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#021.機械化兵の泥仕合 2

 無事に慣れないパワードスーツの操作をこなし転移魔法陣をくぐった俺は、基地を出たところで集結している101機構隊の輪に加わっていく。既に3小隊・15機が隊列を組み終わっているから、俺が行くべきは残っている2機の所だろう。後ろを振り返れば、新田の”エンシェリオン”と赤坂の”フォートレス”もしっかりついてきた。


『よし、全機集まったな。出撃だ!』

『『『了解』』』


 俺たちが並んでいる一番前のパワードスーツから発せられたレノンの声を聞いた各小隊が再び自身の操る巨人を前に動かし始める。どうやら小隊ごとに肩に番号が振ってあるらしく、前方のマイン機には虎の紋章と1の番号が描かれている。


『先輩、赤坂。とりあえず【エアロフラスト】発動させて。やり方は紙に書かれている通りね』

『わかった』


 そうか。このパワードスーツは地面から数十センチほど機体を浮かせて移動するホバー走法を取る。もう格納庫内じゃないから別にホバーの装置を起動してもいいのか。さっき新田に渡された説明書という名のただの紙を広げてやり方を見てみると、頭上にあるスイッチの一番左のスイッチを押して、あとは魔力をスティックに流しておけばいいだけらしい。


 試しに一番左のスイッチをONにしてから、スティックに魔力を流していくと、一瞬機体がガクッと揺れ、それから徐々に浮遊感が増していく。カメラを下に向けてみれば確かに足が地面から離れ、足の横にあるスラスターから【エアロフラスト】で排出されている空気が白煙を吐きながら噴射されている。これで右のペダルを踏みこめば前進、左を踏めば後退する。なるほどやり方オールオッケー。


『な、なんだそれは!?』

『ほえー……パワードスーツが飛んでるとこなんか初めて見た』


 前方の2機、レノン機とマイン機からはそれぞれ驚愕と感嘆の声が聞こえてくる。確かパワードスーツは特殊な素材を使っていて、魔力を流しながら話せば自動的に外部の拡声器のようなところにつながるらしいのだ。ちなみにこっちの3機にはプラスで無線通信ができるようになっている。まさにハイテクとはこのことだろう。


『とりあえず先を急ぎましょう!』

『え、ええ。わかったわ』


 俺たちの装備に上官2名はドン引きしていたが、レノンはすぐに落ち着きを取り戻して先行した3部隊を追い始めた。その次に動揺気味で未だに「まさか、こんなのは夢だ……」という意味不明な独り言をブツブツと呟くマインが続き、こちらは赤坂・新田・俺の順番で追随する。というのも、俺の機体は近接装備を持たない長距離からの射撃を得意とするため、そして”エンシェリオン”は高機動型で装甲をそれなりに削っているから、先頭は盾役の”フォートレス”が適任なのだ。


「あ、そうだ。新田、このディスプレイどうやってつけるんだ?」

『あ~、そういえばこっちに来てからつけるとか言ってましたっけ。ディスプレイの横にスイッチとコードみたいなのがありますよね? そこに左のスティックの根元に出てるケーブルみたいなのを繋いでください。長さはかなりあるので万が一にも切れることはありませんよ』

「りょーかい」


 移動中に片方の操縦桿……スティックから手を放すのには結構な抵抗があったが、仕方なく右のスティックから手を放して左のスティックの下にあったカバーを外してコードを伸ばしてからディスプレイ横の差込口にセット。確かにケーブルみたいだが、よくよくみたらそれは魔導回廊というパワードスーツの神経と同じものだ。ということは、このスティックに流している魔力をディスプレイにもわけているのか。


「繋げたぞ」

『あとは上にあるスイッチをオンにするだけです』

「ほい、スイッチオン、と」


 そこら辺の手作りラジオのスイッチおんなじ感じのスイッチをONに持っていくと、中央に置かれた液晶のディスプレイに光がともり、中央のモニターには一つの円が現れていた。おそらくこれが標準機なんだろう。今のところ真正面からびくともしてないところからすると、今の技術だと一点を標準にするだけで精一杯なんだろう。


 ディスプレイを見てみると、機体のシルエットが描かれていて、各砲門の残弾数が表示されていた。出撃前に確認はしていたが肩の4門は各5発の計20発、手首のシールド一体の無反動砲はどういうわけか片側40発確保されている。確か外付けでマガジンもあるとか言ってたな。その証拠にコマンドにしっかりマガジン入れ替えの表示がある。


