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#019.祈祷の時雨再び

 パワードスーツが届いた翌日。今日も俺たちは仮想戦争という名の実技訓練に参加せず、ルーツのとある広場でとある人物を待っていた。つい何日か前に手紙が届いて今日の午後あたりに到着すると知っていたから迎えに来てやったのだ。ちなみにだがレイとアスタロトに関しては今日だけシフォンの小隊に参戦している。


「もうちょっとで15時ですねぇ」

「午後って言ってたから17時くらいまでは待つか。ここ数日は実技訓練に行ってないから暇だしなぁ~」

「私は暇じゃないですよ。この教科書にまだ覚えてなかった中級魔法があるのでそれを習得しておかないと今度の定期試験で怪しいかも」

「俺たち、魔法に関してはほとんど独学だからな」


 冒険者上がりだからか、この学校の教科書になっている専門書とは違うやり方や使い方をしていることが多い。なんせ軍隊みたいに一人一役ができるほどの大人数ではなく、一人何役も背負って少人数で叩くのが冒険者だからな。シュベルツィアギルドでも5人以上のパーティーを組んでいるのはたったの2組だけ。俺たちに至っては3人なので一人2役くらい兼ねないとダメなのだ。

 それにしてもジャン負けで飲み物買いに行ってる赤坂は遅いなぁ。


「ここは平和ですねぇ。学園の午後は仮想戦争、この城壁を超えてちょっと行けば自爆テロが横行する共和国ですもん」

「まあな。未だに尻尾の毛先一本も掴めていないし、例え通行証を持ってても通行は厳しく制限されている。だけどこの噴水広場は優雅な時間が流れてるもんなぁ。ただ……」

「ただ?」

「デジタルが後ろにいなければな」


 俺がそんなことを言った途端、噴水の水の中から白衣を着たマッドサイエンティストエルフ様が現れる。突然のことに新田は軽く「ヒッ」という悲鳴を上げ、広場を通りかかっていた人々は全員こっちに視線を向けてくる。ったく、お化けみたいなことしやがって。


「いや~、よくわかったね。【インビジブル】を使ったというのに」

「生憎と2回も不意打ちは食らいたくない性格でな。まーたくだらないもの開発して実験してたんだろ」

「くだらないとはなんという失礼。ただ、この前も【インビジブル】の説明を引き受けてくれた君だ、教えてやろう」

「どーせ俺が言った【インビジブル】とほぼ同様の効果を及ぼす飲み薬と、水を弾く特殊なヴェールみたいなもん作ったから自慢に来たんだろ」


 若干当てずっぽうだったが図星だったようで、顔だけはいいマッドサイエンティストエルフさんは「どうしてわかった!?」という顔をしてからがっくり肩を落として学園へ帰っていった。あいつはいったい何がやりたかったんだ……。


「せ、先輩、今のは……?」

「情報連合所属のマッドサイエンティストだ」


 ここ数週間ではっきりわかった。あいつ、腕と発想力はいいけど何をどうしても人体に被害を及ぼしかねんことばっかりしている生粋のマッドサイエンティストだ……。興味の赴くままに何事も進めていくやつがこれほどまでに恐ろしいとは思わなかった……。


「あっ、赤坂……”たち”が来ましたよ?」

「たち?」


 改めて噴水の淵の所に座ろうとしていると、新田が一つの通りを指示してそんなことを言っている。目を向けてみると、なぜかかなりの荷物を持たされた赤坂と俺たちが待っていた馬車が並走して走ってきていた。


  〇 〇 〇


「みんな久しぶり~」

「そうだね~!」


 馬車から降りてきた人間と新田がお互い抱き合ってキャッキャし始めたので何かしらの被害に遭ったであろう赤坂を呼んで事情を聴くことに。あと新田たちうるせぇ。2か月ぶりの再会でうれしいのはわかるが公然の前だから騒がないで頂きたい。


「何があったんだよ……」

「それが、近くの市場に買いに行く途中で偶然シルクたちと会いまして……そのまま学園(あっち)での日用品を買うのに付き合わされて……こんなことになりました」

「ご苦労……」


 俺たちの間では絶対に女性の買い物について行ったら痛い目に遭うという共通認識がある。シュベルツィアに居るときに何度ひどい目にあったことか……。たとえ女子力があまりない新田との買い物でさえ俺は迎えに行くだけにしようと心に誓ったあの日を今まで忘れたことがない。


