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#037.精霊の里 2

シルクの実家に行ったら突如お姉さんに抱き着かれるという驚天動地の珍事件が起きたが、シルクが引き離してくれて事なきことを得た。少々混乱していたそのお姉さんも言っていた”グラン”ではないことを懸命に訴えればしっかりとわかってくれた。危うくあのまま窒息死するなんてことをせずに済んだから俺は万々歳である。

結局、そのあとはシルク実家の居間のようなところに行って色々説明を聞いたり説明したりの時間になった。こっちはとりあえず時々(※赤坂は常時)パーティーを組んでることと今は一緒の依頼でルミウス魔法学園に滞在していることとか共和国で起こっていることとかうんねんをなるべく簡潔に話していく。


「そう……共和国でそんなことになってるのねぇ」

「ええ。自分で言うのもなんですけど、それでシュベルツィアギルドの中でもトップクラスの実力を持つ俺たちに依頼が来たというわけで……」

「へぇ。強いのはいいことだとお姉ちゃんは思うわよ?」

「……はい」


目の前に座る女性……先ほど俺に飛びついてきたヒルデガルドさんが俺たちの相手を一手に引き受けていた。シルクは親御さんとしばらく水入らずで話したいんだろう。それとこの人についてはもうよくわかった。絶対この人重度のブラコン&シスコンだわ。なるべく控えめに付き合うことにしておこう……さっきみたいなことになったらたまらん。


「あーもー、そう警戒しないで? さっきは悪かったからぁ」

「ああ、いえいえ。それはもういいんですけど……ちなみにさっきの”グラン”っていうのは?」

「それはね、私の弟の名前。6歳のころにいなくなっちゃったんだけどね」

「はぁ……」


その後、ヒルデガルドさんが語ってくれたのはグランという弟のことだった。当時、ヒルデガルドさん一家はまだ王都に住んでいた。ある時、お父さんがピクニックに行こうと言い出した。家族は全員緑の中でのんびりするのが好きだったから喜び勇んで王都郊外にある景色の綺麗な丘に行った。

別に何事もなく飲み食いしてから遊んでいた時、とうとう意見が起きた。突如謎の魔法陣が足元にできたかと思うとなんらかの穴のようなものができたという。

武闘派のお父さんがまずいと思い全員に離れろといったが、もう遅かった。一緒に来ていた弟のグランがその穴に落っこちてしまったのだ。それを見たお父さんが必死に彼の腕を掴んだが……一瞬でスルッと抜けてそのまま深い深い穴に落ちていった……。


「その時は共和国の学者に王国軍の情報部も動いて大捜索が行われたけど結局見つからないし、穴もすぐに閉じてしまったから追跡もできなかったのねぇ」

「……なるほど」

「それで、グランは事実上の死亡扱い。一応失踪ってことになってるけどね。今ではそこに慰霊碑みたいなものが置いてあるわ」


……慰霊碑か。確かグランツとの戦争に行くときにシルクがそんなところを教えてくれた気がする。その時もシルクは「兄も喜ぶと思います」と言ってたから間違いないだろう。それにしても……いつだったかこの話に似た夢を見たことがある気がするんだよなぁ、思い出せないけど。


「そんなことが……」

「ああ、気にしないで。私たち家族も今頃グランが帰ってくるなんて思ってもないわ。何せ王都の家は他の人が住んでるし、私たちはここに帰ってきたし。でも、それでもね。グランはいつか私たちの前に現れてくれると思ってるの。そしたら、グランと瓜二つのそこのあなたが現れたから……つい」

「それは奇跡的な偶然だなぁ」


自分の顔に似ている人が世の中には何人かいるとは聞いたことがあるがまさか偶然その”グラン”という人に俺が似ていたとは。なんという確率なんだ……。まあいっか。


「ちなみに、そのグランさんは今もしもいたら何歳なんですか?」

「そうねぇ……お姉ちゃんより5歳くらい年下だったから20手前かしら」

「先輩って今何歳ですか?」

「まだ19くらいだったはず。もしかしたら20行ってるわ」


まさか歳まで一致するとは……確かに瓜二つで年も近けりゃ一つや二つ勘違いもするわな。おそらくここに来るまでに驚いていた人たちは”グラン”を知っている人たちなのだろう。それで似ている俺が突然現れたら、そりゃ混乱するか。


