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#016.巨人の腕は届かない 後編

 【フライ】と【インビジブル】を使った俺は、上空から飛び出していったレイを追いかけてみる。作戦があり、かつ一人でできると言うんだからさぞいいものなんだろう。

 俺の予想だと、ここから西に少し行ったところにある岩場が多い地形に誘い込み、そこでパワードスーツの機動性を失わせて、3個小隊をバラバラにして各個撃破するという感じだ。だからそこに新田たちを先回りさせておいたんだが。


「おっ、いたいた」


 数分間基地の周りを飛んでいると、木の陰に隠れて何かコソコソやっているレイを発見。ベースゾーンから見て東側だから、西にある岩場とは正反対の方向だけど、何をどうするんだか。しばらく見ていれば、また動き出して近くの木の陰に隠れて前方の様子を見る。

 そんな調子で謎行動を続けること30分。とうとう近くまでパワードスーツの駆動音と十数人がこちらにやってくる足音を聞くことができた。


「さてさて、さっきよりもさらに東側なんだが……どうするのかねぇ」


 少しその場を離れて偵察に行ってみると、そこには3個小隊規模の歩兵とパワードスーツが3機ほどの集団がこちらのいたベースゾーンに向かって進軍をしていた。相変わらず情報通りだ。どっから調べてきているのやら。

 パワードスーツの種類は情報連合でも使われているやつ……俺たちが所有している奴の1世代前のやつか。


「【スラッシュ】!」

「は!?」


 ふと下を見てみると、近くの木陰からレイがパワードスーツの腱めがけて【スラッシュ】を放っていて…思わずアホみたいな声を出してしまった。もちろん攻撃は逸れて2機目の装甲に激突。派手な音を鳴らしたもんだから敵さんもすぐに気が付いて辺りを探すようになってしまった。


 おいおい。まさか作戦って、パワードスーツが入ってこれそうにない森の中からひたすら【スラッシュ】でパワードスーツの腱を切って行動不能にして、あわよくばあの3個小隊もそれで倒そうとする……ってわけか。



 アホや。



「はぁ……」


 とりあえずこのまんまだとレイは確実にロストさせられるだろうなぁ……。でも、ぶっちゃけここで迎え撃つのはありかもしれない。ちょっと環境破壊にはなるが、あいつらを呼び戻してとあることをしてもらえば余裕か。


 そうと決まれば、持っててよかった信号弾のピンを抜いて上空へ放り投げて赤坂たちを呼び戻す。信号弾の色は青色……俺たちの間では隠密という意味。つまりは”バレないように接近せよ”ってことだ。

 あいつらはどうせ5分くらいすれば来ると思うから、それまではレイのフォローがてら魔法銃の試し撃ちでもやってみることにしよう。改良されたとはいえ、あのマッドサイエンティストのことだから変な機能とかついてないか心配だ。デジタルは「ミラーの角度を調整して、キミが言ってた標準機をつけただけ!」って言ってるけど前科があるから信用ならん。


「【スラッシュ】!」

「どこだ! どこからだ!」

『今のところ俺たちに被害はない、情報連合のバカがやけくそでやってきているだけだろ』


 パワードスーツの隊長機のパイロットさんよ、本当にその通り。うちの部隊の真面目バカ騎士が勝手に勝算があると思ってやってるだけ。本当に困らせてすいません!