「ししょ~、ひっさしぶりー!」

「おっ、なんだステフか。また少し重くなった?」

「あー!! レディーにそういうこと言わない!」

「お前らの年の場合成長してるって意味だかんな!?」


 コソコソと赤坂と話していると、後ろから元気が取り柄のステフが抱きついてきた。こいつにバーニーとサリーを加えた3つ子で結成されたが”祈祷の時雨”というシュベルツィアギルド内でトップの実力を誇るパーティーだ。12,3歳くらいだが勇者病という奇病のせいでそこら辺のマッチョ以上の筋力持つため、ロりのくせに重戦車なのだ。

 で、駆け出しくらいの時に喧嘩を売られたのでフルボッコにしたら”ししょー”と呼ばれて慕われ始めたわけだが……おい、流石にもう降りてくれ、さっきのタックルのおかげで腰がやばいんじゃ。


「いや~、たまたまユイイチを見かけたから日用品の買い出しに来てもらっちゃってさ~。助かったよー」

「馬車に詰め込めばよかっただろ」

「いや~、荷台には爆薬とか爆薬とか爆薬とかで埋まってるからさ~。変なのおけないんだよね」

「そうか、お前もか……」


 すっかり忘れていた。俺がステフにバズーカを与え、それから地雷とか色々与えていたからとうとう自分で作るようになってしまっていたんだった……聞けば対魔物用にいくらあってもいいから地雷をいっぱい作っていたんだとか。そのせいであんまり変な衝撃を与えられなくてスリリングな旅だったらしい。爆薬の塊がお供の旅とか絶対にやりたくねぇ。


「そうそう。例の事件の調査も一応進めてきたからあとで詳しいことは話すよー」

「お、おう。大丈夫だったのか?」

「うん、なんとかね。ただここに入るまでにギルドからの依頼書とかうんたらで面倒くさかったけどねー」

「そりゃそうだ」


 バーニーとサリー、そして護衛とまとめ役という形でつけていたシルクとも軽く話してから魔法学園へ戻る。手続き上では、1年の総合学科のSクラスへ編入という扱いになっているらしい。シルクは1年魔法科学科のBクラスだ。クラス割的には、全員が情報連合所属ということになるわけだ。


「そういえばシルクは赤坂ともっと話しておかなくていいのか?」

「大丈夫ですよ! あとでユイイチ様の部屋に押しかけてこの2か月会えなかった悲しみをしっかり癒しますから!」

「oh……がんばれ」

「ハハハ……」


 シュベルツィアに居るころから赤坂にヤンデレを見せているシルクさんは2か月離れていても未だそっちの面は解消されてないようで、部屋に押しかけて2か月間一切会えなかった分引っ付かれるのが確定した赤坂は乾いた笑いしか出ないようだ。これに関しては他人事だから楽観しておくことにしよう。いくらリーダー格とはいえパーティー内の恋愛事情に首を突っ込むほど野暮な奴ではない。


「シルクがユイイチの部屋に行くなら私たちはししょーの部屋にでも行きましょうか」

「バーニー、お前何言ってるの?」

「え? だってししょーの部屋広いんでしょ? 使用人の部屋もあるんだったら私たちはそこで寝ればいいだけだし」

「What!?」

「そ・れ・に! こっちの報告も聞いてもらわないと困るもん。せっかく情報収集してきたんだから」


 ちくしょう。依頼の話をされたら俺が逃げれ内のをわかって……! いや、待てよ? よく考えろ大川心斗、それは今日じゃなくてもいいんだ。だから別に今じゃなくてもいいんだ!


「きょ、今日は疲れているから明日の朝聞くわ……新田、あいつら頼んだ」

「え、嫌です。今日はコルニちゃんがお泊りに来るので」

「……なんで大隊長が来るん?」

「なんか仲良くなって意気投合して。セレッサも来ますよ」


 よしわかった、かくなる上は是非もなし! 


  〇 〇 〇


 その日の夕方、俺は自分の部屋の窓から【フライ】を使って逃走して、とある部屋までやってきた。俺たちが使っているSクラス専用の部屋と全く同じ間取りだが、王国特産品の高級品が所々に見られる部屋は、なんと王国の王太子様が使われている部屋だ。


「なんだオオカワ、急に泊めてくれとは。まあ今日はセレッサがいないからいいけど」

「いや~、助かったわ王太子サマ。あいつらを構ったら死ぬからなぁ」

「様がわざとらしいし普通に呼び捨てでよい」

「心の友よ! この恩はあとで頬ずりとかで返すわ」

「気持ち悪いからやめろ!!」


 その日の夜はシフォンと一緒にバカをしながら楽しく過ごしたが……代わりに翌日、新田に一切口をきいてもらえなかった。

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