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#035.帰郷 2

「なるほど……魔物を解体している最中だった、と」

「ああ。ギルドから加工済みの肉を買うより魔物自体を買い取って皮とかも別途売り出せばブランドで稼げそうだったからな」

「お、おう……」


 殺人でもしてきたんかという形相で現れたクマキチさんと話しているうちに、俺たちのところではギルドから討伐した魔物を丸ごと買い取り、肉は魔物肉として調理して皮などの素材はブランドをつけて卸しているとか。しかも基準がかなり厳しい。ちょっと魔法で焦げとかができてたらその時点でアウトとか。ブランドにならなかった奴もいちおう卸しているそうだ。そのおかげで結構な額儲けているらしい。


「その手があったか。それは思いつかなかったわ」

「そんなわけで、解体場も付け足した。その分バイトとかは雇うことになったが商業部の爺さんがいい人材ばっか紹介してくれるし、やれることが増えて業績も右肩上がりよ」

「そ、そうか……」


 耳を嬉しそうにピクピクとさせながら豪快に笑うクマキチさんはまだまだ稼がないと面白くないとさらに笑っていた。いや、本当に……なんでこの人俺に雇われてるわけ? なんで自分の店にせずに人に店持ってもらって自分は現場指揮でやってるわけ?


「そりゃあ、トップが自分なら色々失敗したらどうしようかと臆病になるが、オオカワが後ろ盾でオーナーやってくれてっから気が楽になって攻めの姿勢を取れるってもんよ」

「ちなみに、熊の巣をもう一度自分の店にするってことは……」

「するわけがないだろう。ただでさえお前の名前を使って客呼び込んでんだから」


 そこで俺は盛大に噴いた。新田も飲み込み方をミスったようで隣でせき込んでしまっている。なんてツッコミどころ満載なんだ……なんで俺の名前を使って客を掻き入れる、そして客はなぜ俺の名前を聞いて熊の巣に泊まろうとする、そしてなぜ俺の名前で売れる!


「自覚ないのか? シュベルツィア近郊に現れた災害級の魔物を次々と屠り、さらには王国とグランツ公国との戦争では将軍を差し押さえ総司令官になって完膚なきまでに敵をフルボッコにした英雄だぞ」


 そうか……そうだった。ここいらにいたときはなぜか英雄だのヒーローだの言われ放題だった。まあ言われるだけのことはしてきたという自覚はあるし、あの頃の俺はどうかしていたと認められる勇気も今は持ち合わせている。今も1個小隊で2個大隊を完璧に足止めするとかやってるけど。


「で、今日は何しに来たんだ、二人そろって……結婚報告か?」

「「はぁ!?」」

「その顔を見ると違うか……てっきり二人で来るもんだからそっち関係かと」

「「年末年始で帰ってきただけだ!」」


 この野郎……ホテルのサービス業やってるから曜日感覚も日時の感覚もなくなりやがったな! それはくまったくまった、あーくまったなぁ!


「まあまあ、先輩落ち着いて。冗談でしょうから」

「いや、マジなんだが」

「えぇ……?」

「だいたいここら辺で20近くになって結婚してない奴らなんてお前らくらいだぞ」


 悪かったな……未だに誰とも付き合った経験のない非リアで。


  〇 〇 〇


 その後、たっぷりと弁解の時間を設けて新田と俺で一気に攻勢に出たら「そ、そうか」と若干ドン引きしてしまっていた。これってパワハラにあたるのかねぇ。そんなことはさておき、続いてはこの前開店させた鉄板料理屋を視察することに。最初は従業員が10名程度の小さいようで建物が大きい店だったんだが……。


 ……うん、やっぱ大きくなってるよね。


「先輩、ここでした?」

「さすがに店の場所は見間違えないはずなんだがなぁ……なしてこうなった?」


 熊の巣もそうだったが、やけに外装の塗装がきれいに塗りなおされ、派手な色で鉄板料理屋てっちゃんという看板が掲げられている。これは……どうしたものか。それに昼飯時でもないのに長蛇の列が完成されている。開店当初から確かに値段は安めで腹にたまる店とか言われて結構人気だったのは知ってるんだが、いくらなんでもここまでになっているとは。こりゃクマキチさんが2号店どうかって言うのも納得だわ。つーか絶対そうした方がいいわ、客を分散させるためにも。


「さすがに正面から入るわけにいかんからな。裏口から入るか」

「イモの保存庫の方から入ればいいんじゃないです?」

「だな」


 そういうわけで獲物を狙う大蛇のごとく長い列を横切り、関係者しか使えない裏口から中に入る。あいにくと鍵を持ってないので【チェンジマテリアル】で壊して入った。もちろん修繕しておいたけど。

 そのまま、裏口近くにある材料の保存庫から中に入ると、一人の少女がせっせと材料が入った木箱を持って厨房に入れ、開いた木箱をこちらに持ってくるという作業をやっていた。


「おーい、リズ。お疲れ~」

「え……? あ、あわわわわわ! オーナー!」

「忙しそうだな。どれ、これを厨房に持ってけばいいのか」

「い、いや……あのそんなことをしていただくわけには」

「ついでだ、ついで」


 リズを見た新田も頷いて近くにあった木箱を持って厨房に続く通路をついてくる。その間リズはかなり気まずそうにしていたがしょうがない。いきなり4か月程度会わなかった雇い主がいきなり現れて自分の仕事を手伝っているのだから。


「お、オーナーは確か共和国の魔法学園にいるはずじゃ……!」

「どいつもこいつも……年末年始の長期休暇で帰ってきたんだ」

「あ、そういうことですか。それで視察に?」

「ああ。従業員がちゃんと働いてるかとか、むしろ働き過ぎになってないかとかを判断するために定期的に見回りしなきゃいけないんだ」


 とはいえ、本職が冒険者で依頼の最中だからそういうのは全部クマキチさんに任せて魔法学園宛に報告書とかを送ってもらっているんだけどな。みんな頑張ってるから業績も右肩上がり。シュベルツィアの民間企業の中では間違いなく一番稼いでるだろう。本当にあとでボーナス考えないとな。


 そう考えながら厨房に入ると、そこにはシンさんとリズベットさん、そしてバートンさん含め6人ほどが一心不乱に包丁を動かしていた。そして客席への通路からはフロアスタッフが数名忙しそうにローテーションでやってくる。そのたびに皿を皿洗いの人に渡して別の皿を持って行っている。


「うん、こりゃあ昼の営業の終了時間まで待った方がいいな」

「ですね」


 バートンさんやリズベットさん、レイジーもこちらに気付いて目を向けているが忙しくて話す余裕もないようだ。あと30分前後で昼の休憩になるはずだからそれまで待っていることにしよう。


「そういえばオーナー、今日って視察だけなんですか?」

「ああ。新田はついてくるって言うからさ」

「あ、そうだったんですか。お二人で現れるのでてっきり婚約報告とかも兼ねてるんかとばかり……」

「「はぁ!?」」


 俺たちが厨房のドアのところで再び驚きの声を上げると、厨房の全員が「え、そうじゃないの?」「なんだ違うんか」とか「チッ、面白くねぇ」というような顔をされてしまう。


 ……その考えはお前らもかよ。

 このこともあってか、俺は視察するときは一人でしようと心に決めるのだった。

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