」


 チンピラすぎんだろこいつら……。呆れていれば、8人くらいの警備員に周りを囲まれてしまう。だが、先ほどよりも少し距離が離れているのを見るに、さっきの【エレクトリックフィールド】を警戒してのものだろう。でも、さっきはそんなに出力を出していなかったから範囲も狭かった。そうだ、だったら違うやつで攻めてやろう。


「【アシッドフィールド】」

「なにっ!?」

「足元がっ!」


 まだ一回も使っていなかった魔法の言葉を唱えると、俺の周囲に紫色の光が迸り、地面が毒沼へと変化していく……。もちろんすぐに効果はないため、奴らは「なんともねーじゃねーか」とか「ただの騙しかよ!」と言ってこちらに殴りこんでくる。


「飛べやああああ!」

「ふっ」


 正面の一人がバレバレの右ストレートを放ってくるので、懐に潜り込んでカウンターを食らわせる。【ブースト】を使ったからか、カウンターを食らったやつは近くの建物に飛んでいき、コンクリートにそのままめり込んでいった。


「なんだと!?」

「あんなヒョロガリがなんであんな力持ってんだ!」


 ええ、もちろん【ブースト】のおかですわ。素だったらカウンターしても逆に勢いに押されてしまうかもしれんが、こういう身体強化は肉弾戦では重宝している。そのまま、こっちから攻めてもよかったが、さっきのカウンターを見た敵がこっちとの距離をつめようとしない。いきなりこちらが踏み込んでも、最低限打ち合ってすぐに離れてしまう。


 だけど、それも時間が経つにつれて鈍くなっていく。


「く、そ……なんでだ」

「どうして動けねぇ!」


 それはもちろん【アシッドフィールド】のおかげである。これの効果は自分の周囲を毒沼にして敵に毒を浴びせること。そしてその毒はじわじわと内部に入っていく神経毒……。


「よっと」

「ぐあああ!」


 時間が経つにつれて動けなくなっていく警備員を右のハイキックで、ボディーブローで、右ストレートで、そしてインファイトで倒していく。結局、10分くらいかかったが、しっかり全員をK.O.してから、建物の内部に入っていくことにした。


  〇 〇 〇


 それから、30分後。


 何かのパーティーをしていたらしき会場はぐちゃぐちゃで見るも無残な場所に早変わりしていた。ワイングラスや瓶が割れ、マフィアのサングラスも粉々に。名も知れぬモヒカン野郎が壁にめり込んで、それ以外の人物もうつむきに、仰向きにと様々な方向に倒れていた。


 まさか、これほどまで弱かったとは……一切緊急用のだが―ナイフを使わずに制圧してしまった。泣く子も黙るうんたらって聞いてたからクソ強いと思ったら正反対じゃないか。


「おいおい……まさか冒険者歴3年くらいの奴にこうもあっさり負けんなよ」

「ひぃぃぃ!?」


 近くにいた一人の胸倉をひっつかんで、無理やり起こしてみると、そいつは軽く悲鳴を上げながら動向を開いている。もう面倒くさいから、こいつに誰がドンかを聞いてさっさと情報を聞いて帰って寝よう、そうしよう。


「んで、ちょっと聞きたいんだけど、いい?」

「は、はいぃぃぃぃぃ!」

「そんでさ、お前らのボスってどこだ? こんなかにいるよな?」

「はい! はい! 奥の階段の近くにいたはずです! どうか、命だけは!!!」


 もはや怯え切った子猫レベルで横にプルプルと震えているマフィアは、大粒の涙を流し顔をぐちゃぐちゃにしながらこちらを見ている。そこまで俺は怖くないとは思うんだけどなぁ。まあいいか、こいつにも一応なんか知らないか聞いてみよう。


「おい」

「はぃぃぃい!?」

「お前、最近起きてるあの自爆テロのこと、なんか知ってないか?」

「はぃぃぃぃ! 知ってます、知ってます! 話します! あれをやっているのはグランツ系の新興宗教で、確か名前は”シュペー”だったはずです、はい!」

「……シュペー?」


 一切聞いたことがない。俺たちの予想だったグランツ系の新興宗教ということには当てはまっていたが、シフォンが調べ上げたリストの中には一切入っていなかった名前だ。だが、これはいい情報を仕入れることができそうだ。


「で、ボスはどこだっけ?」

「か、階段近くですぅぅぅぅ! 青いスーツ着てた人です!!!!」

「そうか、ご苦労さん」

「ぐっ」


 最後に聞いた奴には前蹴りを食らわせて気絶させる。


「おいおい……まさかあの一番センスない奴がボスかよ」


 そんなことを思いながらも、倒れているマフィアどもを踏みつけたりどかしたりしながら、情報を得るためにまた次のお尋ね者の所に向かうのだった。


 ……チェックメイトをさすために。


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