 監督不行き届きからの謝罪とともに持ってきていた魔法銃を取り出しておく。初購入時とあまり見た目は変わらない。フロントサイトという標準機がついただけだが、内部にある魔力を反射させる特殊な素材の角度がミリ単位で変わっている。多分だがこれである程度真っすぐ飛ぶんじゃないだろうか、だそうだ。


「そうなればいいけどなぁ」


 ひとまず魔法銃に魔力を流してから目の高さまでもっていき、フロントサイトを基準に狙いを定めていく。……待て、ここからじゃどう考えても遠いわ。高度を下げよう。


「おい、いたぞ!」

「あそこだ、あそこの木陰に一人いたぞ!」

「チッ……あいつもうバレたか」


 もうちょっと粘ってもらえると助かったんだけどなぁ……なんて思いながら狙いを定めて引き金を引いてみる。すると、かなり威力がある白いエネルギー弾が発射されて、敵の一人の胴を撃ちぬいてロスト状態に持って行った。


「うっわぁ……」


 これ、かなり威力高いな。ちなみに今はMAXまで魔力を溜めて撃ち込んでみた。発射までに20秒ほどかかったから威力最大で撃つときは一撃で決めた時以外はなしだな。


「一人やられた!? もう一人いるぞ!」

「いや、姿が見えねぇ! どこからやってきやがった!」


 前回同様、こっちは【インビジブル】を展開しているから敵味方からは視認できない。それをいいことに魔力を少しずつ装填して連射していく。手がブレているのかわからないが、まだまだ標準の設定は甘いみたいで右に左にと着弾点が少しズレてしまっている。帰ったらまた調整してみよう。


「ぐあっ……ダメージはそれなりだが見えないとなると!」

「クソ! パワードスーツの後ろまでいったん下がるぞ! あの程度ならパワードスーツの装甲は破れないだろ!」


 こちらが魔力を1割ほど消費させた頃合いで、敵さんは素直にパワードスーツの庇護下へと逃げ帰っていく。とりあえず追い返すことには成功。……あとは赤坂たちが来てくれればいいんだが。

 

 ……おっと、噂をすればパワードスーツが通っていた道の挟んだ向かいの森に赤坂たちの姿を発見。ナイスタイミングだ。

 作戦をいうために、まずは【インビジブル】と【フライ】を解いて森の中へ行って、赤坂たちに見える位置で、身振り手振りで「周りの木を倒せ」という指示を出す。


 それから1分もたたないうちに、やることを理解したらしい隊員たちは周囲の木を伐採して道路側になぎ倒すということを始めた。俺も【ソードビット】で周囲にあった木をすべて斬り倒して敵の周りに並べていく。


「……今度は何だ!?」

「なんで俺たちの周りに切り株が転がってきてんだ!」

『わからない。だが、このままだとパワードスーツが動けなくなりそうだ。なんとかならないか』

「クソが! ここは森林伐採の作業場じゃねぇぞ!」


 20本ほどの切り株を並べて取り囲んだら、あとは仕上げをするだけ。新田に合図をして【ファイアーブレス】を放ってもらう。

 ……すると、魔法で飛んできた炎で周囲の木に着火して勢いよく燃え上がった1 さっきこっそり【チェンジマテリアル】で切り株を燃えやすい木炭に似た物質にしておいたから火力はバッチリ。これでこっちまで巨人の腕は届かない!


「……これは」


 自分の方へ向かってきていた敵をすべて倒したのであろうレイが、突然起こった謎現象にボケーっとしている。敵数人と戦っていたら、いつの間にか残りが火柱で囲まれていたとなったら誰でも驚くから当たり前の反応か。


「おい! 水魔法だ、水魔法でこんなん消しちまえ!」

「おっと、そうはさせるか。【エレクトリックフィールド】」


 【ソードビット】で投げナイフを一本上空から侵入させて適当なところに刺して【エレクトリックフィールドを発動。炎の中から十数人単位の悲鳴があがってから一気に静かになったから、ちゃんと感電してくれたんだろう。パワードスーツもいい感じに軽い爆発音を響かせてくれた。


「おっけ……あとはこの一撃で!」


 再び【フライ】で上空に上がった俺は、魔法銃にありったけの魔力を込めて木偶の坊状態のパワードスーツに撃ち込んでやる。弾がその胴体を貫くと同時に派手な爆発が起こり、他の2機も誘爆して大きい爆発音が周囲に響き渡った。


 

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