【期間限定復活】クリスマスSSーPC部員のクリスマスー
これはまだ、大川たちがシュベルツィアで冒険者をやっていたころのお話――
12月24日、クリスマスイブ。
これほど、いやな響きはあるだろうか。いや、ないだろう。あんなリア充だけが楽しい、クソみたいな日はなくていい。
サンタさん? セント・ニコラスという聖職者がモデルになったおとぎ話じゃないか!! 大体、赤くなったのも、コカ・〇ーラの大衆宣伝のおかげだし!
そして、いやでもその日はやってくる……。
〇 〇 〇
「先輩、先輩ってば!! 起きてくださいよ!」
「いやだ……誰が……クリスマスなんて……!!!」
クリスマス当日、俺は自室のベッドに引きこもっていた。寒いというのもあるし、クリスマスが嫌という理由もあった。
「確かに、いやなクリスマスかもしれませんが、今日は祈祷の時雨も来てパーティーするんですよ?それにもう昼です! 私もおなか減ったので、なんか作ってくださいよ!」
「メリークルシミマス……メリークルシミマス……メリークリスマス!!!」
「ダメだこりゃ……」
呆れた声を出した新田は、いったん引いたかと思ったら、俺がかぶっていたかけ布団を取っ払ってしまった。
途端に、冷気が俺の周りにまとわりついてくる。寒い!! とても寒い!!! クソ、エルフの大森林は寒くなるとは聞いていたが、これ、床暖関係ないじゃん! せっかく作ったのに意味がねぇ!!
「とにかく、あったかい食べ物作ってください、おなかすきました」
「わかった……寒い……。エプロン取って……寒い」
俺はカメのような態勢になりながら、クローゼットの前まで這いずっていく。そこで、セーターを着こみ、その上にジャージを着て、エプロンをして、復活!!
「あー、リア充くたばればいいのになぁ!!!」
「そっちにスイッチ入ったんですね……」
廊下を歩きながらそんなことを言うと、新田が呆れた声で返してくる。だって、どうせいちゃこらするんだろぉ! 世の中のリア充はッ! 核爆弾作って、青〇通りに投下してぇぜ!
「さすがにそれは……!」
「某事務所も巻き込めるしなぁ!」
「それだけはやめてー!!」
くそっ、ここは異世界だからできないけど……!
それにしても、成り立ちこそ違えどこの世界にもクリスマスというのがあるということに俺は驚きを隠せなかった。
この世界のクリスマスは、神話の世界で、神々の戦争に勝利したとされる、戦と英知の神、アキレスが戦争に勝利して、人々に生を与えたとされる日……らしい。
ちなみに、プレゼントという儀式もこちらにはあるようで。俺も一応新田にアクセサリーを買っておいた。
台所に着いた俺は、適当にパーティー(祈祷の時雨の涙目破壊力に負けた)の準備をしながら、遅めの朝ごはんを作る。面倒くさかったので、スープにパン、ジャムというシンプルな構成だ。
それを2人で食べながら、この後の仕込みをどうするかを考える。この後……鳥の魔物を狩って丸焼きにして、魔物肉の生ハム原木を見にいって……。
「あれ? 赤坂とシルクはどうした?」
「ああ、あの2人ならさっきどっかに行きましたよ? シルクがお弁当を持って行ってましたから……おそらくは夜までもどってこないですね」
「あいつらもいい加減爆発すればいいものを」
そんなことをついつい口走ってしまう。だって、たかが矢から守ったくらいで……!
「先輩、あなたも結構リア充みたいなものですよ? 力もありますし、女の子に囲まれてませんか……?」
「ああ、うん。祈祷の時雨はノーカン。俺、ガキに興味ないから……」
そんなことを言った時、どこからか殺気を感じた。俺は立ち上がり辺りを見回すも、だれもいなかった。
今のはいったい……なんだったんだ?
