#017.深まる溝を埋めるべく
「今回はかなり疲れたぁ~」
「どっかの隊長が色々連れまわしましたからねぇ」
「はっはっは、その分あとでなんか一つ奢ってやるよ」
バラバラになっていた俺たちは、最終的に合流して最初に来たベースゾーンまで戻ってきた。アスタロトと新田はわざとらしく「疲れた」と言って俺の財布から何か飲み物でも買おうという算段らしいのであらかじめ手は打っておく。ったく、俺の財布情勢が最近はいいからだぞ?
「わかってますよ~」
「本当かねぇ」
「もちろん後ろの二人にもですよ? この後報告書書かせるんですよね?」
いや、だってさ……それ全部やるとさ。お前ら隊員とうとう何もやらねぇじゃん。部隊内でしっかりと役割分担をさせたいのだよ、うん。
……まあ本当のことを言うと書類関係と人事関係は面倒くさいから一切合切やりたくないからなんだけど。
「そういえば赤坂とレイ、遅くね?」
「さっきベースゾーンの門前でなんか話してるの見ましたよ~。そのうち帰ってくると思いますから先行きましょ!」
赤坂が一緒なら問題ないかぁ……そう思いながら転移魔法陣をくぐり首都まで戻って購買に直行。最近はこれが日課になりつつある。おかげで購買の会員カードがノーマルからブロンズにランクアップしてしまった。下士官でブロンズ持ってるのなんて俺くらいって知り合いの小隊長が言ってた。
「あっ、今日はこれ5本余ってる!」
「どれどれ? あ、本当だ!
アスタロトと新田がジュースコーナーの一角で騒いでるので行ってみれば、あおぶどうジュースなるものが瓶で売られていた。なんとその値段700ゴルド。周りの飲料水やジュース類が300ごルドもないくらいだからかなり高い。おい、まさか……。
「じゃあ、私はこれで!}
「私もこれで!」
「俺を破産させる気か!?」
なぜだ、なぜ戦いの後のジュースごときで3500ゴルドも散財せねばならん! 地球で言った5000円規模だぞ! ……って言ってもどうせごり推されることは目に見えているので棚にあった5本全部をもって会計に持っていく。
「隊長太っ腹~」
「覚えてろ……今度存分にしごいてやるからな」
今後こいつらにはもう少し厳しくやっていこうと思いながら3500ゴルド出してジュースを購入。ブロンズ会員のカードのポイントと店番してたおっちゃんの苦笑をお釣りとして手に入れて購買を出てアスタロトと新田に手渡しておく。はぁ……こりゃいよいよシフォンのとこに何かいいモン食いに押しかけても文句は言われなさそうだな。
なんてことを思いながら自分のジュースを飲んでいると、こっちに赤坂とレイが歩いてきているのが見えた。何を話してたらこんなに遅くなるのかはわからんが、とりあえずジュースが冷えているときに帰ってくるとはナイスタイミング。
「おーう、遅かったな」
「ええ、ちょっといろいろありまして」
赤坂がレイの方を一瞬だけ見て”いろいろ”と言っているからそういうことだろう。ふーん……あのメンタルクソ豆腐の赤坂が人の悩み聞けるようになったとはねぇ。ここ数年来の付き合いだけどどこか感慨深いものがあるな。
「黙れクソ先……ほとんどあんたのせいだろ」
「はっはっは。ほれ、このジュースで手をうとうじゃないか」
「あ、あざす。それと……ここから数キロ先の宿場町でまた自爆テロあったらしいです」
「そうか。りょーかい」
俺から受け取ったジュースを片手に近くのベンチに歩いて行くときにこっそり耳元で大事なことを言って行った。奇妙だな、ここ最近は首都近くの村を狙っていた傾向だが、今回はこの近くと……?
