#031.謎の存在
「……これは?」
確か、何かに飲まれるような感覚に陥っていた。自身の内部からこみ上げてくる力と、止まらない負の感情と強い意志。それに一瞬で意識を飲み込まれてから、次に気が付いたときには俺が攻めていた砦は跡形もなくなくなっている。それに、【超覚醒】もどういうわけか解除され”アルヴィン”の姿に戻っていた。
「そうか……変装していた時から【超覚醒】を使ってたのか」
そうだ、思い出した。調査に行った先の村で自爆テロをそしてからずっと【超覚醒】だったんだ。なぜか発動してなぜか消え去るとは……先天的だから拒否できないのもあるがどうにかならないものか……。
それにしても、これだけの破壊力を俺はどうやって生み出したんだ? 【マジックチェンジ】で高火力を出すような魔法を使ってもここまでひどいことにはならないだろう。ダメだ、思い出そうとしても頭が痛くなるだけ……。
「そうだ、魔力は!?」
以前【超覚醒】を使った後は魔力が空っぽだった。今回もそうだったら【フライ】なんて使っていられないので慌てて確認すると残り4分の1というところまで魔力が消費されていた。今回はギリギリ残ってくれていたようだ。これで真っ逆さまに墜落してロストしましたとかいう恥ずかしいことにならずにすんだわけだ。
しかし……これはあまりにもおかしい。何があった……。
「で、これだけの破壊力でもダメージカウンターのおかげでロストしている奴らは全員無傷なのか……すげーな」
砦が”あった場所”では、おそらく俺が無意識で使ったであろう何かの巻き添えになった敵兵がこぞってロスト状態になっていた。ロスト状態だと気絶して動けないらしいが、それでもダメージカウンターの結界はしっかりと装備者を守っていた。これもどういう仕組みになっているか非常に気になっている。
「とりあえず、【超覚醒】も解けたし一件落着にしておくか」
色々引っかかることもあるがそれはそれ、これはこれとしておかないと今後何もできまい。こういうことを知ってそうな人はしっているのでひとまずその場を離れることにした。
〇 〇 〇
その翌日、俺は昼休みが終わると一直線にとある場所へ向かった。4つの棟がある校舎の中央、その2階にある一室。ドアをノックすれば「どうぞ」という声が聞こえてくる。
「失礼します」
「……これはこれは。珍しい客も来るものだね」
相変わらず事務的なものとたくさんの本が置かれている学園長の執務室には、エルフ耳の女性が住んでいた。その正体はもちろんシトリーだ。
「どうしたのかね? いくら協力者とはいえ生徒を優遇するわけには教育者としてできかねるのだが……」
「いや、今日は知りたいことがあってきた。妖精族でご長寿なら何か知っているんじゃないかってな」
「お~、ご長寿とは言ってくれるじゃないか。私はまだ300年くらいしか生きてないというのに」
何にも特徴のない人間様から見たら300年も生きて未だに背の低い女性といういで立ちなのが異常なのだ。まず地球でそんなことがあろうものなら世界中の研究者がすっ飛んできて人体実験の嵐だろうなぁ。なんてことを思いながら近くの席に座ってシトリーがやってくるのを待つ。
「それで、っと……知りたいこととは?」
「そうだなぁ。ストレートに聞くと【超覚醒】って聞いたことあるか?」
「……どこでそれを?」
【超覚醒】という7文字を聞いた途端、シトリーの顔が一気にこわばっていく。空気からしてかなりまずいものだということはわかった。
「どこで、ってか俺自身が【超覚醒】を先天的に持ってるらしくてな」
「……なるほど。だから昨日はオースティン・レンジに違和感を感じたのか」
「やっぱ、これはまずいやつか」
「ああ……まだマシな方だけど」
はぁ~、かなり大きい溜息をついたシトリーはどこか諦めたかのように【超覚醒】のことを一つずつ解説しながら話し始めた。
根本にある【覚醒】【バーサーク】は知っているからいいとして、【超覚醒】はかなり特殊なものだった。予想通り根本にある2つのスキルを足して2で割ったような感じで感覚で概要はあっていた。
ただ、ここからが問題。このスキルは自身に憑依している精霊の本能が刺激されたときに発現される先天的な固有スキルのことだ。
「老いちょっと待て。ってこちはなんだ、俺の体には精霊が憑依してるってか!?」
「ああ。それも等級が低いやつじゃない。最低でも大精霊レベルだ」
「マジか……」
大精霊レベルってなるとウンディーネなどの属性の頂点に君臨するような精霊と同じレベルの力を持っているということになる。それで【超覚醒】を使った時のオーラが精霊の本能の姿を象るらしい。俺はかなり悪魔のような形だったからあるとすれば闇の精霊あたりか?
「いや、それはないんだ。精霊が憑依していればその属性の適正はB以上にならないとおかしい」
「俺の適正でB以上だと……無属性しかないな」
「無……? おかしい、無属性の大精霊というのはいないはずだ」
「おいおいおいおい……」
いないと言われた瞬間怖くなってきた。まさかとは思うがそこら辺の怨霊が俺に憑依してるとか言わないよな!? 幽霊とかアンデッドとかは怖いとは思わないがさすがに自分につかれていると話は違う。
「さすがにそれはないとは思う……うん、思う」
「しかし……精霊が正体なら精霊使いのシルクが見抜けそうではあるが」
「さすがに勇者レベルの精霊使いじゃないと大精霊を見るのは無理だ。私の精霊を使役している身だが大精霊なんて3回しか見たことない」
「いや結構見てる!?」
「昔はこれでも勇者のひと……おっとと、これ以上は言わないでおこう。ひとまず、結論から言うと君の体には大精霊レベルの精霊がいる。守護精霊か自分の意志でいるのかわからないが、とりあえずいる。そしてなんらかの刺激を与えることで【超覚醒】が発動する」
守護精霊……というと自身の身の回りの様々な危険を排除してもらうために自身に憑依してもらう精霊のことか。それにしては大精霊レベルはガチの過保護としかいいようがないわけだが……。そうだ、一番重要なことを聞くの忘れてた。
「で、解除方法ってわかる?」
「わからん! わかったら苦労しない!」
……ですよねー。