〇 〇 〇
夜。家の前の広場には焚火がともされ、キャンプファイアーのようになる。そこには祈祷の時雨が持ってきた全長5mにもなる怪鳥が1羽、あぶられていた。
「どこで仕留めたんだよ……あれ……」
「え? 依頼で」
「……ごめん、聞いた俺が馬鹿だった」
そういえば、こいつら【エース】だし、このレベルの大きさじゃないと育ち盛りの食欲ですぐになくなってしまうではないか。怪鳥の討伐依頼を出した人あっぱれ。
俺はその火加減を見ながら、台所に戻ってラクレットチーズを真っ二つにする。そして、それをテーブルに持っていく。
「これは?」
「ラクレットチーズ。仕込み大変だったけど、魔法を使わずに作った……」
「先輩……軽く3か月くらい前からですか……?」
「ああ、そうだ」
それを聞くなり、新田は片目を閉じながら敬礼をしてきた。俺もそれを返す。片目はとじないけど。
祈祷の時雨は見たことがないのだろうか、物珍しそうにチーズを眺めている。
「そしてこれを出すということは、コレも出さないとな」
俺は自室から、とあるものを持ってくる。それを見た新田は、またガタリと立ち上がる。
「先輩ッ! それは……もしやッ!?」
「ラクレットオーブン」
それを聞いた瞬間、再び新田は敬礼をしてきた。うむ、よろしい。結構作るの大変だったんだぞ……! まあ【チェンジマテリアル】で何とかしたけど。
「こうやって、断面を…そして、溶けたところを……怪鳥の丸焼きの切り身に乗せて…」
言うまでもなく、それはそれは美味かった。お酒のような味のする飲み物(ノンアルコール、未成年でも飲める)ととても合う。魔物肉の生ハム原木も、祈祷の時雨によってどんどんそぎ落とされていく。
そして、俺は仕上げを投下する。仕上げとは、クリスマスケーキのことである。シュベルツィアの例の喫茶店のクッキーを研究して、作った土台に、生クリームをトッピングし、この世界にも存在したイチゴをのっけた白雪色のケーキ。
それを見るなり、今度は祈祷の時雨含め、全員が敬礼をしてきた。本当に大変だったよ、生クリーム造り。ちなみに、余った生クリームはバターになりました。
そのケーキを食べた後、「プレゼントくれ」攻撃をする祈祷の時雨に適当に買ってきたプレゼント(中身は王都のレストランの1日食べ放題券と砥石)を放り投げ、騒がしいのを排除する。
「あ、そうだ。先輩にこれあげようと思いまして」
俺が新田にプレゼントを渡そうとした瞬間、新田が俺に1つの包装された箱を差し出してきた。
「えと……日頃の感謝の気持ちです……」
「なるほど……とりあえず、サンキュ」
俺はその場で箱を開封してみる。すると、そこにはスカイブルーの2本の短剣があった。
「……これは?」
「見ての通り、短剣ですよ? その短剣には、自身の魔力を流すことで、質を強化したりすることができ、所有者の水属性魔法の適性を上げる効果があるという逸品です!」
「あ、そうなの……」
予想外のモノに少し戸惑ってしまう。くそ、これじゃあ俺が買ってきたアクセサリーが馬鹿みたいじゃないか……。
「すまん……ちっと、もう寝るわ……」
「あ、そうですか……おやすみです」
なんてな。寝るわけがなかろう。今、この場で渡したら場違いだが、この場で渡さなければ場違いではない!
あいつが寝てから、遠隔操作で送り付ければいいのだッ!
そして、新田が寝た午前0時50分。時は来た。
「いいかお掃除ロボ1号。作戦を開始する。本作戦は貴官にすべての命運がかかっている。くれぐれも失敗はしないように……!」
『……!!』
お掃除ロボ1号は「了解」というようなそぶりを見せる。ちなみに、こいつとは怪鳥の骨と残骸で契約を結んだ。
俺はお掃除ロボに新田の部屋に侵入してもらい、こっそりと枕元にアクセサリーの入った箱を置いてもらう。
それを遠隔で見守るためにライブ配信を行う相棒が、最後に部屋のドアを閉めたのを確認した俺は、リビングで大きな溜息をついた。
〇 〇 〇
翌日。俺は再び部屋に引きこもった。嫌だった。外に出るのが嫌だった。クリスマスだ、いやだ。
しかし、奴はやってくる。
「先輩! 今日こそ起きてください!!」
「いやだ! 寒いし、クリスマスだから嫌だ!」
「おなかすきましたし! なんか作ってください!」
それでも俺は布団の中にくるまって、籠城を続ける。寒いから、外に出るのは嫌だったらいやだ!
「ならば、こうするまでです!」
新田は、一瞬の隙をついて俺からかけ布団を没収する。
「何をする!! ……ん?」
「とーにーかーく! なんか作ってくださいよ!」
……そういって身を翻す新田の首には、赤い真珠がくっついたアクセサリーが光っていた。




