#024.オーシャンビューを火の海に 2
ルーディーとシフォンで会議を行ったその次の日から、俺たちは準備を開始した。まずは前回使ったパワードスーツの整備である。今回の作戦は再びパワードスーツを使う、というか作戦のキーになる。使うのは”ハルバード”だけだからそれを急ピッチでやってもらう。
「これがあの”筒付き”の整備所かい……おうわかった、これなら最優先でやってやらぁ」
「ありがとう」
「いやいや、今回の作戦にあたしたちも関われるだけでありがたいってもんだ。パワードスーツの整備をやらなかったらあたしたちはただのお荷物中隊だから」
いつもパワードスーツを置いている格納庫の主、第101戦術機構整備中隊のシルヴィアという中隊長は昔の職人気質の人だった。いくら総合学園とはいえ、整備士とか鍛冶屋を目指す若者まで教育するとは……かなり幅広い内容をこの学校は扱っているらしい。
「おうおめぇら! ”筒付き”の修理始めるぞぉ! 空いてる奴は手ぇ貸せぃ!」
「「「おお!」」
元気いっぱいやる気満タンというシルヴィアのよく響く声に格納庫内の数名が声を上げる。どうやらここでは”ハルバード”のことを”筒付き”と呼んでいるらしい。おそらく肩におかれた長距離砲と、盾と腕の間から露出する無反動砲の銃身が見えるからだろうな。
「それで、あの2機はどうする? ついでに修理しておくかい?」
「いいのか? やったことのない改造機3体もやるのは骨が折れるってもんだろ」
「てやんでぇ! うちらの戦場は剣と魔法が飛び交うところじゃなくて格納庫の中、配線一本でい! いつでもパワードスーツは万全にしとくから大船に乗った気でいろぉ」
「あ、ああ……よろしく頼む」
思わず「惚れちゃうだろうが!」とツッコミを入れたくなるようなことを言ってきたシルヴィアの屈託のない笑顔を受けて、俺は邪魔にならないようにそそくさと退散する。そのあとで入り口から見ていると、早くも”ハルバード”には数名の整備員がとりついて装甲を磨いたりなんだりしていた。説明書とかは新田が作ったからそんな難しいことは書いてないだろうが……とりあえず健闘を祈ることにしよう。
その足で直接第2中隊の作戦会議が行われている会場に急ぎ、その場で俺の小隊にも今回俺たちがすることも説明。それからもルーディー、シフォンとも連携を取り合うこと3日。すべての準備が完了した俺たちはとうとう反撃を開始した。
〇 〇 〇
作戦決行日当日、俺たちは今回のために作られた前線近くのベースゾーンから出撃する。今回の俺はかなりの重装備。パワードスーツ用のパイロットスーツに身を包み、さらにバズーカを1丁。後ろのリュックにはステフからもらってきたとあるものが10個ほど入っていて、いつもの短剣2本と【ソードビット】用の投げナイフも10本ほど持ってきている。
「しかし隊長、今回の我々の目標はただ”敵をおびき出す”ことだけでよろしいのでしょうか……」
「ああ。俺たちの目標はあくまでわざと敵に見つかり、わざと無茶に見える戦闘を開始させることだ。なんなら倒してもらっても構わないし、敵にどっちかを注目させればそれでいいんだ」
今日の反撃、実をいうと最もキーになるのが俺たち第2中隊、そして俺自身だ。今回、俺たちは半島に続く2つの海岸に沿うように前進。海沿いのベースゾーンを落とす……ようにみせかけて中央から第3大隊が半島に向けて前進。敵のチェルン岬にある砦までの道近くのベースゾーンをすべて撃破。その道をあとで俺の”ハルバード”が駆け抜け、流れでその砦を撃破、あとはできるようなら半島にも攻め入り、海軍戦力もそぎ落とすという感じだ。
「だから、俺たちはわざと目立つ。最後の戦斧を振り落とすことだけ考えればそれでいいのさ」
「確かに”ハルバード”そのまんまだ……」
「そーいうこと。途中で俺は離脱するからそれからは赤坂の指示に従え。所々で小規模の戦闘を起こしてりゃそれでいい」
