第18話 【エリート】は子供!? 2
「ふふふ…私達【エリート】3人娘のパーティー…『祈祷の時雨』に勝てるの?」
目の前にいる分解型のバリスタを背負った、ステフと呼ばれた少女が不敵な笑みを浮かべる。そこには負けないという自信と確証がありそうだ。
俺はそれを見ていて思った。
……11歳で冒険者にはなれないのでは?
そう。俺の知識では11歳の冒険者などいないはずなのだ。この世界の成人は15歳から。その年齢だと体もまだまだ未発達だろうし。
つまりだ。背負っていたやつはよく似たおもちゃ。それをぶら下げてギルドに着て冒険者ごっこをしていると考えていい。それに遊びで【エリート】を名乗るとは……。
「まあ、とにかくだな……ここは遊び場じゃないからさっさと帰ったらどうだ」
「まだ子ども扱いするか、このぉー!」
いや、11歳って子供じゃん。地球だとまだまだ子供割り使える小学5年生だよ。
なんて心の中でツッコミを入れていたら、横にいたそっくり2人がステフをなだめ始めた。
「まあまあまあ、確かに私達が子供なのは事実でしょ?」
「な、バーニーまで認めるのかぁ!?」
「……体は子供、頭脳も子供……腕は一流……」
「それじゃあ完全に子供だよぉ!」
あ、なんだろう。こいつらのやり取り面白い。あと、バーニーと呼ばれた子が背負ってるメイス(っぽいもの)が時々当たりそうになるから怖い。
「それに、よく考えてみてよ。この人たち新入りじゃないの? だったら私たちのこと知らなくて当然だよ~。よく遠くまで依頼こなしに行ってるし」
「う…そう言われてみれば……」
「……バカステフ」
「ブシドー馬鹿のサリーにだけは言われたくなーい!」
彼女たちがギャーギャー騒いでいる波に押されて、俺たちはいつの間にかいつも受付カウンターに漂着した。そこでは相変わらず受付嬢さんが大量の書類を捌いている。それいったい何の書類だよ。いつ来てもそれいじってないか?
俺はどさくさに紛れて、先ほどの「スバローカウ討伐」依頼書をカウンターに置く。
それに気が付いた受付嬢さんはすぐに顔を上げて声をかけてきてくれた。
「おはようございます。今日も依頼うけられるんですね」
「ええ、まあ。力はついてきたからそろそろこの手で復讐するいい機会だと思ってね」
「復讐?」
「ああ、いやこっちの話。それにしてもギルドの警備はこれで大丈夫なのか? 子供がレプリカの武器持って冒険者ごっこしてるみたいだけど?」
俺が今背後で騒いでいる3人組を親指で示してそう言ってやると、受付嬢が確認に行き、頭で顔を抑える。なんだ、いつものことなのか?
「まさかとは思いますけど彼女たちに「子供」とか言ってないですよね…?」
「は? 11歳だろ? 子供だろ。つーかその年齢だと冒険者にはなれないんじゃないの?」
「はぁ。説明しとけばよかったです…。」
一呼吸置くと、受付嬢さんはギルドのルールブック的なものを取り出しながら話し始める。
「一応、ギルドでは10歳から登録ができます。ですが、まだまだ身体機能が未発達で魔力も扱うことも難しいので、戦闘以外の依頼しか受けれません。大抵は冒険者養成学校に行くんですけどね。ですが、彼女たちは特別でして」
へー、冒険者養成学校って本当にあるんだ。それと、なんだよ特別って。
「オオカワさんたちなら知ってると思いますけど、魔力が無意識のうちに体内循環を起こして、常人離れした身体能力を発現させる奇病で、確か……」
「……勇者病じゃなかった?」
「あ、ニッタさん、そうですそれです! その勇者病なんですよ。珍しいですよね。三つ子で全員が勇者病って」
へー、三つ子だったのか。通りで全員似ていたわけだ。いや、似すぎだろ。あんまり頑張らなくていいぞDNA。
「とにかく、その勇者病のおかげで彼女たちは普通は2年かかる養成学校を3か月で卒業して、わずか1年でBランクにまでなったんですよ。そういうわけで……」
「私たちがこのギルドの【エリート】ってわけ」
最後のセリフを3姉妹でギャーギャーやっていたはずのステフがもっていった。あと、いつの間にギルド職員がいる場所に侵入したんだ。
なるほどねぇ。これも異世界だからこその珍現象なのかもしれない。
こんな子供が命を賭して魔物と戦っていると考えたらいろいろ思うところはある。
地球……とくに日本は面倒くさくても9年間の高度な義務教育を受けることができ、戦争とは無関係の平和な場所だった。そこで平和ボケして住んでいた俺たちはこいつらよりも教養や能力で優っているとしても立場は下の「弱者」なのかもしれないな。
「受付嬢さん、そういえば最近岩龍が出て、Fランクが倒したって聞いたけど……どういう人たちだったの? 一度戦ってみたい」
なんて考えてたらステフが受付嬢さんにそんなことを聞いている。もしかしてステフは戦闘狂なのかな?
「えーとですね…それは……」
返答に困った受付嬢さんが横目で俺の方を見る。いや、見られても困るんですけど。できれば、戦わない方向でいっちょお願いします、と目線で話しかける。
そんな時。空気を読まないあいつが現れた。
「お……ステフ達里帰りは終わったのか……それと、ドラゴンイーターは今日も仕事か……」
(ホーネストォォォ! 空気読んでくれぇ!)
「あ、ギルマス~、ただいま~。あと龍喰らいって誰~?」
「そこにいるオオカワ君一行だが?」
空気を読まない猫ことホーネストはさらっと俺たちということをばらしやがった。それを聞いた瞬間にステフの目が獲物を捕らえた猛禽類の目に変わった。
「じゃ、勝負しよ?まさか龍喰らいが子供に負けるわけないもんね?」
「いや、俺たちこれから仕事なんだけど」
「え? なに? 負けるのが怖いの~?」
(ぐおおおお! これ以上の挑発はやめてくれ!)
「別にいいんじゃないですか? 軽く相手してあげれば彼女たちも満足すると思いますよ?」
受付嬢! お前まで裏切るのか! 止めてくれると信じてたのに! わくわくしてんじゃない!
「別にいいじゃん。消費した分はこっちからちゃんと渡すから」
ホーネストォォ! お前もか!
「おう、やれやれ!」
「久しぶりに面白くなるぞこりゃあ!」
「おい、賭けようぜ!」
「よし来た! 俺は『祈祷の時雨』に1つ」
「俺は龍喰らいにだ!」
お~い、外野の方々ぁ! なんでやれやれムード作っちゃってんのぉ!? あと賭けるな!
えーい、もうやけくそだ!
「わかりました! 勝負です!」
…………おい、なんで新田が答える。
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