『よし、そろそろ作戦区域に突入するわよ。全員今のうちに剣は抜いておきなさい!』

『『『了解』』』


 先頭のレノン機が腰の鞘から剣を引き抜いて突撃態勢を取る。それに続いて俺以外の僚機は全員獲物を引き抜いていく。……あのーすいません、俺っち一切の近接用装備持ってないんすけど。


『はぁ!? 戦場に剣も持たず何しに来てるの!?』

『アホなんですか!? ロストしたいなら一人で敵の艦隊にでも突っこんできてください!』


 いや、あの……俺の武器は大砲……。え? そんなのありえないから嘘つくのやめろ? ……ああ、もういいよ。


  〇 〇 〇


 それから5分後、列島戦線色の深い青に塗装された敵のパワードスーツ計30機と情報連合のパワードスーツ計23機が衝突し始めた。こちらの予想通り平原でのぶつかり合いになったわけだが、敵は計6小隊をこの戦いに出しており、こちらより7機ほど多い。レノンが言うに「前前回で中破させたのを直して投入してきた」とのこと。ぶっちゃけ同じ規模と想定していたから真っ向勝負を挑んだんだが……端的に言うと分が悪い。パワードスーツ同士の戦いは現実の歩兵騎士と同じく1対1の戦いをする。要するに巨人になって歩兵と同じことをするのだ。


『3機そっち行ったぞ!』

『ダメだ、剣が破壊された! いったん離脱する!』

『逃がすかぁぁぁ!』


 少し離れたところから見ていても完全に泥仕合だった。お互い剣を打ち付けあい、防御が間に合わなければ肩などの関節を切り捨てられて一気にコックピットに一撃が入る。ただ、お互いの性能が同じなだけに何合も何合も剣を交えている。これを見るに数的有利がかなり響きそうだ。


「まあ、それは今までの話だけどな」


 王国の援助でも完璧な武装にならなかったが、機種が最新で高性能の3機でこの戦局は一気にひっくりかえせると思う。現に”フォートレス”は大盾で守るかに見せて思い切り前進してバッシュを決めてから一気に大剣で斬り捨てて1機屠っている。


「よ~し、まずは標準を合わせまして……」


 敵味方入り乱れて戦っている前線から100m離れたところでマイン機と撃ち合っている1機に標準を合わせて、右側のスティックの前側にあるボタンのうち、上のををぎゅっと押し込むと右側の1門が火を噴いた。目で追えない速さで撃ち出された砲弾は標準の中にいる敵機の肩に直撃。かなりの威力らしく、敵機は左肩を破壊されてなおバランスを崩してしまい、そこをマイン機が仕留めていく。


「ほぉ……これはなかなかの威力だな」


 威力はすごい。ただ、文句があるとすれば標準に合わせるために機体が動かないといけないこと、そして肩の砲門を撃つときは反動対策に一度前進用のスラスターを最大にしなければいけないこと。もちろん手動でだ。システムとか作れてないからしょうがないんだが。


『筒付き、今のはなんなのですか!?』

「ん? 自分の獲物取られたくなかったか? それは失礼失礼」

『いえ、それはいいのです。ですが、なんなのですか今の強烈な攻撃は! あなたは剣をもって……まさか、その機体は遠距離攻撃ができる!?』

「いや、だからさっきからそう言ってるでしょ」


 こいつ……聞いてなかったのか。まあ今までのパワードスーツで飛び道具が使えた例は一切ないからなぁ。信じないのも無理はないんだが。再び驚きの反動でブツブツと独り言を言い始めるマインをよそに俺は次のポイントへ移動。今度は赤坂と打ち合っている機体だ。


「よっ」


 標準に入れるためにしゃがんだりなんだりしてから再び右肩の砲門の一発を使う。今度は敵機の足に直撃して右足を吹っ飛ばす。命中率はいい感じだ。突如バランスを崩して倒れていく機体に赤坂がとどめを刺していく。


「これ、自分から倒しに行くんじゃなくて敵と打ち合っているのを狙った方が早いな」


 そう感じた俺はスラスターを噴かせて次のポイントに向かう。まだまだ戦端は切り開かれたばかりだ。


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