あくまでも囮と遊撃のようなもんだからな。聖教戦線に比べたらかなり楽な仕事で新人は二人ともびっくりしている。今までが大規模攻勢だったり「行けるとこまで行くぞヒャッハー」みたいな感じだったからなぁ……こんな地味なことをするのも何か月ぶりかねぇ。
「先輩……この先に一つベースゾーンありますよ」
「お、ちょうどいい。まずは準備運動にあそこをやるか。じゃあ、表前衛3人で遊撃、後衛2が裏手から。ただし、今からあそこらへんに地雷おいてくるからうかつに突っこむなよ」
「「「了解」」」
ベースゾーンから一度海岸線の方面に向かい、ちょっと歩けば敵の最前線にあるベースゾーンが木々の間から見えてきた。とりあえずインスタントラーメン食べるかくらいの感覚で適当に決めた作戦を手っ取り早く隊員たちに話して自分は【インビジブル】と【フライ】を使って基地の中へ潜入。素早く土属性の初級魔法で地面を掘り起こし、ステフからもらった地雷を2つ仕掛けていく。ついでに、2人一組で見張りをしている奴らがいたので、片方にデコピンを入れてみると「お前がやっただろ」「いややってない」の喧嘩を始めさせるいたずらもやってきた。
「オッケー、入り口にいればあいつら踏み抜くと思うぞ」
「了解、それじゃあ行きます」
「新田、俺たちは裏手だ」
「わかってますよ」
すぐに隊員たちが待っているポイントに戻って作戦決行。赤坂たちがベースゾーンの真正面から踊り出すのと、俺たちが裏手に回り込んだのはほぼ同時だった。大声で言い争っていた2人組の見張りはいったん休戦協定を結んだらしく、裏手まで聞こえていた喧嘩を止めたらしく静かになった。
「そういえば、ここの守備ってどれくらいなんですか?」
「多分1~2個小隊だろ。いくら3個大隊を投入している可能性があっても1つのベースゾーンには2個、1個が普通だからな」
素早く慎重にリュックをおろしてバズーカの標準機を起こして弾を数発装填していく。その間に敵さんは馬鹿正直に正面の広場に集結しらしく、こちら側には人の気配がなくなったの裏口から基地内に侵入。途端に敵さんの誰かがテイムしているであろう番犬君を一捻りして黙らせて先を急いていると、広場の方面から大きな爆発音と何名かの悲鳴が聞こえた。おそらく赤坂たちを襲おうとしたときに地雷を踏み抜いたんだろう。1個にしては妙に爆発音が大きいから2つ同時に踏み抜いたな?
「よし、俺たちも参戦だ!」
「ええ、やりましょう!」
裏口から構造物を半周してとうとう正面の広場に到達すると、地雷を埋めたところにはさっき俺がいたずらをした2人組が。地雷を踏み抜いて仲良くロスとしてやがる。あの2人以外には……騎士が1人、魔導士が2人か。
「【ソードビット】!」
「【紫電一閃】ッ!」
「【ファイアーランス】!」
人数差の不利を悟った敵の3人は、そろりそろりと後退を開始。逃げられたら困るので素早く俺と新田、アスタロトで撃破。しっかりとロスト状態に持って行く。どうやらこれで全員だったようであたりに人の気配はない。
「よし、次行くぞ」
「ですね」
「だね~。あ、しまった!」
ロスト状態になった騎士の鎧をつんつんしていたアスタロトがいきなり大声をあげてから顔を真っ青にしていく。なんだ、どうした?
「私、とっさに【紫電一閃】使っちゃった……!」
「ん、なんかまずいのか?」
「使うと……少し動けないんだよねぇ。あはは、どうしよう」
「「「ドアホ!!!」」」
結局この後、アスタロトは俺と組んで【フライ】で先行して敵のベースゾーンに工作といたずらをすることに。こんな調子でやっていけるのかという赤坂の予想はむなしく外れてむしろペースも上がっていく。
そしてちょうど4つ目のベースゾーンを撃破したあたりで俺は離脱して仕上げに入る。今回は各方面で進軍している場所が遠いからどこでどうなっているかわからないが……順調に行っていること願うばかりだ。




