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#047.たった一人の逃亡劇 1

 湖畔にベースゾーンを建設して一晩明かした翌日。俺たちは行軍を再開し険しい山地を超えて目的地であるリーシュのベースゾーンへ向かおうとしていた。たまたまその日は昼夜ぶっ続けでやる特殊な実習日だったのでこのようなことができたが、いつもだったら実習終了時間までにベースゾーンに着けていなかったらペナルティが課せられていたからラッキーだ。もしもペナルティを喰らっていたら未帰還として3日間の停学と1週間の実習への参加禁止なのだ。


 しかし、今日の実習は1日丸々あるかわりに夜中まであるわけではない。つまるところ今日の夜18時までにリーシュのベースゾーンにつかなければ、ルナや他の小隊も巻き添えで俺たちはペナルティになるということだ。


 もちろんそれだけは絶対に避けたい俺たちは、朝陽が昇る前にすぐに行軍を開始。ベースゾーンを放棄して山脈を突っ切らんと真っすぐに進んでいく。


 ……だが、そこで新たな問題が発生した。


「……遭難したかもしれん」


 前日から、リーシュ山地はひどい吹雪だった。そのため、一番後ろでしんがりをつとめていた俺は気付かない間に本隊と別れて一人見知らぬ山地に一人ぼっちになってしまったようだ。空間把握能力(仮)で確認しても近くに人の気配なし。それに今見つけても敵の可能性があるからおいそれと簡単に近づくことはできない。【フライ】を使ってもいいがそれだと最悪列島から来た偵察班に見つかる可能性がある。しかし同時に本隊か前方の偵察隊が見つけてくれる可能性も高い。

 今回の場合は敵に見つかることが一番まずい。列島に先に情報が行ってしまえば、せっかく現在進行形で情報アドバンテージがトントンになってしまう。そう考えると俺が単独行動をして本隊に追いつくかリーシュのベースゾーンに向かう他あるまい。


「さてさて、どうするべきでしょうねぇ」


 そういいながら手当たり次第に山道を進んではみるものの、やはり状況は最悪だった。まず装備がほぼないといっても過言ではない。あるのはダガーが1本と観測器具、そして残り3つだけの地雷だけ。これで敵と相対しようものなら、逃げる以外に方法がない。魔法は使えなくもないが1日の行軍を考えるとなるべく温存したいところだ。


「多分今は1つ目の山を越えたところだろ? で、そうだとしたらあと4つ山を越えるわけだが……ルナが昨日時点で言っていた列島の部隊があの街道だとしたら……」


 この猛吹雪の中じゃ、まともに行軍するのは無理だと考えた俺は、なるべく列島の舞台から死角になったところで【フライ】を使って一気にまくろうという考えに至った。そうするためにも、まずは敵の予測進路を考えないといけない。俺はその場で立ち往生をして、周囲を警戒しながら地図とひたすら睨めっこするのだった。


  〇 〇 〇 


 それから約2時間が経過したころ、俺はようやく列島軍の進路予測をつける作業を終え、来た道を反対に戻っていた。実は、この先を行くとリーシュ山地とは違う方向に行き、最悪の場合は列島軍のベースゾーンに突撃することになっていたからだ。対して、今から行くルートは湖に水を流していた皮を遡って渓谷を【フライ】でつっきり、そこから1つの山を越えてまた渓谷をひたすら【フライ】で飛行してリーシュのベースゾーンに至るという作戦だった。これは俺一人でしかできないし、猛吹雪で視界がホワイトアウトしているからこそできる、空間把握能力(仮)を酷使使用した逆張り戦術である。


「困ったら自分の勘、ってな」


 今まで俺はずっとこれで生きてきた。小学校の中に飼育していたうさぎが脱走してきてそれを捕まえるときも、いじめを受けたときも、そして中学校の生徒会にいたころ、修学旅行で後輩へのお土産にあえて八つ橋ではなく宇治銀時の素を渡したときも!


 だから今回も失敗することはない!


 湖畔の近くまでやってくると、俺は【フライ】を発動して誰にも気づかれないように水面すれすれまで降下して、素早く谷底を飛行し始める。そこも若干乱気流が発生している程度で特に問題は内容だった。念のためにダガーはいつでも引き抜けるようにして、時々止まっては地図を確認する作業を繰り返す。実はこの近くは聖教と協商の前線がある。だから何かあってもおかしくない。


「とりあえず、戦闘音が聞こえないから今のうちにか」


 何かあったらまずいので、まだ刃が交わる音が聞こえない今のうちに再びギアを入れてその場を通過しようとした。


 ……その時だった。


「よし、抜け……おわっ!?」


 突如として、谷の中では恐ろしいほどの乱気流が発生してしまった。それもそのはず、天気は猛吹雪。よくよく見たら近くには小さな滝もあるから上昇気流によって乱気流が発生してしまっていたのだ。


「クソッ……」


 慌てて【フライ】で前に進もうとするが、姿勢が一切定まらない。まるで風にお手玉としてもてあそばれているかのように頭の方に地面が行ったり今度は左半身が空を向いたり、それこそコインランドリーの中の洗濯機のごとくやられた俺は、とうとう気を失っていしまった。


 そして、次に気付いたとき……目の前にいたのは5名の敵兵の姿だった。

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