何か法則性があるのかもうちょっと様子を見ないといけなさそうだ。
「あ、あの……」
「ああ、お前もお疲れ。ほれ、ジュース飲むだろ?」
「いえ……ちょっと……」
「飲まんの? 飲まないんだったらこれあいつらの誰かに放り投げっぞ?」
とうとう赤坂も横からいなくなってしまったレイはとても気まずそうに「で、では……」と言いながら遠慮がちにジュースを受け取った。これはあれだな……勝手にと微出していったの引きずってやがるな。うん、確かにあれはアホだと思ったけど。
「その……隊長はなんで、僕を助けたんですか?」
「はぁ?」
「僕は隊長の指示に背きました。それで勝手に出て行って、勝手に攻撃して戦端を切り開いて……挙句あのまま隊長たちが現れなかったら僕はロストさせられてました」
なるほど、要するに部隊内で命令無視をして勝手にどっか行った奴なんて普通は切り捨てるのが常識なのになんで自分を助けに来たのか、それが理解できないわけだ。戦場での命令無視というものは通常であれば上官の経歴には傷がつかない。それに命令を無視した時点で監督責任はなくなる。だから普通は見捨てるのだが……。
「そもそも俺はなんも指示なんぞ出してないぞ?」
「……は?」
今回に関してはなんの指示も作戦も命令も出していない。ただ「作戦はない」としか言ってないし……ってか、俺はここに来てから命令を誰かに出す、というkとは一切ない。命令を受けたことならあってもしたことはないんだ。
「そ、それはどういうことで……」
「あー、要するにだな。そもそも命令なんてないもんだから命令違反なんてもんは元から一切成立しないわけで~」
「は、はぁ」
命令違反になる前提として、上官からなんらかの指示・命令が出ていないと成り立たない。で、今回は「適当にやればなんとかなるっしょ」みたいなことでとりあえず出撃したもんだから俺からはなんの指示もない。唯一あるとすれば目標を撃破せよくらい。だけど、レイは進んで敵を討ちに行ったからその点でも命令違反は起こしてない。
「あえて言うことがあるとすれば赤坂たちの運動量が多くなったくらいだろ」
「そ、それでは……」
「ああ、そもそも論でお咎めをなし。ってか、何かしら処罰することが一切ない。むしろやったら俺が悪者になるわ」
残っていたあおぶどうジュースを飲み干して瓶を回収箱に入れて帰る準備を整えておく。ちょうどアスタロトと新田も飲み終わって寮に帰ろうとしているところらしいし、もう夜だ。さっさと夜飯を作っておきたいし。
「赤坂~、そろそろ帰るぞ」
「わかってますよ」
ベンチに座って黙ってこっちを見ていた赤坂も立ち上がって残りを一気飲みをして近くの回収箱に持っていく。確か明日は休日だったな……理事長に行って調査のために学園の外に出てみるのもいいかもしれない。学園内ではあまり手がかりを掴めそうにない。
「おっし、じゃあ今日はこの辺で解散。いい休日を」
「「「はい!」」」
良い休日をって言っても赤坂と新田は俺と一緒に調査だけどな。もちろん依頼を達成するまでは冒険者に休みというものは存在しない。成功すれば給料もいいけどブラックよりもさらにブラックというダークマター企業が冒険者ってもので、ハイリスクハイリターンの世界だ。明日も頑張って仕事しますか……。
「あ、あの……!」
赤坂と新田を引き連れて帰ろうとすると、再びレイに呼び止められてしまった。顔はまだ不安そうで、未だにさっきのことを引きずってしまっているようだ。はぁ……俺もフォローするのは得意な方じゃないからなぁ……どうしたらいいことやら。
「まあ、うん。なんか罪滅ぼししたいと思ってんならあとでアスタロトになんか奢っておけ。それでいいんじゃねーの?」
「は、はい!」
なんも思いつかなかったので適当なことを言ってみたら、少し戸惑いながらも光を得たような笑みを浮かべてレイは去っていった。これで少しは罪悪感みたいなものが消えればいいけどなぁ。
「先輩、ほんっとうにこういう手のトラブルのフォロー苦手ですよねぇ」
「そもそも仲間うちでこんなこと起こらないし、未経験なんだからしょうがねーだろ。陰キャボッチ非リアなめんな」
「そこまで言ってないんですけど……」
「でも今回の場合は、これでよかったんじゃないですか?」
そんなことを話しながらこっちも量の自分の部屋へ帰る。赤坂はこのあと報告書の作成があるし、新田はセレッサとお茶会をするらしい。俺は俺で夕飯作ってからデジタルのとこで魔法銃の改良だ。
少しトラブルはあったものの、相変わらず有意義な一日を過ごせた。
ちなみに後から聞いた話だが、レイはルーツで一番美味しいと評判のスイーツ店に3時間も並ばされた挙句、2000ゴルドのケーキセットを買わされたという。
うん、どんまい。