「そんなわけで、本当にさっきはごめんなさいね。シルクちゃんのお友達に無礼なことしちゃって」

「あー、いえいえ。むしろ俺たちも色々世話になってますので。特に赤坂が」

「……まあ、はい」

「あらら、そうなの? これはあとでシルクちゃんを問い詰めておかなきゃねぇ」


小声でボソッと付け加えておいたが聞こえていたらしい。あとで赤坂とシルクの関係が暴露されることに期待しとかなければ。当の本人はこちらに恨みの目を向けてきているが……苦労はするがあとで不意打ちの【エレクトリックフィールド】でも食らわせて黙らせておくか。


「さて、座っての話はここまでにして、里の中を案内しないとね」

「……俺は行ってくるけど、お前らも来るか?」

「お、俺はここにいます……」

「赤坂が死にそうなので私もここに残りますよ?」


おいおい……ってことは俺一人だけかよ。まあいい、あと数日はここに滞在するからせめてこの家がどこにあるかくらいは覚えておいた方がいいだろう。気になることもあったのでそのままヒルデガルドさんについていく。話を聞く限り、シルクの実家はこの里の長の家のようで、ご先祖がこの里を作ったらしい。


「あなたは”六精霊史”って知ってる?」

「ええ。確か火・水・風・土・光・闇のそれぞれの力を持つ勇者が人間と精霊の懸け橋になったって話でしたっけ」

「ええ、その通り。そして、うちはそのうちの”風”の家系なのよ」

「風……? まさかそれって」

「そう、”六精霊史”に出てくる風の勇者、シン・シルフォードの祖先」


風の勇者・シンと言えば特殊な剣と風魔法を用いて敵を一刀両断にしていき、採取的に風邪の大精霊であるシルフィードと契約して人間に風に関する革命を起こして人間との懸け橋になったといわれている。話によれば剣豪と呼ばれ、和の国では”ブシドー”と呼ばれる信念を貫いた者だとか。まさかそんな人の末裔がここにいるとは……世界は狭いな。


「それで、伝え聞くところによれば私の祖先は和の国で助けてもらったここリースキットの王族への恩を返すためにわざわざ千里以上ある海を渡ってここに来て恩を返すために働いたの。その過程でシルフィードから家名に”シルフィード”っていう名前を賜ったらしいの」

「じゃあ、家名はシルフィードなんですか」

「ええ。和の国から渡った私の先祖は同時についてきた和の国の住人が迫害されないようにとここを作ったの。だからこの大陸では見かけない和の国の建築が多いわけね」


なるほど……和の国はこの世界で言う日本にとことん近い所なのかもしれない。以前の戦争の報酬で和の国への渡航チケットは持っているからいつか時間ができたら行ってみたくなった。ちなみに和の国までは季節にもよるが片道20日くらいの船旅でつけるとのこと。半年くらい使って回ってくるのもまた一興かねぇ。


そんな話をしながら軽く里の中を一周。既に日も傾いていたので残ったところは明日まわることにして家に戻っていった。


一方、大川とヒルデガルドが村の案内に行っていう頃、シルクたちはと言うと――


「それで、ユウイチさんは私をゴブリンの毒矢から身を挺して守ってくれて……それから、それから!」

「ほう……」

「あらあらまあまあ」

「……ご愁傷様って、この時のための言葉なのかなぁ」


シルクが両親に赤坂のことを1から100までマシンガントークで話、それを両親は真剣に聞いていく。その間赤坂はさらに胃痛が悪化して息も絶え絶えになるカオスなことが起きていた。

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